表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/71

蒼色のプレリュード

――side. 井神 凉――


駅を出た瞬間、世界を包む"色"と"音"が塗り替えられた。


潮の匂いを含んだ湿った風。

容赦なく照りつける日差し。

遠くから波の音に混じって聞こえてくる、断続的な笑い声。


海は、音が多い。

さっきまでの、空調の効いた車内の静けさが嘘みたいに薄れていく。

改札を抜けたあたりから、人の流れも、熱気も、明らかに別の街のそれだった。


「こっちだ」


隆一が指したのは、海沿いの坂道を少し登った先だった。

人の流れから外れ、喧騒が背中に遠ざかっていく。


門を開けた先にあったのは、隆一の家族が所有しているという別荘だった。

新しめではあるが、周囲の景観に馴染んだ落ち着いた佇まいだ。六人で過ごすには、十分すぎるほどの広さと風通しの良さがある。


「一応、念のために確認だけど」

隆一がリビングに荷物を置きながら、俺たちを見た。

「お前ら、洋室より和室だよな。……一間でいいんだろ?」


「もちろん」

「畳しか勝たん!」

「和室一択ですね」


食い気味の即答だった。


「相変わらずだね、キミたちは」

優花が、少し呆れたような、けれどどこか楽しげな笑みを浮かべる。

彼女は、この四人が一つの部屋に固まることに疑問を抱かない。

それがこの"グループ"のルールだと理解しているからだ。


部屋割りとも呼べない確認を終え、それぞれ荷物を下ろす。

窓を開けると、眩いばかりの海の青が見えた。


「……いい場所だな」


俺がそう言うと、

並んで外を眺めていた三人も自然に頷いた。


「隆一、ありがとうな」

「ありがとー、隆一!」

「最高の旅行ですね。ありがとうございます」


面と向かって礼を言われるのが苦手なのか、隆一は「おう」とだけ短く返して、照れ隠しのように玄関の鍵を棚に置いた。


着替えと、最低限の準備を済ませて再び外へ出る。

別荘を背にして、海へ向かう下り坂。

さっきより、波の音が近い。鼓動を急かすように、その音は確実に大きくなっていく。


自然と、あの並びになる。

四人が前。少し後ろに、俺と隆一。

誰かが指揮を執ったわけではない。

ただ、外の世界を歩くとき、俺たちは自然とこの配置に収束する。


「楽しみだねー、ゆき」

「うん。早く泳ぎたいです」

「やっぱり日差しが強いわね」

「玲茄のその肌、焼けるともっと濃くなるのかい?」


前を行く四人の会話が、潮風に乗って弾んでいる。


坂道を曲がると、一気に視界が開けた。

白い砂浜。極彩色のパラソル。

そして、圧倒的な密度の人、人、人。


「……うわ」

「すごい人……」

「想像以上ですね」


一瞬、三人が立ち止まる。

すると、背後にいた隆一が優花の隣へ移動し、距離を詰めた。

示し合わせたわけでもなく、そこには四人と二人の分断が生まれる。

俺たちは再び一つの塊として歩調を合わせ、砂浜へと踏み出した。


海は騒がしい。

音も、視線も、熱も。

さっきまで別荘で感じていた静けさが、暴力的な夏に塗り替えられていく。


けれど――不思議と、胸の奥は凪いでいた。

どれだけ外が騒がしくても、手の届く範囲にいつもの体温がある。


「……楽しまないとな」

俺がそう呟くと、隣の隆一が小さく頷いた。

「ああ。そのための海だからな」


その言葉に、特別な意味はない。

でも、普段の生活では決して感じることのない高揚が、潮騒と同じリズムで胸の奥を満たしていくのを感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