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ミスリルハーツ ~サーファー、異世界へ~  作者: 珠乃 響(ゆら)
第1章 異世界召喚編
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13話 波乗り


 5日目の早朝、夜明け前から日課となってきた剣術の朝練。


 昨日折ってしまった剣の代わりも、ありがたいことにアリスがどこからか借りて来てくれていた。ありふれた片手剣みたいなので騎士団の予備在庫だろうか。今度、鍛冶屋にでも行って、買って返すか。


 そういえば、今朝起きたときのルリの様子がぎこちなかったので、朝のステータスチェックで確認したところ、予想通り【友達】スキルでルリは大量の経験値を取得したようで、基礎レベルがLv4にアップしていた。

 パーティーのメンバー間距離の効果範囲は少なくとも王都の郊外ぐらいまでは問題とはならないようだ。


「クロセくん、なんだか身体が軽いよ!」


「元からが軽すぎるんだ――ああ、まずい。ほら、しょんぼりするな、悪かったって。基礎レベルが上昇したことで、隠しパラメーターの筋力とか持久力の関係も上昇したんだと思うぞ。

 これから少しづつリハビリしていけば、【身体強化】のスキルとかも取得できて、もっと身体が軽くなると思うからさ」


 失敗した、どうやって機嫌を直してもらおうか。

 あわてて、なでなで、なでなでと、しょげてしまったルリの白髪(しろかみ)の頭をなでながら、それでも今までのことが信じられないような夢の将来に向けて、二人で期待に胸を(ふく)らませる。


「えへへ。早く元気になってみせますね」


 紅い瞳を細めてやわらかく微笑みながら、ようやく自分で持ち上げられるようになったものの、まだまだ細い両手で握りこぶしを作って見せる。


「ああ、だからご飯もいっぱい食べなきゃな。今日の朝食は卵焼きだ。サニーサイドアップで良いか?」


「片面焼きのトロトロ半熟(はんじゅく)で! お醤油(しょうゆ)がほしいなぁ。たまに、ウスターソースも捨てがたいんだよねぇ」


「あー、いいねぇ」


 二人で懐かしい調味料に思いを()せる。どっかにないかな……あ、そうだ錬成できないかな。確か俺もちょっとだけレベルアップしていたな。



名前;ハクロー・クロセ(黒瀬白狼)

人種;人族

性別;男

年齢;15才

レベル;Lv8

職業;【サーファー】

スキル;【解析Lv2】【時空収納Lv1】【時空錬金Lv2】【剣術Lv2】(UP!)【身体強化Lv1】【二刀流Lv1】(New!)

ユニークスキル;【波魔法Lv2】(UP!)

オリジナルスペル;【ソナー(探査)】【ビーチフラッグ(加速)】

守護;【女神■■■■■■■の加護】【ルリの友達】



 朝食後にやって来たアリスに、魔法を使った防御スキルのイメージがうまくいかないので、まずは試しに水魔法を教えてもらうことにする。属性魔法のスキルは持っていないが、【サーファー】なら火よりは水の方がちょっとでも相性がいいだろうということらしい。


「水道の蛇口(じゃぐち)(ひね)るようにして、ぐぐぐっと来てどっぱぁーんと……何よ」


「いえ、何でもないです」


 どうもアリスは最初からスキルレベルがLv10でカンストしていたためか、初級の魔法理論を教えるということができないようだ。感性というか、身体で覚えろということらしい。

