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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
三章 王子と母の思い出

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28.父上との隣国訪問

 エリアス兄上に王位を譲ってからも父上は国王陛下の補佐として政治に関わっていた。エリアス兄上も国王陛下になるための勉強はしてきたが、急に実践ではできない。

 父上の手を借りながらもエリアス兄上はゆっくりと一人前の国王陛下になりつつある。


 エリアス兄上の補佐という仕事はあるが、父上は国を離れることができるようになった。これまでは国王陛下としてずっと国にいたのだが、出かけていくことができる。

 そうなると父上には行きたい場所があった。


「エド、共にヒルダのところに行こう」


 それは僕と父上の約束でもあった。

 父上に誘われて僕はロヴィーサ嬢と準備を終えていた。

 魔法石を使って隣国まで飛ぶことを父上に説明する。


「この魔法石は魔族の国のお祖父様が僕のために作ってくださったものです。場所を記録させて、一瞬で飛ぶことができます」

「魔法とは便利だな。私も魔族の国に注文するか」

「父上も持っていたらいいと思いますよ」


 話しながら実際に魔法石を使ってみせる。

 白い光に包まれて、目を開けたときには僕とロヴィーサ嬢と父上と爺やは隣国の王城の前にいた。

 隣国の王城で名乗って身分を明らかにして、中に入れてもらう。

 応接室に通されて、ヒルダ姉上がミルカの手を引いて、カスパル義兄上がラウラを抱っこして現れた。

 ラウラは褐色の肌に水色の目に金髪で、ヒルダ姉上にも似ているとことがあった。


「じっじ!」

「おぉ、ミルカ。私を呼んでくれるのか」

「じっじ! じっじ!」


 ミルカは父上に歩み寄りながら父上を呼んでいる。


「実は練習させました」

「とても上手ですよ、ミルカ」


 ミルカが父上を呼べるのはヒルダ姉上とカスパル義兄兄上が練習させていたからだった。


「じっじ?」

「違うよ、ミルカ。僕は、エド叔父さん」

「うー?」


 父上は呼べても僕を指差してミルカは首を傾げている。

 僕も呼んで欲しかったけれど、ミルカはまだ一歳だ。無理は言わないことにする。


「エド殿下、ラウラを抱っこしてみますか?」

「いいのですか?」

「ラウラも喜びます」


 首が据わっていない赤ん坊を抱く体勢で肘を曲げてラウラを受け取って抱くと、思ったよりずっしりと重かった。首もほとんど据わりかけている気がする。


「ラウラは首が据わっているのですか?」

「ラウラはよく飲んで、成長が早いのですよ。もう縦抱っこでも平気ですよ」

「縦抱っこ……」

「縦抱っこの方が周囲が見えるのか、好きですね」


 カスパル義兄上に縦抱っこと言われたが、そんなにすぐには体勢を変えられない。戸惑っていると、父上がラウラを僕から抱き取った。

 縦抱っこにしてラウラの背中とお尻を支えていると、ラウラは周囲をきょろきょろ見て笑っている。


「楽しそうですね」

「私も四人の子どもを育てたのだ。抱っこくらいできる」

「父上の抱っこはお上手です」


 僕は父上のいつもと違う面を見た気分だった。

 ラウラはミルクを飲むために子ども部屋に連れて行かれて、ミルカは応接室でお菓子が出て来るのを待っている。ロヴィーサ嬢がソファに座ると、ミルカは自然にロヴィーサ嬢のお膝の上に座ってしまった。


「ミルカ、父はこちらだぞ?」

「申し訳ありません、ロヴィーサ嬢」

「いいえ、とても可愛いですよ」


 すっかりとロヴィーサ嬢の膝の上でリラックスしているミルカは動くことなく、ロヴィーサ嬢の膝の上でお菓子を食べ始めた。ぽろぽろと落とすし、お茶も一人では飲めないので、ロヴィーサ嬢が助けてあげている。

