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ミスリルハーツ ~サーファー、異世界へ~  作者: 珠乃 響(ゆら)
第5章 魔法学園編
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第5章44話 勇者アヴリルの真価


「ん、んんっ。え~、先日一身上(いっしんじょう)の都合で急遽辞職された前学園長の代わりに、新学園長のこの私が本日の実技授業で武闘大会の代表選考会を開催する。

 なお、前任者の約束を反故(ほご)にすることは当魔法学園の名誉にかけてできないことから、予定通りグレート・ロンデニウム王国騎士学園の代表選考への参加をとり行うものとする。

 選考方式は所要時間を考慮して、個人戦ではなく代表候補五名によるチーム戦とし――」


 朝一番からわざわざ練習場へとやって来た新学園長が、この短期間に次々と首を()げ替えられた三人目であることなどまるで気にしていないとでも言うように堂々と宣言する。

 それを一年生に混じって見つめる、ギラギラした殺気を隠すこともせずにニヤリと不気味に(わら)う【勇者】アヴリル王女の姿があった。


 昨晩遅くになってようやく、アーネスト騎士団長が地下牢から釈放されて来たのだが。

 公国の傭兵部隊(グリーン・ベレー)に引きずられるようにして、ボロ雑巾のように投げ捨てられた彼は、上半身裸でその背中には大きな魔法陣が焼き印されて気絶しており。

 とてもではないが偉大なる祖国グレート・ロンデニウム王国の騎士団長としての威厳(いげん)など、既にどこにも見当たらなかった。


 そのあまりの変わりように、出迎えた【勇者】アヴリル王女もバルドゥイーン王子でさえ唖然(あぜん)としてしまい、間違えて違う囚人奴隷が連れて来られたのではと現実逃避したくなったほどだ。

 しばらくして我に返って回復魔法で治療に当たるとともに、彼のステータスを【鑑定】させたところ、公王の宣言通りに全てのスキルが無くなっていて基礎レベルもLv1にリセットされてしまっていた。

 これで歴代最年少でグレート・ロンデニウム王国の次期将軍と呼び声の高かった、アーネスト騎士団長の人生も終わったも同然だった。


 その祖国の王城についてだが、この数日で現地から詳細の報告が断続的にだが届き始めていた。

 瓦礫に埋まり更地となった王城だが不幸中の幸いと言うべきか、その瓦礫の下敷きになった騎士団員をはじめ王城内にいた国王陛下他の要人は皆、重軽傷者はいるものの今のところ命に別状は無いとのことだった。


 どう手加減すればそのようなことになるのか、ハクローが魔法を使用した瞬間を目撃していたバルドゥイーン王子でさえ、神の御業(みわざ)としか思えないほど届けられて来る報告が信じられなかった。

 しかし偉大な祖国グレート・ロンデニウム王国の象徴たる王城を粉々に更地され、その高貴な尊厳を踏みにじられた【勇者】アヴリル王女はこれを幸いとは考えなかったようだ。


「モニャコ公国公王陛下から直々(じきじき)に、奴らへの接近を禁止されてしまったが。くくっ、(にっく)き奴らが魔法学園の在校生であったのは僥倖(ぎょうこう)だった。

 全ての武闘大会代表候補を残らず殲滅して、代表選考会の場にそのそっ首を引きずり出してやる。それなら公王陛下といえど口出しは出来まい、あははっ!」


 どう見ても完全に闇落ちした様子の妹に、それでも魔法学園の練習場内であれば最悪の場合も人死(ひとじに)にだけは至らないだろうと、兄としてまた王族としてもバルドゥイーン王子はホッと胸をなでおろすのだった。


 なぜなら父上――国王陛下達が亡くなりでもしていて、逆恨みした【勇者】アヴリル王女が暴走したり暗殺部隊でハクローたちに近づこうものなら、【剣王】を(よう)するモニャコ公国が黙って見ているはずがなく。

 下手をすると【剣王】一人に皆殺しにされ、その逆襲の勢いのままに祖国すら滅ぼされていたかもしれないのだ。


「どうして、こんなことになったのか……」


 ここ数日は顎髭(あごひげ)を伸ばしっぱなしに放置している、チョイ悪イケメンなバルドゥイーン王子のボヤキも(むな)しく響く。

 全ては最初に【精霊使い】ルリへの接触を失敗した自分自身の軽挙妄動(けいきょもうどう)が原因に違いなく、思わず死にたくなって練習場の観客席で頭を抱えるしかなかった。