 そう言えば、アリスがスキル【教導Lv1】を習得した【剣術】指導も、ひたすら剣で打ち合っていただけだった気がしないでもない。


 きれいな顔で脳筋体育会系なことを言ってこちらを(にら)むアリスを見て、こうゆうのを残念美少女というのかと思い知る。

 どうやら、ぼちぼち慣れていくしか無いようなので、今日もルリにお留守番を頼んで、冒険者ギルドに向かうことにする。


 もちろんアリスも【ルリの友達】スキルを使ってパーティー登録してある、のだが。


「また、ハクローがルリのパーティー登録の初めてを奪ったぁ!」


「ぽ!」


 しかたないだろう、昨日はアリスいなかったんだし。それにほら、ルリがテレテレし始めているから、そうゆうのやめろ。


「二人とも気をつけて、いってらっしゃい」


「ああ、いってくる」


「いってくるねー」


 昨日も見た光景、長い白髪(しろかみ)を風に揺らせながら紅い瞳を細めて、ベッドに座り微笑む少女。ひらひらと振るその手は昨日よりも少し高い胸の位置だった。


 ルリが「いってらっしゃい」と言って送り出してくれる、その場所に向かって俺は帰って来る。




◆◇◆◇◆◇◆◇




 冒険者ギルドに行くと、いつものようにクエストボートを確認してから、受付の女性に常時依頼の『採取クエスト』に行くことを伝える。

 この二日間(ふつかかん)の高エンカウント率については、特に何ということも無いようなんだが。たまたまなのか、気のせいだといいんだが。


 そんな考え事をしていると、後ろから声をかけられた。


「お前か? 大森林から三人の遺体を持ち帰ったってのは」


 前にアリスにふっ飛ばされた、ガラの悪い冒険者2人組だ。(さげす)むように紅と蒼のオッドアイを細めて、腕組みをしたアリスがゆっくりと振り返って。


「立ち絵も無いモブキャラごときが、何の用よ」


「何か分からんが、凄いバカにされているようでスゲー頭にくるな、それ」


「あ、確かゴン、ゴン……ゴン」


 首を(ひね)りながらも名前を思い出すのを(あきら)めた俺に、冒険者ギルド受付の女性が後ろから助けてくれる。


「ゴンザレスさんですよ。ああ見えて、若い子達の面倒見は良いはずなんですけどね」


「もう、ゴンでいいよ。それより、わざわざ森の中から三人の遺体を連れて帰ってくれて感謝する。ありがとうな」


 ガラの悪い二人が照れるように、しかし真摯(しんし)な態度で頭を下げる。


「いや……」


 結局、俺は間に合いはしなかった。


「ハクロー、あんた昨日何やったのよ」


「……別に」


「昨日の朝あの三人と()めてたから、お前が殺したんじゃないのか!」


 すぐそばに指をさして叫びながら、冒険者にしてはまだ装備の整っていない少年が詰め寄って来ていた。


「誰?」


「知らない」


 アリスと小声で話していると、受付の女性が間に割って入って来る。


「三人のご遺体は私もこの目で確認しています。身体の一部に大きな牙の歯形が残っていました。それに他のパーティーには、三人だけで森の奥に入って行くのを目撃されています。

 そもそも、あなたが言われているように殺したのであれば、わざわざ遺体を持ち帰って報告する必要は無いはずです」


 そうだ、少女達は二人共、胸の片方を大きな犬歯の(あと)を残して食い千切(ちぎ)られていた。どうも狩りの成果を魔物が仲間に誇示(こじ)する習性があるためと、ギルドの職員が言っていた。


「くそっ!」


 そんな少年は年季と格が違う冒険者ギルドの受付の女性に簡単に言い負かされて、逃げるようにギルドから出て行ってしまった。


「彼はパーティーが別なのですが、亡くなった少女の一人と同郷の村の出身なんだそうです」


 受付の女性がそんな余計な個人情報をぽろぽろと漏洩(ろうえい)してくれる。全体的にこの冒険者ギルドの危機管理能力が心配になってきて、天井を見上げてしまうのだった。




◆◇◆◇◆◇◆◇




 王城の外壁を抜けて、二人で森の入り口へ向かって街道を進みながら、ぶつぶつと水魔法について考えていると、アリスが空に透明な【剣杖】を突きあげて大きな声で叫ぶ。


「今日は、昨日のうっぷんを晴らすためにも、大暴れするわよ!」


「おー……」


「じゃ、森に薬草刈(くさか)りに、レッツゴー! ふんふん、ふんふん」


 無造作に神話級【剣杖】をくるくる回しながら、鼻歌を歌って()ねるように歩いて行くアリスの後をトボトボと追う。




「んで、今日はオークの集団かぁ」


 街道から森の入り口に入ったばかりの所で、豚の顔をした人型の魔物であるオークの団体さんとご対面ときた。ホントにどうなっているんだ、このエンカウント率は。


「でたな、女性の敵! 心置きなく成敗(せいばい)してくれるわよ!」


 繁殖(はんしょく)のために人間の女性を(さら)う習性があるという魔物――オークの出現に、アリスは【剣杖】をオークに向けて突き出して()る気満々といったところだ。

 とりあえず、もう一度【ソナー(探査)】を範囲最大で使って、いったい周囲に全部で何匹いるのか確認してみる。

 

