27.エリアス兄上の戴冠式
高等学校が夏休みに入る前の学年最後の試験で、僕とヘンリッキとアルマスは、同点で一位になった。三人とも満点だったので、高等学校の先生たちから褒めたたえられた。
一つもミスをせずに全教科満点を取るのは本当に難しかった。それをアルマスは入学以来ずっと続けているのだから頭が下がる。
今回は僕もヘンリッキも気を抜かずに全教科満点を取れたが、来年度はどうなるか分からない。それでも、全教科満点を取れたことは僕の自信に繋がった。
「やっと俺と並んだな」
「その上から目線、そのうち崩してやる!」
「次も負けないからな」
アルマスと僕とヘンリッキはじゃれ合って、高等学校から帰った。
帰るとすぐにロヴィーサ嬢のところに駆けて行く。小走りで満面の笑顔の僕に、報告する内容は分かっていたであろうが、ロヴィーサ嬢は僕が話し出すまで待っていてくれた。
「全教科満点です! アルマスとヘンリッキと、同点で全員学年一位になりました!」
誇らしく告げると、ロヴィーサ嬢が拍手をしてくれる。
「お見事です、エド殿下。きっと成し遂げられると信じていました」
「正直、全教科一問もミスなく回答するのはとても大変でした。でも、僕はやればできるのだと思えました。ロヴィーサ嬢のおかげです」
王城で家庭教師に勉強を習っていた時期、僕はずっと「ヒルダ王女殿下はもっとおできになった」とか「エリアス王子殿下はこんな間違いはなさらなかった」とか「エルランド王子殿下ならもっと早く答えられた」とか、ずっとヒルダ姉上やエリアス兄上やエルランド兄上と比べられて、勉強ができないものだと思い込んでいた。
僕は劣等生で、ヒルダ姉上やエリアス兄上やエルランド兄上には敵わない。勉強がしたくても寝込んでいる日が多かったので仕方がなかったのだが、家庭教師はそんなことを考慮してくれなかった。
ずっと自分は勉強ができないのだと思い込んでいた僕を変えてくれたのはロヴィーサ嬢だった。
ロヴィーサ嬢に勉強を見てもらうようになって、僕は学力が伸びた。ロヴィーサ嬢は僕を絶対に馬鹿にせず、間違えているところがあったら根気強く教えてくれて、合っていたら褒めてくれた。
ロヴィーサ嬢のおかげで僕は勉強が嫌ではなくなった。
「エド殿下が頑張ったからですよ」
「ロヴィーサ嬢が教えてくれたからです。これからもよろしくお願いします」
「エド殿下のためならば」
僕の成績がよくなっても自分の手柄のように言わないロヴィーサ嬢は本当に慎ましい。そういうところが僕は大好きなのだ。
夏休みに入ってすぐ、国王陛下である父上から王太子殿下であるエリアス兄上に王位が譲られることが決まっていた。
僕は青いスーツで、ロヴィーサ嬢は後ろが編み上げになった薄紫のドレスで、王城に行った。
国の大きな行事なので大勢の貴族が集まっている。
ラウラとミルカを乳母に預けたヒルダ姉上とカスパル義兄上、魔族の国の留学から帰って来たエルランド兄上と婚約者のセシーリア嬢、僕とロヴィーサ嬢は前の方でエリアス兄上の戴冠式を見守る。
エリアス兄上は父上の前に出て、ユリウス義兄上と共に膝をついて深く頭を下げていた。
儀式用の宝石で飾られた王冠を父上は被っている。
マントを翻し、父上はエリアス兄上とユリウス義兄上に声をかけた。
「エリアス、ユリウス、面を上げよ」
「はい、国王陛下」
答えて顔を上げたエリアス兄上に、父上は自分の頭から王冠を外して被せた。手を取り、エリアス兄上を立たせる。
「今日より、エリアスをこの国の国王とし、私は国王の座を退く。エリアス国王陛下、これからよろしく頼むぞ」
「これからはこの国の国王として、伴侶のユリウスと共にこの国をよりよく導けるように努力していきたいと思います。ユリウス、よろしく頼む」
「エリアス国王陛下、命を懸けて支えます」
仲睦まじいエリアス兄上とユリウス義兄上。エリアス兄上の頭の上に乗っている王冠の輝きに僕は胸がドキドキする。
遂にエリアス兄上は王太子殿下から国王陛下になった。
「国王陛下、万歳!」
「新しい国王陛下に祝福を!」
貴族たちの中から声が上がっていた。
