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名も無き戦場  作者: 六花
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レイ編第一話「暁光の月 一の日」

朝だった。


正確には、いつもと変わらない朝だ。


荷馬車の整備を終え、出発の準備を進める。


風は少し冷たい。


悪くはない。


「……また少し遠くまで行くか」


誰に向けるでもない独り言だった。


レイは酒瓶を軽く揺らす。


中身はまだ残っている。


朝から飲む理由も、やめる理由も特にない。


(生きているなら、それでいい)


それ以上の意味は求めない。


この世界は単純だ。


危ないものは危ない。

死ぬやつは死ぬ。

生き残るやつは生き残る。


それだけで十分だった。




荷を確認する。


食料、水、交換用の品。


そして、空いた荷台。


「まだ余裕はあるな」


小さく呟く。


馬の手綱を取り、森へ向かう道へ進む。




森に入る前、違和感があった。


(いる)


視線の前に出るより先に気配で分かる。


レイは馬車を止めた。


剣を抜く。


「アブナイ」


必要以上に説明する気はない。


伝わればそれでいい。


伝わらなくても構わない。


茂みが揺れる。


獣だ。


数はあるが、小さい。


(またか)


面倒ではない。


ただの処理だ。


飛びかかってくる。


レイは一歩踏み込む。


一体目を斬る。


次。


もう一体。


動きに迷いはない。


いつも通りの作業だ。


後ろで、気配が動いた。


拾った男だ。


避けている。


見ている。


動いている。


(生きている)


それだけで十分だった。


戦闘は短く終わる。


森はすぐに静けさを取り戻した。


レイは剣を収める。


血を払う。


そして酒を飲む。


終わりだ。


後ろから何か声がした。


意味は分からない。


だが、悪いものではないことだけは分かる。


(どうでもいい)


そう思いながらも、完全に切り捨てる気にもならない。


レイは横目で一度だけ振り返る。


男は生きている。


壊れてはいない。


「……別に」


そう呟いて前を向く。


馬車は再び進み出す。

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