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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
三章 王子と母の思い出

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26.お魚四号さんの結婚

 お魚四号さんからの報告書はミエト家の居間のポストのような箱に転送されて来る。

 ロヴィーサ嬢の朝はそれを見ることから始まる。

 早朝に起きて家庭菜園の世話をする前に箱の中を覗いて、魔窟に異変がないかを確かめる。


 箱の中身を確かめていたロヴィーサ嬢が資料の他に入っていた手紙に気付いたのはそのときだった。僕を呼んで手紙を見せる。

 中にはお魚四号さんからの招待状が入っていた。


「魔窟を任されるのはマーマンとして一人前と認められた証拠。だから、長くお付き合いをしていた恋人と結婚式を挙げる決意をしたようです」

「お魚四号さんにお嫁さんが来るのですね」

「魔窟では食べ物も豊富にあるし、お嫁さんや子どもさんを養っていけるから、結婚しても大丈夫だと判断されたようです」


 ダミアーン伯父上に案内された魔族の国の魔窟では、家族で魔窟を管理していなかったが、手紙に書いてある様子では、マーマンもリザードマンもその他の種族も、魔窟のモンスターを自由に食べることができるので、食事に不自由しないという理由で、魔窟の管理人に指名されると一人前という認識で、結婚を考えるようだ。

 お魚四号さんが魔族の国から恋人を呼んで結婚式を挙げる。

 それはミエト家で祝わなければいけないことだった。


「お魚四号さんをお祝いに行きましょう」

「お嫁さんに挨拶もしないといけませんね」


 まだ見ぬお魚四号さんのお嫁さんに、僕もロヴィーサ嬢もわくわくしていた。

 ミエト領に来た以上はお魚四号さんもミエト領の領民になる。領民が幸せになるのはよいことだ。特にミエト家が雇っている魔窟の管理人という重要な職についてくれているマーマンが、家族と共にミエト領の魔窟に長く住み着いてくれるのはありがたいことだ。


 ロヴィーサ嬢と僕はお魚四号さんの結婚式に出席するという返事を書いて箱の中に入れた。


 お魚四号さんの結婚式は魔窟の前で行われた。

 魔窟の周辺の住民がお祝いに駆け付けている。

 お魚四号さんの隣りには大きなバスタブのようなものが置いてあった。


 お魚四号さんは魚の上半身に人間の脚のマーマンだ。お嫁さんは少し違うようだ。

 バスタブのようなものから顔を出したお嫁さんは、上半身が人間で下半身が魚のマーメイドだった。


『ミエト領で歓迎されて魔窟の管理をさせていただけることを光栄に思います。これからは妻と共に魔窟を更に周辺住民の皆様の危険のない場所にしていきたいと思います』

『夫が人間の国の魔窟の管理人となったときには驚きました。ですが、私の気持ちは変わらなかった。この国で私も夫と共に魔窟を管理していきたいと思います』


 マーマンのお魚四号さんとマーメイドのお嫁さんの誓いを聞いて、周辺住民から拍手が巻き起こり、花束が贈られる。

 花束を受け取ってお魚四号さんは嬉しそうな雰囲気を醸し出していた。


 そうなるとお魚四号さんのお嫁さんにも呼び名が必要になる。

 美しい虹色の髪に青い目のマーメイドのお嫁さんは、上半身が人間の女性なので、名前を考えるのも悩んでしまった。


「お魚四号さんのお嫁さんの名前はどうしましょう?」

『うちの夫は「お魚四号」と呼ばれているのですか!? 前に三人いたのですか? 人間のセンスって分からないわ』


 マーメイドのお嫁さんはお魚四号さんの呼び名に戸惑っているようだ。

 ロヴィーサ嬢がじっとマーメイドのお嫁さんを見詰めている。


「オリーヴィアというのはどうでしょう? 美しい名前です」

「オリーヴィアさん、いいですね」


 僕が頷くと、マーメイドのお嫁さんとお魚四号さんは顔を見合わせている。


『あなたが「お魚四号」で、私が「オリーヴィア」?』

『まともな名前も付けられるんじゃないですか!?』


 戸惑うお魚四号さんとお嫁さんに構わず、お嫁さんの呼び名はオリーヴィアさんに決まった。


「これから魔窟を守ってください、お魚四号さん、オリーヴィアさん」

「お二人が仲良く夫婦生活を送るのを願っています」


 お祝いの言葉を言えば、お魚四号さんとオリーヴィアさんが僕とロヴィーサ嬢に向き直る。オリーヴィアさんは下半身が魚なので、バスタブのような場所に入っていなければいけないようだ。