 そのうえ未だに目を覚まさない彼女にもしものことでもあったら、アリスの言葉どおりに間違いなく祖国は海の藻屑(もくず)となり世界地図から消え去ることになるだろう。




「ふふっ、で君たちが代表候補二番手という訳ね。ちょうどいいわ、あいつらの前にウォーミングアップがてら叩き潰してあげる。

 ああ、最初に(あやま)っておくわ。(わたくし)、今日はとぉ~っても機嫌が悪いのよ」


 魔法学園の練習場には二手に分かれて、【勇者】アヴリル王女を含めたグレート・ロンデニウム王国騎士学園代表五人と今年一年生の中でも『黄金の世代ブロンディ・ペンタゴン』と(ちまた)(うわさ)の五人組が対峙(たいじ)していた。


「まあ(なん)て高貴なお姿、まるで美の化身のようですわ。あぁ、尊死しそうとはこういうことを言うのですわね」


 のだがロンデニウム出身の金髪ワンレンの魔術師マリーンは、自身が敬愛する祖国の英雄【勇者】アヴリル王女に杖を向けることなどできませんとばかりに、頬を染めて最後尾でモジモジしていた。

 一方で、帝国出身の金髪ボブのヒルデガルトにとっては、そんなことはどうでも良いことのようで。


何寝言(なぁにねごと)、言ってんのよ。あれは敵よ、テ・キ。手なんか抜いたら、あんたからたたっ斬るわよ」

「へへっ、だったらお前らは雑魚(ザコ)の相手でもしてろって。【勇者】は俺が倒す!」

「……え、ぼ、僕も出るの? でも、本戦ではエルフ国から代表も来るし」

「はぁ~、これは困りましたねぇ。まさか【聖剣】まで持ち出して来るとは……変なことを考えておられなければ良いのですが」


 でも金髪ショートのバウティスタは相変わらずの元気印で、最近は独り言が多い金髪ロン毛でエルフなラーシュ=エーリクはブツブツ言っているし。

 ただ金髪縦ロールのリュシエルだけは、【勇者】アヴリル王女の異様な雰囲気に警戒を強めるのだった。


 そんな練習場を取り囲む観客席の貴賓席では新学園長の隣席で、黒いネコ耳の日本人風イケメン【剣王】が腕組みをしながら、その漆黒の瞳を細く(きら)めかせてジッと(にら)みつけていた。


「【剣王】様からご覧になられて、今代の【勇者】殿は如何(いかが)ですかな?」


「ん~、【聖剣】振り回すだけの小娘かぁ。まあ、可愛い姪の命の恩人に(ろく)でもないことしやがった、騎士団長は手足の健を切り飛ばしてやったからもういいけど。

 この調子じゃ、このまま大人しくいなくなってくれそうに無いなぁ。あ、始まった」


 そうこうしている内に、代表選考戦が開始されたのだが。

 先の宣言通りに【勇者】に一対一を(いど)んだ金髪ショートのバウティスタは、得意の格闘戦のレンジまで接近する間もなく、光の【聖剣】で両手足を切断されてあっという間に地面に転がされていた。


「がっ……く、くそ!」


「ふふふ、何が『黄金の世代ブロンディ・ペンタゴン』よ。笑っちゃうぐらい弱っちくて、殺し損ねたじゃない。でも、まあちょうどいいわ。

 ねえ、あんた同級生なんだからハクローを知ってるでしょ? ここに呼びなさいな。そしたらキチンと殺し切ってあげるから、あはははっ~!」


 奇妙なほど明るい高笑いをあげながら、手足の無いバウティスタの胴体を【聖剣】で地面に縫い付ける【勇者】のその姿は、観客席にいた学生達をドン引きさせるに十分で。

 その一番近くでロンデニウム騎士学園の一人を切り倒した金髪ボブのヒルデガルトが、その勢いのまま凄い【加速】で【魔法剣】のレイピアごと激突して行く。


「バウティスタっ、(なに)簡単にやられてんのよ!」


「チッ、さっさとハクローを呼べばいいものを……邪魔だっ」


 王女様なはずの【勇者】アヴリルは品の無い舌打ちと共に、【聖剣】を突き刺した手足の無くなったバウティスタの身体を、【加速】しながら突進してくるヒルデガルトの剣先の直線上に放り投げる。