 カップを口に持って行ってもらったミルカが、ロヴィーサ嬢にお茶を飲ませてもらっている。


「ロヴィーサ嬢は子どもの扱いが上手ですね」

「いつ母親になっても安心ですね」


 カスパル義兄上とヒルダ姉上はロヴィーサ嬢が落ち着いているのに、驚いているようだった。

 お茶の時間を終えるとミルカは遊びたがって僕とロヴィーサ嬢と父上を子ども部屋に連れて行った。

 子ども部屋ではベビーベッドでラウラが眠っている。


「ちて!」


 ミルカが僕に持ってきたのは、絵本だった。

 読んで欲しいということだろう。

 僕はミルカを膝に乗せて絵本を読んだ。ミルカは黒い目をくりくりさせて一生懸命聞いている。

 最後まで読み終わると、ミルカが僕を見上げる。


「もいっちょ」

「もう一回?」

「あい」


 もう一度とリクエストされて、僕は絵本をもう一回読んだ。読み終わるとミルカが膝から降りて、新しい絵本を持ってくる。


「ミルカ、もう止めなさい。切りがないから」

「ちて!」

「ミルカ、わたくしが呼んであげますから」

「やっ! ちて!」


 どうしてもミルカは僕に絵本を読んで欲しいようだ。


「ミルカに気に入られたみたいですね。嬉しいです」


 僕は膝の上にミルカを乗せて何冊も絵本を読んだ。

 喉が枯れてしまうのではないかというくらい絵本を読んでも、ミルカは満足してくれなかった。


 帰る時間になってミルカを膝から降ろすと、ミルカが泣き顔になる。


「やーの!」

「また来るからね」

「やー!」


 帰っては嫌だと泣かれるのはつらいが、帰らなくてはいけない。

 泊って行きたかったが、今日は父上もいるし日帰りでの日程に決まっていた。


「ミルカ、またね」

「びえええええ!」


 泣いてしまったミルカをカスパル義兄上が抱き上げる。背中をぽんぽんと叩かれて、ミルカは目を擦っている。


「もう眠くなってしまったようですね。エド殿下は気にしなくていいですよ」

「エド、父上、ロヴィーサ嬢、今日はありがとうございました」

「こちらこそ、楽しかったです」


 挨拶をするヒルダ姉上に、ロヴィーサ嬢が頭を下げている。


「ヒルダ、また来るからな」


 父上も手を振っていた。

 隣国から帰ると、父上はミエト家にやってきていた。

 これも父上の願いだった。


「ずっとエドがどんな環境で生活しているかを見たかった。国王という立場でミエト家を訪問できなかったから、やっと訪問できる」

「僕の部屋を見ていってください。ロヴィーサ嬢が日当たりのいい広い部屋をくれたのですよ」

「ぜひ見せてもらおう」


 父上に僕の部屋を案内する。

 僕の部屋は広くて、日中は日当たりがよく、窓を開けると風通しもいい。帰ったばかりで熱がこもっていたので窓を開けて換気すると、涼しい風がカーテンを揺らして入って来る。

 窓からは庭が見えていた。


「庭に面した部屋なのだな。王城でもエドの部屋は庭に面していた。庭を見れば少しでも元気が出るだろうと思ったのだ」

「その気遣いに気付かずに、僕はほとんど庭を見たことがなかったのです」

「口に出して言わなければ伝わらないことはたくさんあるのだな」

「父上、王城でも僕は幸せでした。でも、ミエト家ではもっともっと幸せなのです」


 僕が言えば父上は目を細めている。王城に僕が帰ってくることを望んでいた父上にとっては、僕がミエト家で幸せだというのは複雑なのかもしれない。

 居間に降りていくとロヴィーサ嬢がお茶の用意をしていた。

 隣国でもお茶はしていたので、冷たいフルーツティーと、少しだけ摘まめる焼き菓子だけだったが、フルーツティーは甘酸っぱくて喉に心地よかった。


「この焼き菓子もロヴィーサ嬢が作ったのか?」

「はい。エド殿下の口にするものは基本的にわたくしが作らせていただいております」

「美味しい焼き菓子だ。バターの香りがする」

「ありがとうございます」


 焼き菓子を摘まんで食べている父上に、僕は問いかける。


「晩ご飯も食べていかれますか?」

「ご迷惑ではないかな?」

「僕は父上と食べられるのは嬉しいです。ロヴィーサ嬢も構いませんよね?」

「はい。腕を振るいます」


 ロヴィーサ嬢の快い了承も得て、父上は晩ご飯を食べて帰ることになった。

 晩ご飯を作るロヴィーサ嬢に、僕も厨房に入る。

 ロヴィーサ嬢は豚のミンチに刻んだ玉ねぎや薬味を入れて丸めて、生地で包んでいた。僕も手伝って豚のミンチを生地で包む。

 蒸しあがったのは真っ白なお饅頭のような大きな丸いものだった。


「これは何ですか?」

「肉まんです」

「肉まん」


 聞いたことも食べたこともないが、とても美味しそうな香りがしている。

 晩ご飯は肉まんと蒸し野菜だった。


「肉まんにも蒸し野菜にも、酢醤油をつけて食べると美味しいですよ」

「試してみよう」

「僕も初めて食べます」

「エドも初めてか」


 肉まんに酢醤油をつけて頬張ると、中からじゅわっと肉汁が出てきて、ジューシーでとても美味しい。肉まんの生地はふかふかで、中はジューシーで、どうしてこんな美味しいものが作れるのか不思議になる。


「ロヴィーサ嬢、とても美味しいです」

「お口に合ってよかったです」

「美味いな。これは何個でも食べられそうだ」

「お代りはありますから、遠慮なさらないでくださいね」


 父上も僕も競うようにして肉まんを食べてしまった。


 食べ終わると僕とロヴィーサ嬢は父上を王城まで送って行った。


「楽しい一日だった。今日はありがとう」


 満足した様子の父上に、僕も心が満ちていくようだった。

読んでいただきありがとうございました。

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