6話 二人
そんな日々が続いた、ある日だった。
空は猫屋に呼ばれ、猫屋隊の隊室を訪れていた。
扉を開けると、そこにはすでに美景の姿があった。
銀の長い髪が、蛍光灯の下で静かに光を返している。
「……白雪」
空が短く呼ぶと、美景も小さく視線を向けた。
「蒼月くん」
それだけのやり取りを交わして、空は美景の隣へ並ぶ。
少し前までなら、こうして同じ場所に呼ばれること自体どこか落ち着かなかっただろう。
けれど今は、任務や訓練で顔を合わせることも増え、以前ほどのぎこちなさはなかった。
もっとも、気まずさが完全に消えたわけではない。
空は軽く息を吐き、正面を見る。
机の向こうでは、猫屋がいつもの調子で手元の書類をぱらぱらとめくっていた。
その傍らには、飲みかけらしいコーヒーの紙カップが置かれている。
「二人とも来たね」
猫屋は顔を上げ、にこりと笑う。
「今日二人に来てもらったのは、任務の話なんだけど」
そこで一度だけ言葉を切った。
「その前にひとつ、話があって」
空と美景が自然と猫屋へ視線を向ける。
猫屋は相変わらず軽い口調のまま、続けた。
「しばらくの間、二人で任務にあたってほしいんだよね」
空がわずかに目を細める。
その隣で、美景が先に口を開いた。
「二人で、ですか?」
「うん、そう」
猫屋は頷く。
「最近、異形が爆発的に増えててね。人手不足が悪化してるんだ」
言いながら、書類の束をひらひらと揺らす。
「僕もこの後、任務に飛び回らないとだし」
その声音はいつも通り軽い。
けれど、その内容が軽くないことくらいは空にも分かった。
異形の増加。
人手不足の悪化。
それはこれまでの任務や、隊室の空気の端々からも何となく感じていたことだった。
猫屋はそのまま続ける。
「だから二人にも本格的に任務に入ってほしいんだけど、片や新人、片やBランクなりたてだから単独はさすがにね」
美景は黙って聞いている。
空も何も言わなかった。
言いたいことがないわけではない。
けれど、内容としては筋が通っている。
猫屋は最後に、いつもの調子でまとめた。
「というわけで、二人セットで行ってほしい」
短い沈黙が落ちる。
その静けさを先に破ったのは、美景だった。
「私は異論ありません」
迷いのない声音だった。
空はその横顔を一瞬だけ見る。
それから、自分も短く答えた。
「僕もです」
猫屋が満足そうに頷く。
「うんうん、話が早くて何よりだよ」
それから椅子に背を預け、二人を見比べるように笑った。
「じゃあ、よろしくね」
その言い方はあまりにも軽い。
けれど、そこに含まれる意味は軽くなかった。
空は小さく息を吐く。
しばらくの間、美景と二人で任務にあたる。
それはつまり、これまで以上に一緒に戦い、一緒に動くということだ。
空は隣に立つ美景を、横目でほんの一瞬だけ見る。
美景もまた、猫屋の方を見たまま、静かに立っていた。
その横顔に浮かぶ表情は読み取りにくい。
けれど少なくとも、嫌がっているようには見えなかった。
それだけで、少しだけ胸の奥が静かになる。
猫屋はそんな二人の空気を見てか見ずか、書類の山を軽く叩いた。
「じゃあ、早速だけど一件目の話をしようか」
隊室の空気が、少しだけ引き締まる。
空は背筋を伸ばした。
ここから先は、もう実際の任務の話だ。
訓練でも、同行でもない。二人で動く前提の、本格的な仕事。
そう思った瞬間、胸の奥に小さな緊張が走る。
けれど、その緊張の隣には、ほんの少しだけ別の感覚もあった。
一人ではない、という安堵だった。
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