「あれ? ホントに誰か(さら)われているっぽいマーカーがあるぞ」


 アリスも【遠見の魔眼】で指差す方向を確認する。


「あれは……修道服のようだけど、教会のシスターかしら。

 まずいわ、一人(ひとり)だけ森の奥に連れて行かれてるみたい。突破するわよ!」


 言うなり駆け出すアリスに(あわ)ててついて行く。


「ダブル【ガストバズーカ】! 【加速】!」


「【ビーチフラッグ(加速)】!」


 アリスの二重上位風魔法で蹴散(けち)らされて隙間(すきま)の開いたオークの隊列にめがけて突進し、すれ違いざまに首に向かって片手剣を横薙(よこな)ぎに振るう。


 ガタイが大きいからか、昨日のゴブリンよりも硬い感触が手に伝わる。まずい、剣が折れるのが早いかもしれない。途中でオークの剣を持つ手首を切り飛ばして、その()びた片手剣を左手で奪う。

 二本となった剣を振り回しながら、先行するアリスを追って突進を続ける。


「見つけた、やっぱり修道女みたいね。教会のシスターだわ! うわ、何よあの胸……」


 引きずられているシスターを見て、思わず足を止めたアリス。


 きれいな長い金髪をのぞかせて、ゆったりしたみずいろの修道服を着てはいるが、それでも強調されているのはその窮屈(きゅうくつ)そうな胸の大きさだ。


「確かにオークが全員でシスターだけを見てるな」


 オーク達は極上の獲物であるシスターに夢中なようで、こちらに意識を向けることさえしない。(すご)いな、その生殖本能(せいしょくほんのう)


 ぷるぷると震えていたアリスは、自分の胸を押さえて魂の叫びを(とど)かせる。


「何よ、皆殺(みなごろ)しにするわよ!」


「味方はやめろよ」


「何でキャラ設定で、胸だけ忘れちゃったのよ! キーッ、許さない。八つ当たりだー! 乙女(おとめ)鉄槌(てっつい)を受けてみろーっ! 上位風魔法の【タイフーン】をくらえ!」


 シスターを引きずっていたオークを腕ごと袈裟切(けさぎ)りにして助けると、自分達の周囲の木々ごとオーク達をアリスの魔法がその(すさ)まじい暴風で()ぎ倒す。

 おお、自然破壊レベルの範囲攻撃魔法だ……乙女(おとめ)逆恨(さかうら)み恐るべし。


「アリスの胸は元の世界のままの、オリジナルということか」


「そこっ、うるさい!」


 【タイフーン】が生み出す台風の目の中でシスターに怪我が無いことを確認してから、特大範囲魔法が消えるまで――と世間話を始める。


「確かに髪と瞳はカスタマイズしたって言ってたけど、顔とか身長は変更しなかったんだろ?」


「お父さんとお母さんにもらった顔を変えるわけないじゃない。身長は変えると、身体の取り回しが難しくなるからNGなのよ」


「ふーん、カスタマイズでプチ整形でもしているのかと思った。元からお人形のような綺麗な顔立ちをしていたんだな」


「な、何よ! そんなこと言っても、何も出ないわよ!」


「はいはい」


 少しだけ顔を赤くして、ぶんぶんと【剣杖】を振るアリス。暴走していた意識も、少しは落ち着いたか。


 上位風魔法で撃ち()らした残りのオークの首を【二刀流】で狩って行く。剣を折っては、奪った剣に持ち替えて、オークの首を殴るように斬り続ける。

 途中でとうとうさばき切れなくなって、両手が(ふさ)がっているときに目の前に(せま)ったオークに『波』がぶつかり、その巨体を後ろへと押しやる。


――オリジナルスペル【波乗り】を取得しました。


 聞き逃すことの多い脳内インフォメーションをめずらしく聞き取り、ようやく攻撃魔法を手に入れたことに気づく。


「お、これは――【波乗り】!」


 周囲のオークの身長ほどある高い波が、オークを()ぎ倒して押し流す。敵との距離が空いたことで、【ビーチフラッグ(加速)】を使いオークの首を斬っては加速し、斬っては加速を繰り返すことができるようになっていた。


