27話 ミラ先生の個人授業
11日目も夜明け前から欠かさず剣術と歩行の朝練。特に一対多数に有効であることを期待して、【二刀流】に重点を置いている。
昨晩は考え事をして遅くまで起きていたので、寝不足になるかと思ったけど、ルリの子守歌のような鈴をコロがすような声を聴いていたら、いつの間にか眠ってしまっていたようだった。
そういえば、俺に付き合って遅くまで起きていたルリの方が、寝不足になってるかもしれないので心配になる。
「遅くまで付き合って起きていてくれたようで悪かったな、眠くないか?」
「昨日はクロセくんの寝息を聴きながら寝たら、ぐっすりよく眠れたようです。えへへ」
すぐ隣で掴まり立ちをして歩行の練習をしていたルリが、はにかむように笑い返してくる。
「そ、そうか。俺もルリのおかげで、いつもよりよく眠れたみたいだ。
それにしても、ゆっくりならだいぶ歩けるようになってきたな」
「クロセくんにもらった指輪のおかげか、私自身も【身体強化】スキルを取得したのでバッチリです」
「無理なんかして、転んだりするなよ。ところで、コロンのあれは……凄いな」
「はい。そうですね、さすが戦う【料理人】です」
「えい、や、たあ、とう、よっ、ほっ」
ひゅんひゅんと鋭い風切音をさせてコロンが両手に持っているのは、お気に入りの【魔法のおたま】と【魔法のフライパン】だ。
身に着けた魔道具に付与された【身体強化】と【料理強化】スキルのおかげなのか、【二刀流】っぽいその舞いが早過ぎて見えないほどだ。
お父さんも、負けないようにがんばらないとな。
◆◇◆◇◆◇◆◇
朝食を取って、今日は遅れないようにミラ先生の魔法教室に向かう。
今日は豊かに膨らんだ白いブラウスの一番上のボタンを外して、膝上丈の黒タイトスカートで椅子に座って生脚を組むという、男子高校生にとっては殺人的に目のやり場に困るスタイルで、ご自慢の黄色い☆マーク付き指差し棒で横から俺の脇をつつきまくってきている。
「はいはい、クロセくん。どこ見てるんですか、ちゃんと先生のお話を聴きましょうね? つんつん」
「先生、イタイ、イタイって」
「ハクロー、『今夜は先生と二人っきりで個人授業だぜ、うへへ』とか思ってないでしょうね」
「馬鹿言え。そんなことしたら、クラリス先生に氷漬けにされるって」
なんてアリスと漫才をしていると授業の成果なのか、突然のように【女神■■■■■■■の加護】による強制開放でアリスが【限界突破】スキルを取得していた。
「キター! これでLv10でカンストしてた属性魔法の、超位魔法が解放されたわ!」
「すごいです、アリスちゃん。だんだん人じゃなくなっていくみたいです!」
純粋な紅い瞳をキラキラと輝かせて大喜びのルリさんに、思わず苦笑するアリス。
「ルリ……それって、何だか嫌ね」
「こぉ~ん」
あ、こら、二人が変なことを言うから、コロンが悲し気に鳴き声を上げてしまったではないか。
その後は、続けていつものクラリス先生の楽しい園芸教室だ。
お花のお世話でルリがせっせと【魔法のスコップ】と【魔法のジョウロ】を使っていると、コロンが嬉しそうに笑う。
「これで、ルリおねーちゃんも【二刀流】でしゅね!」
「おおー、クロセくんと一緒です」
両手に持つ魔道具をぶんぶん振ってちょっと自慢気なルリの周囲に、あたりから光が集まるのを見てミラ先生が気がつく。
「これは……どうやら、木精霊と水精霊と土精霊がぼんやりとですが顕現してきているようですね」
「「「「おお~」」」」
自分も【魔法のおたま】と【魔法のフライパン】を取り出して見せていたコロンは、そのまま続けてクラリス先生のお料理教室の準備を始める。今日も、みんなの昼食も兼ねていたりする。
「そういえば、ハクローの今日のTシャツはどうしたのよ」
「あ、これ? コロンに一枚、寝るときに取られたままだから、自分で作ってみた。と言っても、ロゴを【時空錬金】で書き込んだだけだけど」
お気に入りのTシャツを取られると思ったのか、コロンが金色の瞳を彷徨わせる。あ、白銀のフワフワしっぽも丸くなってしまってる。
「うぅ……」
「はは、コロンから取り上げたりはしないから安心しろ。ただし、時々は洗濯するんだぞ」
「あい」
ほっとしたように、ニコ~と笑顔を見せる小さなコロンの白銀の長髪をなでる。
「何て書いてあるのですか? 異世界の文字のようですが」
胸の漢字『海人』を見て、ミラ先生が不思議そうに聞いてくる。
「『海の人』って意味だ。俺のファーストジョブの【サーファー】は海にいる人だから」
「そのまんまね」
アリスがまた呆れたとばかりに肩を竦めると、ルリはふんふんと頷いて見せる。
「なるほど、そうだったんですね」
「そう言えば王国の南部には海があるので、今度、時間ができたらみんなで行ってみるといいかもしれませんね」
クラリス先生が王国の地理関係を教えてくれると、ミラ先生も行ったことがあるのか追加情報をくれる。
「近くには近隣の国々でも最高学府と有名な、魔法学園もあるんですよ」
「わあ、私、学校に行ってみたいです。園芸部に入って、放課後は部活動をするんです」
そうか、海か。ルリが行きたいと言ってる学校もあるようだし、ここを出たらそこに行くのもいいかもな。
「それじゃ、ルリの体調が良くなったら行ってみるか?」
「もし行けるなら、物心ついてから初めての旅行になるのですっごく嬉しいです。えへへ」
少し暇な時間ができたので、昨日からのスキルアップの確認のため、久しぶりに【解析】でステータス確認をする。以前に比べると、ずいぶんと様変わりしている。
名前;ハクロー・クロセ(黒瀬白狼)
人種;人族
性別;男
年齢;15才
レベル;Lv12
職業;【サーファー】
スキル;【解析Lv3】(UP!)【時空収納Lv2】(UP!)【時空錬金Lv3】(UP!)【剣術Lv3】(UP!)【身体強化Lv3】(UP!)【二刀流Lv2】(UP!)【魔力制御Lv2】(UP!)【物理強化Lv2】(UP!)【限界突破】(New!)