 そして【魔法剣】による連続刺突技で蜂の巣になったバウティスタの影から飛び出すと、すれ違うようにヒルデガルトの右手を【魔法剣】レイピアごと【聖剣】で切り飛ばしていた。


「ぎゃあっ」


「あははっ、(なぁに)あれぐらいで(ひる)んで(チカラ)抜いてんのよ? あれ、もしかして彼氏だった? 悪いことしたわね。

 でも今頃、医務室に無傷で強制転移されてるだろうから安心しなさいな。でも、仲間に殺されたトラウマは残っちゃったかもしれないけどねぇ?

 ほら、今度はあなたの番よ。さっさとハクローをここに呼びなさいな。ほら、ほらほら。じゃないといつまで経っても、死ねないわよ? きゃははは~」


 利き腕を武装ごと失ってプルプルと膝を小刻みに震わせる少女をいたぶるように、【勇者】アヴリル王女が今度はヒルデガルトの全身を死なない程度に【聖剣】で(つつ)き回し始める。


「ぎゃ、がっ、い”っ……や、やめっ、やめてっ」


何々(なになに)~、ほら早くハクローを呼ばないとぉ。あなたの子宮を切り刻んじゃうわよ?

 あなたも知ってるでしょ、ここの魔術結界で死亡判定を受けて医務室に強制転移されて無傷だったとしても、繰り返し身体と魂に刻まれた傷は癒えずにいつまでも幻痛(げんつう)として残り続けるそうよ?

 将来、あんたの子宮が幻痛(げんつう)で子供を孕めなくなっちゃ困るでしょ? ぎゃはは~」


 加速度的に高笑いのテンションを上げていく【勇者】であるはずのアヴリル王女に、練習場の観客席に集まっている生徒たちだけでなく教師たちまでもが顔色を青くする。

 すると後方でクレイモアとマン=ゴーシュの二刀流を駆使して、ロンデニウム騎士学園の二人を光の粉に変えて医務室へと強制転移させた、金髪縦ロールのリュシエルがあっという間に呪文を詠唱すると。


「フレアバースト!」


「チイッ……くははっ、その程度の上位範囲魔法ごときが魔術防壁の高い私に通用するとでも、あ」


 練習場の中央で爆炎が広がりその黒煙が風に流されると、傷ひとつ無い【勇者】アヴリル王女が舌打ちの後の高笑いを上げながらその姿をあらわすが。

 その時には目の前にいたはずの片腕を失い身体中を穴だらけにされたヒルデガルトの姿は無く、後にはキラキラと光の粉が風に舞っているだけだった。


「くそっ、フレンドリーファイアか! 小癪(こしゃく)なまねをっ、ならば次は貴様のば」

「コンシード!」


『ヒルデガルトさんの降参を確認。練習場から転移します』


「……え?」


 いたぶっていた玩具(おもちゃ)を取り上げられて激高した子供のように、【勇者】アヴリル王女が【身体強化】を使ってあっという間にリュシエルの目の前に接近するのだが、その時には審判の声と共に美しいカーテシーを見せながら、光の粉になって跡形も無く消えてしまっていた。


 後に残されたのは未だにモタモタと剣を合わせている金髪ロン毛でエルフなラーシュ=エーリクと、ロンデニウム騎士学園が一人、それに涙を溜めた目を見開き杖を(かか)えたまま生まれたての小鹿のようにプルプルと震える金髪ワンレンの魔術師マリーンだけだった。


「あ、アヴリル王女殿下……そ、そんな。そんなの嘘ですよね? そんな悪逆非道な……それではまるで【勇者】ではなく、【魔王】のようではないですか?」


「イヒヒッ、あ~貴様どっかで見たことあるぞ。確か我がグレート・ロンデニウム王国の国民だったわね。ちょうどいい、ハクローを呼び出す生贄(いけにえ)になってもらおうか? (なぁに)、ちょっと手足を切り刻んで身体中を穴だらけにするだけだ」