 数が減って来たところで、ためしにサーフボードを出して久しぶりに自分で作り出した『波』に乗ってみたが、何か違った。急な軌道変更ができないので木にぶつかりそうになるのだ――森の中であたりまえか。

 あ、アリスさんがアホの子を見る目で、こっちを(にら)んでいます。




 結局、26匹のオークを倒し切ることになった。最後には拾う剣も無くなり、折れた剣で殴り殺すことになっていた。


 アリスに打撲や小さな切傷(きりきず)を【ヒール】で(なお)してもらいながら、助けたシスターに話を聞こうと近づく。

 やわらかなみずいろの修道服から長いペールブロンドのぱっつん姫カットをのぞかせた、透き通るような碧い瞳の童顔でたぶん美少女だ。


「あ、あの、もしや『女神様のおつかい』では?」


 挨拶も抜きにして祈るように、逆に変なことを聞かれていた。


「『女神の御使(みつか)い』ではなくて、()()()()?」


「何を言っているのですか、『女神様の御使(みつか)い』は天使様です」


 シスターの言葉に、事務仕事が得意そうな五人組の小さな天使を思い出してしまった。


「あー、あれかぁ……いや、俺達は違うと思うよ」


「ああ、すみません自己紹介が遅れました。神聖教会でシスターをしています、フランチェスカといいます。フランとお呼びください」


「【賢者】で【聖女】の赤坂アリスよ。アリスでいいわ」


「【聖女】様でしたか! それでは、『女神様のおつかい』はあなた様なのではないですか!」


 物凄(ものすごい)い勢いで食いつくように(せま)って来られて、たじたじとアリスが一歩下がる。


「い、いいえ、違うわよ」


「そうですか……」


 見るからにがっくり落ち込むシスター・フラン。


「あー、おれはハクロー。ただの【サーファー】だ」


「さーふぁですか? あ、はじめまして。本当に危ないところを助けていただきありがとうございました」


「何で森の中に一人で?」


「隣の村に教会のお仕事で行った帰りに、街道でオークに(さら)われてしまって」


「とうとう街道にまで、魔物が出てきているのか。やっぱり、それでも多くないのかな」


「危うく繁殖(はんしょく)のための苗床(なえどこ)にされるところでした。女神様に感謝を」


 両手を胸の前で握りしめ、あらためて祈りのポーズをとるシスター・フラン。


 その両腕で押し上げられ、たっぷりと盛られている豊満な塊を見て、(ほほ)をひくひくさせたアリスが自分の胸を白銀プレートの上から押さえながら、反対の手でそれを指差し震える声で問いかける。


「な、何がそんなに詰まっているのよ」


「女神様への信仰です!」


 えっへん、とシスター・フランが強烈に(ふく)らんだ双丘をこれでもかと()り返えらせて見せる。

 その衝撃にフラフラとよろめくアリスの肩に手を置いて、小さなため息と共に聞いてみる。


「アリス、お前は信仰心が薄いんじゃないか?」


「ほっといてよ、うちは仏教よ!」


「【聖女】がそれでいいのか?」


「ますます、うっぷんが()まったじゃないのよ!」


「うっぷんで胸は(ふく)らまないもんな」


「うっさい! ハクロー、オークの集落を見つけるわよ! 索敵(ソナー)用意!」


「へいへい、【ソナー(探査)】……」


「え? え?」


 戸惑うシスター・フランに、もう少し送って帰るのに時間がかかることを説明してあげる。


「これからオークの集落を見つけて殲滅(せんめつ)するから……あ、見つけたっぽい。

 微量な魔素の反射波の検波に慣れて来たのか【ソナー(探査)】に索敵(さくてき)範囲が最初の頃より随分(ずいぶん)と広くなってる。

 他に、人は……捕まってないようだな」


 アリスにオークの集落のある方角を指差しながら、最終確認を取る。


「私も【遠目の魔眼】で見つけたわ。よし、乙女(おとめ)の怒りを思い知れ! ダブル【タイフーン】!」


 轟音(ごうおん)を上げて森の奥地を天災のような自然破壊が(おそ)い、暴風と共に木々を()ぎ倒しその猛威(もうい)を振るう。


「え? ええ~?」



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