エクストラスキル;【時空魔法Lv0.5】
ユニークスキル;【波魔法Lv2】
オリジナルスペル;【ソナー(探査)】【ビーチフラッグ(加速)】【波乗り】【ドライスーツ(防壁)】【HANABI(爆裂)】(New!)【ライフセーバー(救命)】(New!)
守護;【女神■■■■■■■の加護】【ルリの友達】
名前;ルリ・アイカワ(藍川瑠璃)
人種;人族
性別;女
年齢;16才
レベル;Lv10
職業;【幸運の■■】【勇者】【精霊使い】(New!)
スキル;【鑑定Lv10】【収納Lv2】(UP!)【身体強化Lv1】(New!)【料理Lv1】(New!)【付与Lv1】(New!)【結界Lv1】(New!)
ユニークスキル;【健康Lv2】(UP!)【親孝行Lv1】【友達Lv2】(UP!)
守護;【祝福の聖精霊】(New!)【祝福の光精霊】(New!)
名前;アリス・アカサカ(赤坂アリス)
人種;人族
性別;女
年齢;15才
レベル;Lv11
職業;【賢者】【聖女】
スキル;【遠見の魔眼】【未来視の魔眼】【火属性魔法Lv10】【水属性魔法Lv10】【風属性魔法Lv10】【土属性魔法Lv10】【氷属性魔法Lv10】【雷属性魔法Lv10】【聖属性魔法Lv10】【剣術Lv10】【身体強化Lv10】【魔力制御Lv10】【鑑定Lv2】(UP!)【収納Lv2】(UP!)【無詠唱】【教導Lv2】(New!)【限界突破】(New!)
オリジナルスペル;【ガストバズーカ】(New!)【ギロチン】(New!)【タイフーン】(New!)
守護;【女神■■■■■■■の加護】(New!)【ルリの友達】(New!)
名前;コロン
人種;獣人族
性別;女
年齢;10才
レベル;Lv6
職業;【料理人】
スキル;【調教Lv1】、【召喚Lv1】、【料理Lv2】(UP!)【格闘術Lv1】(New!)【身体強化Lv1】(New!)
守護;【女神■■■■■■■の加護】(New!)【ルリの友達】(New!)
昼食を取り終わったところで、侍女がアリスに来客を知らせてきた。驚いたことに大聖堂の枢機卿のようで、どうも昨日の不始末の謝罪に来たらしい。
「はぁ~、気が進まないけど。シスター・フランに迷惑をかけてもかわいそうだから、謝罪だけは受けて来るわ」
「アリスちゃん、がんばって」
「私って大人よね~」
ルリの応援に、嫌そうに首を振って答えるアリスが可笑しくて思わず苦笑してしまう。
「はいはい」
「ぶーぶー」
と、ぶーたれながらアリスは侍女に連れられて行ってしまう。すると、コロンが「ぴ!」と、しっぽを丸めて背中によじ登って震えはじめた。
「あ、もしかして高堂先輩だな」
辺りを見回すと、裏庭に面した廊下の先の曲がり角に顔を半分だけ出して、手をヒラヒラさせている高堂先輩が見える。
「怖いわ! あー、何であんなに怪しげに手招きするかな~」
「コロンちゃんは私が一緒にいますから、ここに置いて行っていいですよ」
「はあ~。わかった、ちょっと嫌だけど話だけでも聞いてくる」
大きなため息をつくとルリにコロンを預けて、怪しい招き猫のようにたたずむ廊下の先へと向かうのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「だいじょうぶですか? お水でもお持ちしましょうか?」
王都を出たばかりの馬車の中でシスター・フランがルリを心配そうに気遣う。隣には同じくコロンが心配そうにしている。
「平気です、……すみません。どうも初めて乗る馬車のこの激しい揺れがどうも……乗り物酔いのようです」
「ルリおねーちゃん、がんば」
すっかり涙目になっているルリだが、コロンはというと狐耳をピクピクさせるだけで、まったく平気なようだ。
「どのくらいで、クロセくんとアリスちゃんに追いつくんでしょうか?」
「私がルリ様をお迎えに来る少し前に枢機卿が来たとのことなので、そんなにかからないと思いますよ。少なくとも日が暮れるまでには合流できるはずです」
アリスが枢機卿に呼ばれ、ハクローも高堂先輩のところへ行ってしばらくして、病室に戻ったルリとコロンのところにシスター・フランがやってきたのだ。