 それでも壊れた人形のようにケタケタと笑いながら、【聖剣】を向けて【勇者】アヴリル王女がゆっくりと近づいて来るので。

 とうとう魔術師マリーンは腰を抜かして後ろに()いずりながら粗相を始めて、恐怖のあまり泣き叫びながら攻撃魔法を闇雲(やみくも)に発動し始めてしまう。


「ひぃいいっ! あ、悪魔っ。【アイスジャベリン】、【フレイムバースト】、【アクアカッター】、【ロックガトリング】、【ウィンドバズーカ】!」


「言うに事欠いて貴様ぁっ! あははっ、その程度の魔法、高い魔術防壁を誇るこの私に傷ひとつ付けられんと知れぇ! まとめて消え失せろっ」


「「「ぎゃあ~っ」」」


 とうとうブチ切れてしまった【勇者】アヴリル王女は、着弾する攻撃魔法をものともせずに、【聖剣】に魔力を込めるとそのまま仲間ごと三人めがけて振り抜いてしまう。

 真っ白な閃光と爆音が練習場の魔術結界をビリビリと震わせるが、白煙と砂埃がおさまるとそこには、まなじりを上げて鬼の形相をした【勇者】アヴリル王女が一人でポツンとたたずんでいた。


『武闘大会の代表選考会が終了しました。グレート・ロンデニウム王国の勝利により、出場枠のひとつを獲得します』


 その練習場内アナウンスを観客席の(はじ)っこの末席で顔を真っ青にして震えながら聞いているのは、【勇者】アヴリル王女の要望をよく考えもせずに調子に乗り受け入れて武闘大会の代表選考への参加を許可してしまい、今回の騒動の引き金を引いてしまった前学園長だった。

 あの後、学園長室に戻るなり理事長に呼び出され、就任してたった数日で懲戒解雇を言い渡されて、お飾り官僚としても失脚することになった訳だが。


 それにしても自分の残してしまった眼前の負の遺産に、もはや涙で目の前が見えなくなってしまうほどだった。

 自責の念で嗚咽(おえつ)()らすぐらいには、この公国の官僚として祖国を愛していたのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おいおいおい、お前の妹君は大丈夫なのか? あんなんで武闘大会に出場されては、迷惑以外の何物でもないんだが」


 (せま)る武闘大会の突然()って()いた異例の代表選考会とのことで、一学年以外からの見学を許されてここにいる、生徒会長で騎士爵位持ちのヘルトラウダだったのだが。

 流石(さすが)にこれは無いだろうと、隣で茫然(ぼうぜん)としているチョイ悪イケメンな同級生バルドゥイーン王子に文句のひとつでも言ってやる。


 するとたった今、夢から()めたとでも言うようなボンヤリと視線を彷徨(さまよ)わせながら、一国(いっこく)の王子様はブツブツと(つぶや)き始める。


「……え、あ、ああ。あんな()では、あんな悪鬼羅刹(あっきらせつ)のような()ではなかったんだ……。みんなの期待を一身に背負ってそれを誇りに思える、そんな()なんだ。

 これで魔法学園が出場を許可した以上、もはや止められるのは父上――国王陛下しかいないことになるんだが。王城があんな有様では。

 どうしてこんなことに……こんなはずでは。こんなはずでは無かったんだ」


「何を言っているんだ、王子様。全ての原因は君にあるんだぞ。君が最初に失敗して、その是正をしくじったからこうなってしまったんだ。全て君の責任だ、今さら逃げるんじゃない」


 (あき)れたことに責任転嫁(せきにんてんか)を始めてしまう王子様に、全ての元凶であるお前だけは逃がさんとばかりに、生徒会長がその退路を(ふさ)ぐ。

 するととうとう目に涙を浮かべて鼻水を垂らしながら、チョイ悪イケメンな王子様は顔をグシャグシャにしながら肩を震わせるのだった。


「……す、すまない。でも、ありがとう。こんな俺にも何かできることが、妹にしてやれることがあるんじゃないかと思わせてくれて。本当にありがとう」


 別にそんなつもりで言った訳では無いのだがなと思いながら、今日も学園を休んでいるハクローたちのことを考えて、早くルリちゃんが目を覚ますといいなぁと雲ひとつ無い真っ青な空を見上げる生徒会長だった。


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