『夫婦で力を合わせて魔窟を管理していきます』

『これからミエト領でよろしくお願いいたします』


 お魚四号さんもオリーヴィアさんも魔窟をしっかり管理してくれそうで僕は安心していた。


 ミエト領の魔窟の管理人にお嫁さんまで来たという話は、あっという間に国中に広がった。それだけミエト領が国中で関心を持たれているということなのだ。

 高等学校に行った僕はアルマスとヘンリッキから質問攻めにあっていた。


「魔窟の管理人は人間じゃないようですが、どのような姿なのですか?」

「マーマンと言って、上半身が魚で脚が人間だよ。お嫁さんは上半身が人間で下半身が魚のマーメイド」

「どんな風に魔窟を管理しているんだ?」

「モンスターと人間の中間だから、魔窟に入ってもモンスターに襲われることがほとんどないらしい。それで、下層に降りて行ってくれてるよ。多分、マーメイドのお嫁さんは水場を管理してくれるんじゃないかな」


 魔窟には畜肉の養殖場と、海産物の養殖場の二つのルートがある。マーメイドのお嫁さんのオリーヴィアさんは海産物の養殖場を管理してくれそうだ。


「魔族の国では魔窟に管理人を置いていると聞きましたが、本当ですか?」

「魔族の国では魔窟はモンスターの養殖場と認識されているから、食糧管理のために管理人を置いているようだよ」

「マーメイドのお嫁さんは、お魚五号か?」

「いや、ロヴィーサ嬢がオリーヴィアさんと呼び名をつけたよ」


 ヘンリッキとアルマスの問いかけに答えていると、二人ともミエト領の魔窟の管理に興味津々だった。

 周囲の生徒も耳を澄ましている気配がする。

 僕はクラスで注目されていた。


「なんだか、みんな僕の話を聞いてる気がするよ」


 僕が呟くと、ヘンリッキが真面目な顔になる。


「それはそうですよ。エリアス王太子殿下が国王陛下になられたら、エドヴァルド殿下かエルランド殿下のお子を養子に貰われる。つまりは、エドヴァルド殿下は次の王太子殿下の実父になる可能性があるのです」

「エドヴァルド殿下の子どもが次の次の国王陛下になる可能性があるんだぞ」


 ヘンリッキとアルマスに言われて僕は初めて気付く。

 ロヴィーサ嬢が産んだ僕の子どもは、エリアス兄上とユリウス義兄上の養子になる可能性がある。そうなると、エリアス兄上が国王陛下になれば、王太子殿下となる子どもの実の父親が僕ということになる。

 それは僕の動向を周囲の貴族が敏感に伺っていてもおかしくはなかった。


「僕はそういう地位にあるのか」

「魔窟の管理人の件もですが、エリアス王太子殿下が王位を継ぐとなって、エドヴァルド殿下が降下するミエト家に注目が集まっているのも当然なのです」

「エドヴァルド殿下が国王陛下の実の父親になるかもしれないのか。なんだか実感がわかないな」

「僕も実感がわかないよ」


 まだロヴィーサ嬢とは結婚もしていないのだ。子どもがどうこうと言われても、実感がわかないのは仕方がない。


 高等学校から帰って僕はロヴィーサ嬢にその話をしてみた。


「僕とロヴィーサ嬢の子どもがエリアス兄上とユリウス義兄上の養子になるということは、次の王太子殿下になるということですよね」

「その通りですね。ですが、わたくしは養子に出しても変わらず我が子として愛すると思いますよ」

「そんなことが許されるのですか!?」

「愛するのは自由です。わたくしは自分の産んだ子は永遠に愛します」


 ロヴィーサ嬢の凛とした答えに僕は考えを改めさせられた。

 子どもを養子に出してしまったら、もうエリアス兄上とユリウス義兄上の子どもとして、全く手出しができないものかと思っていたが、ずっと愛し続けることはできる。

 それならば我が子を養子に出しても寂しくはないのかもしれないと思い始めていた。

読んでいただきありがとうございました。

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