アリスとハクローが神聖皇国の聖都に招待されて先に枢機卿の馬車で向かったので、ルリとコロンもシスター・フランの用意した馬車で一緒に後を追って合流してほしいと言うものだった。
昨日のお詫びというには少し強引だが、確かに聖都大聖堂に招待したいとも言っていたのと、一度みんなで旅行をしてみたいと言っていたので、シスター・フランに言われるまますぐに準備を始めてしまったのだ。
ハクローとアリスに追いつくためには、馬車を止めるわけにはいかないので、乗り物酔いのルリはしょんぼり、へにょんとなっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、王城の病室で俺が一人で右往左往しているとアリスが帰って来た。
「ハクロー、どうしたのよ?」
「二人がいない。身の回りの着替えも無くなっている!」
「え? どうゆうことよ。一緒にいたんじゃ」
「いや、アリスが言った後で高堂先輩に呼ばれて――そう言えば枢機卿は何だって?」
「聖都大聖堂に来いって言ってたわ」
「……今、どこにいる?」
「さっき別れたばかりだから……まさか」
「おや、お二人はまだ出発されていなかたのですかな?」
病室の扉を開けて声をかけてくるのは、さっきアリスが別れたばかりと言った枢機卿だ。
「どうゆうことよ?」
「お友達のお二人はシスター・フランチェスカと一緒に既に聖都大聖堂に向かって馬車で出たと聞きましたが」
シラッとうそぶく下卑たニヤケ顔の枢機卿の言葉に、瞬時にアリスが紅蓮の魔力を爆発させる。
「ひっ」
「死にたくなければ、もう一回言ってみなさい!」
すぐさま俺は蒼い魔力を暴発させるように拡散させて、最大半径の【ソナー(探査)】で周辺哨戒を始めると、索敵範囲ぎりぎりの王都郊外を出たところで二人のマーカーを見つける。
「見つけた! 遠すぎて今の俺では【チューブ(転移)】で届かないぞっ、何かいい魔法はないのか?」
「普通は飛行魔法の呪文で【フライ】とかになると思うけど……私は重力魔法を持って無いから使えないわよ」
スキル一覧を検索始めたアリスに、自分でも思考を加速させる。
飛行魔法、【フライ】、重力魔法か……光粒子も重力子の影響を受けて曲がるように、『魔素子』と重力子が影響しあうとすると……『魔素』の波動を空気中に伝搬させるのに合わせて、俺の固有振動の周波数と共振させて空間ベクトル合成……いけるか?
「アリス、できるかどうか分からないが。いや、やって見せるから手を握れ!」
「え? ちょっと。わ、わかったわ。ほら、あんたも来るのよ!」
「ひっ、何をするっ。ワシに何かすれば、二人は唯では済まんぞ!」
首根っこを掴まれて暴れる枢機卿を無視して、アリスの体を抱きしめて【時空収納】から取り出したサーフボードに片足を乗せる。
すると蒼い魔力が最大出力でジェット噴射のように吹き出し、左の二の腕のトライバルから浮き出た魔法陣が立体的に周囲を高速回転し始める。
「【波乗り】の改良版で【波乗り(重力)】起動!」
病室の床を踏み抜くように亀裂を入れ、窓からアリスを抱いてサーフボードごと空に向けて飛び出す。アリスの手には、首根っこを掴まれたままの枢機卿がぶら下っている。
「ぎゃ――――っ!」
「うるさい! 静かにしないと、落とすわよ!」
「ぃ――――っ!」
空中を重力に逆らって飛ぶサーフボードの上でさらに【ビーチフラッグ(加速)】を重ね掛けする。
【身体強化】スキルを持っていて【ドライスーツ(防壁)】をかけているアリスと俺は、それでも骨を軋ませる程度でなんとかなっているが、スキルも持たない枢機卿は手足を糸の切れた凧のように、プラプラさせて白目を剥いて泡を吹いてしまっていた。
「ハクロー、構わないから急いでぶっとばして!」
両腕で胸に抱いたアリスの叫ぶ声に、風を切って進む前方を親の仇のように睨らみつける。
くそっ! 昨日、『神』とだって戦うと誓ったばかりなのに!
その日、王都の上空を『蒼い光弾』が凄まじい轟音をあげて切り裂くことになる。それを見た王都の人々は、誰もが神々の逆鱗に触れて空が裂けたのだと、疑いはしなかった。




