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四人でいることが、日常だった ――名前のない楽園――  作者: いもたにし
第二章 外側の夏、内側の夏

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真夏の喜劇

――side. 井神 凉――


砂浜に足を踏み入れた時点で、周囲からの視線の量がはっきりと変わった。

別荘から下りてきた時とは、明らかに違う。もう、外側の空気がざわついている。


そんなことは意に介さず、俺と隆一は手早くビーチテントを設営し、陣地を確保する。


「じゃ、着替えてくるわね」

「待っててねー」

「すぐ戻ります」

「二人とも、浮き輪よろしく」


そう言って、女子四人は連れ立って更衣室の方向へ向かった。

残されたのは、俺と隆一。

視界が広く取れる場所を選んで腰を下ろす。


「……お前、めっちゃ見られてるぞ」

「……いや、見られてるのはお前のその無駄な筋肉だろ」


人も、視線も。特に、俺たちが座った周囲を遠巻きに窺っている。

もちろん、俺たちの存在も理由の一つなことは否定しないが、一番の理由は、さっきまでここに"あの四人"がいたからだ。


隆一は、手と足を器用に使い、二つの浮き輪に空気を送り込みながら、遠くを見るように砂浜を見渡している。


「……ほんと助かるよ。色々な意味で」

「おうよ」


カモメの鳴く声が、波音に混じって遠くで響いていた。



――


突如、空気が変わった。

周囲のざわめいた視線が、ある一点に吸い寄せられている。


更衣室の方から、四人が戻ってきた。


玲茄。

ところどころにチェーンがあしらわれた黒のホルターネックビキニ。非常に派手なデザインのはずなのに、彼女が着ると決して品が崩れない。その圧倒的なスタイルと相まって、凄まじい存在感を放っている。


茉依。

少し遊びのあるフリルビキニ。普段の可愛らしさとマッチした明るい色合いで、歩くたびに揺れるフリルに思わず目を奪われる。


悠希。

身体のラインがはっきりとわかるモノキニのワンピースタイプ。淡く上品なデザインが、彼女の静かな色気をそのまま映し出している。


そして白峰。

機能性を重視したタンキニだが、彼女のボーイッシュな可愛らしさを十分に引き出している。それでいて、女性らしい柔らかなラインも損なわれていない。


「めっちゃくちゃ似合ってるな」

「めちゃくちゃ似合ってるぞ」


俺と隆一は、ほとんど同時に口を開いた。

四人はそれぞれ視線を交わし、満足そうに微笑む。


「ふふっ、ありがとう」

「ありがとー」

「ありがとうございます」

「ボクも、なんか照れるね」


いつもより、少しだけ上気した暖かい温度で。

けれど、いつも通りの六人が、確かにここにいる。



――


その時だった。


「ねえねえ」


軽い声。だが、嫌味の無い、カラッとした印象。

日に焼けた二人組の男。年は、俺たちより少し上か、同じくらいだろう。


「一緒に遊ばない?」


言葉自体は、ありふれている。悪意も、過剰な下心も感じられない。


「ほら、そっち男二人で女の子四人でしょ? 俺ら二人が混ざれば、ちょうど男四人、女四人でバランスいい感じじゃん?」


なるほど。そういう計算か。

だが――


隆一が、瞬時に半歩前に出る。

威圧するような大きな動きじゃない。ただ、自然に相手の視界を遮る位置へ。


「悪い。今、満席なんだ」


隆一の低い声と同時に、俺も四人を背で庇うように、ほんの少しだけ前へ移動した。

相手の視線が、ピタリと止まる。

二人組の男は、俺たちの空気に一瞬飲まれつつも、食い下がろうと言葉を探す。


「いや、もしよかったら、でいいからさ。どう?」


この手のタイプはどう処理するか。

隆一と一瞬だけ目が合う。

方針は、決まった。


「あー、言いにくいんだけど」

隆一が頭を掻きながら、親指で俺を指し示した。

「実はさ、ここの女の子たち全員、こいつのなんだよ」


「……ああ」

俺も、瞬時にそれに乗る。

隆一の広い肩にポンと手を乗せ、二人組の男たちをねっとりと熱っぽく見つめ返した。


「でも、俺は特にこいつが一番タイプなんだ。……あんたたちも、なかなか好みだぞ。どうだ?」


二人に妖しく微笑みながら、爽やかにウインクを飛ばす。

直後、後ろから空気が漏れるような音が聞こえた。


「……ぶはっ」

「はっはっは! なんだそれ!」


二人組は一瞬ポカンとした後、耐え切れずに吹き出した。


「わかったよ、あきらめるよ! はっはっは!」

「笑いすぎて腹いてぇ……悪かったな、お前らのアツい仲を邪魔してよ!」


腹を抱えて笑いながら、二人はそのまま別の方向へ手を振って歩いていった。



――


後ろを振り向くと、四人が肩を震わせてぷるぷるしていた。


「……もう大丈夫?笑っていい?いいよね?あははははは!」

「『どうだ?』の言い方がガチすぎて、お腹いたいよー!」

「お二人は、やっぱりそういう関係だったんですね……ブフッ」

「ボクは許すよ……ひっ、ひひっ……あははは!」


全くそっちの気はない。

でも、隆一の仕上がった筋肉は素直にうらやましいと思うことはある。

思わず、じっと隆一の上半身を眺めてしまう。


「やだ……本気で狙われてる……?」


隆一が、両腕で胸を隠して本気で怯えたような仕草をとった。

それを見た四人が、また腹を抱えて笑い出す。


……こんな時間も、いいな。

眩しい水平線を見つめながら、俺は心からそう思った。


――


一連の流れを見ていた周囲の人たちは、繰り広げられた唐突な喜劇を堪能し、笑い、興味を失って離れていく。

ざわついていた空気は、再び波の音に溶けていった。


「なんか、楽しそうだな」

それくらいの無害な印象だけを残して、砂浜は、またそれぞれの時間に戻っていった。

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