プロローグ
俺たちの境界線がいつ、どうやって溶け落ちてしまったのか。
今となってはもう、定かではない。
冷たい体育館の片隅で。
俺は完全に理性を手放し、クラスメイトの目の前で彼女のシャツの奥へと腕を這わせ、その熱い肌に深く指を沈めていた。
周囲のざわめきなど、一切耳には入らない。
ただ、「こいつらは俺のものだ」という黒く濁った獣の所有欲だけが、俺の脳を支配していた。
あるいは、あの"監査"の日。
――倫理とか、凉が自分に課したルール……それと、今目の前で泣きそうなあの子たちの心。どっちが、凉にとって重いの?
すべては、彼女の手のひらの上だった。彼女は一切の悪びれもなく、小さな手帳をテーブルへ滑らせた。
常識や道徳よりも、自分たちが俺の痕跡を受け入れる安心感の方が重いのだと。あの傲慢なまでに澄み切った笑みで、母を――そして社会を、冷酷に論破してみせた。
狂っている。
世間の定規で測れば、俺たちはどうしようもなく壊れている。
社会の理から外れ、光の当たらない、澱んだ水溜まりの底へと沈み込んでいる。
けれど、そこで絡み合う呼吸と体温は、どこまでも甘く、息ができるのはそこだけだと錯覚するほどに心地よかった。
これは、俺たちが"普通の高校生"という薄氷の上で踊りながら、
決して引き返せない暗闇へと、嬉々として沈んでいくまでの――
静かで、ひどく歪な日常の記録だ。
すべては、あの春の朝。
俺たちがまだ、かりそめの均衡を保っていた頃から始まる。




