玉座の前室
城の中は結構薄暗い。
相変わらずやる気のない矢印を辿っていくと、ようやく謁見の広間らしき場所に着いた。
立派な扉の前に10人ほどの勇者が並んでいる。
行列に並ぶのは嫌いなんだが、仕方がない。
係の兵隊らしき人物に整理券を渡すと、よしソコに並んでいろ的ジェスチャーをされた。
三分おきくらいに部屋の扉が開き、ひとりずつ広間に通されるようだ。
すると、大体30分後か・・・・
ふと後ろを見ると、広場で見たクラ○ドさんが俺の後ろに並んでいる。
ヒマだし、ここは勇気を持って話しかけてみよう。
「あの、ク○ウドさんですか?」
「俺の名前は・・・・ストームクラウド・・・・」
完全に『入って』いる。
ここまでロールプレイ出来る事が、ある意味うらやましい。
「俺は・・・・マサムネと呼んで下さい」
「そう、かんけいないね」
「あ、そのセリフは別の世界のセリフですよ」
「よしなよ・・・・」
現在のように理不尽な世界へ放り出されてしまったら、彼の様に『なりきって』しまった者勝ちだ。
事細かに、何故、どうして、どうなっているのか、と思考していたら頭がおかしくなってしまう。
暫くストームクラウドとロールプレイをしていたところ、城の外で会ったゲルマン魂のにじみ出る騎士が近くを通りかかった。
「おお、来たな。頑張れよ」
回りの一般兵が敬礼しているところを見ると、この人物は結構な身分らしい。
大物が俺の事を覚えていて、激励してくれた。
つまり、俺は一緒に並んでいる量産型勇者とは格が違う、選ばれた英雄って訳だ・・・・あれ?
ゲルマン魂の騎士は俺の前に並んでいる連中にも、同じ言葉を投げかけて、大広間の中へ入っていった。
俺の脇に居たヒラの騎士が薄笑いを浮かべて、
「陛下の弟君、ビッテンフェルト公爵は、別け隔てなく勇者に声をかけ、激励なさるのだ」
と、慰みにもならない言葉を投げかけてきた。
俺が暫く呆けていると、いつの間にか順番になっていた。
扉が開く。