戴冠式が終わってから、エリアス兄上とユリウス義兄上は王城のバルコニーから国民に手を振って挨拶をしていた。
二人とも若くやる気に満ちた姿で、僕は立派な姿に見惚れていた。
「エリアス兄上が国王陛下になりました」
「はい、おめでたいことですね」
「二人とも立派で憧れます」
エリアス兄上もユリウス義兄上も、これからしっかりと国を守る政治をしてくれることだろう。
魔族の国から来ていたダミアーン伯父上も二人の姿を見て胸に込み上げるものがあったようだ。
「エリアスがあんなに立派になって。妹も喜んでいることだろう」
「ダミアーン殿、エリアスのこと、魔族の国からも支えてやってくれ」
「もちろんだ。エリアスは私の可愛い甥で、魔族の国王の孫。魔族の国も新国王を応援するぞ!」
父上と話しているダミアーン伯父上は本当に嬉しそうだった。
戴冠式が終わると、王族だけの集まりがあるのだが、ヒルダ姉上はラウラが小さいのでカスパル義兄上と隣国に帰ってしまった。
ヒルダ姉上やラウラとも触れ合いたかったので、僕はとても残念だったけれど、帰り際にヒルダ姉上は言ってくれていた。
「夏休みには父上と一緒に隣国に遊びに来てくださいね。ミルカの人見知りもおさまりましたし、ラウラのこともエドに見て欲しいです」
「はい、喜んで伺わせていただきます」
ヒルダ姉上からのお誘いはとても嬉しいものだった。
父上と、エリアス兄上とユリウス義兄上と、エルランド兄上とセシーリア嬢と、僕とロヴィーサ嬢と、ダミアーン伯父上でお茶をする。
僕はちらちらとセシーリア嬢を見ていた。エルランド兄上の婚約者になったが、セシーリア嬢がどんな方なのか僕はよく知らないのだ。
「エルランド兄上とセシーリア嬢はどこで出会ったのですか?」
思い切って聞いてみると、エルランド兄上が説明してくれる。
「王城にお祖父様を訪ねて行ったときに出会った。セシーリア嬢は王城の庭で、歌を口ずさんでいたのだ」
「『その歌はなんという題名ですか?』とエルランド殿下はお聞きになりましたね」
「母上が歌っていたような記憶があったのです」
セシーリア嬢は王城の庭で歌を口ずさんでいて、エルランド兄上の目に留まったようだ。セシーリア嬢の歌っていた歌は、母上がエルランド兄上に歌ってくれていた歌だった。
「魔族の国に伝わる民謡でした。エルランド殿下のお母上もそれを歌っていたのでしょう」
「懐かしくて、もう一度歌ってもらえないかと頼みました。それが始まりでしたね」
そのときにはエルランド兄上はセシーリア嬢に心奪われていたのだろう。父上と年の変わらないセシーリア嬢だが、魔族なので姿はとても若い。
ダミアーン伯父上も父上より年上だが、エリアス兄上と変わらない年齢に見える。
「母上の歌がエルランド兄上とセシーリア嬢を繋いだのですね」
「そうなるな。それから、舞踏会でセシーリア嬢と会って、そのたびに花を贈った。セシーリア嬢は最初は受け取ってくれなかったが、そのうちに受け取ってくれるようになった」
「わたくしはこの年ですし、もう結婚はしないものだと決めていました。恋愛も縁遠いものだと思っていましたが、エルランド殿下がわたくしを慕ってくれるのが可愛らしくて、心が揺れました」
「セシーリア嬢が少しずつ心を開いてくれているのが分かって、嬉しかったです」
エルランド兄上とセシーリア嬢との出会いと心が繋がるまでの経過を聞いて、僕は幸せな気持ちになっていた。
「エリアス国王陛下の治世の元ならば、わたくしは安心してこの国に嫁いで来られます。その日を楽しみにしております」
「私が研究課程を卒業した暁には必ず」
「はい、お待ちしております」
エルランド兄上が研究課程を卒業したらセシーリア嬢と結婚すると言っている。
僕は高等学校を卒業したらロヴィーサ嬢と結婚するつもりだが、少し気が早いのだろうか。
研究課程を卒業してから結婚するのがいいのかもしれないが、僕はそれを待てそうになかった。
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