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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
三章 王子と母の思い出

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24.ロヴィーサ嬢の二十一歳のお誕生日

 お誕生日くらいはロヴィーサ嬢にゆっくりと休んでもらいたい。

 僕と爺やは計画を立てていた。


 ロヴィーサ嬢はお誕生会の席でも僕と自分のための料理だけはきっちり作るつもりのようだ。

 それを休んで欲しかったのだ。


「ロヴィーサ嬢、今日は僕が料理を作ります」

「エド殿下にそんなことをさせられません」

「いつもお手伝いはしているし、何をすればいいのか大体分かっています」


 ロヴィーサ嬢が厨房で料理を作っているときに、僕は一緒に厨房にいて料理を手伝っている。卵焼きも形はよくないが巻けるし、おにぎりや簡単な料理ならば作ることができる。


 僕の真剣な表情に、ロヴィーサ嬢が戸惑っている。


「よろしいのですか?」

「爺やも手伝ってくれます。僕とロヴィーサ嬢の分だけです。できると思います」

「何かあったら、いつでもわたくしを呼んでくださいね?」

「ロヴィーサ嬢はお誕生日なのですから、休んでいてください」


 僕が熱心にお願いすると、ロヴィーサ嬢も僕に任せてくれる気になったようだ。

 ロヴィーサ嬢が心配そうに僕を送り出すのに、手を振って応えて、僕は厨房に入った。


 ケーキはグレープフルーツのたくさん乗ったタルトにしようと決めていた。

 料理は天むすや卵焼きに挑戦しようと思っていた。


 ケーキに時間がかかるので、ケーキの生地を作るのだが、これが大変だった。タルト生地を作っていると厨房の暑さでバターが溶けるのだ。生地がどろどろにならないように気を付けなければいけなかった。

 タルト生地を焼いている間に、中に入れるチーズクリームを作る。

 クリームチーズと生クリームを混ぜて、お砂糖とゼラチンも混ぜて冷やしておく。

 それからグレープフルーツを剥こうとしたのだが、うまくいかない。

 房から剥こうとしているが、ぼろぼろと崩れてしまうのだ。崩れて見栄えの悪い果肉に悲しくなってしまう。こんなにグレープフルーツを剥くのが大変だなんて知らなかった。


 泣きたいような気になりながら、僕はぼろぼろのグレープフルーツと向き合っていた。


「エドヴァルド殿下、天ぷらを作らないと時間がありませんよ」

「あ! そうだった!」


 朝食後すぐから厨房に入っていたが、タルトに手間取って時間が過ぎていた。

 天むすを作るのならば、天ぷらを作らなければいけない。

 油を加熱して、衣を少しだけ落としてみて、すぐ浮かんできたのを確認して、海老に衣をつけて油の中にそっと入れる。

 これも全部ロヴィーサ嬢のしているのを見ていたからできることだ。

 揚がり具合が分からないが、生でも食べられる鮮度の海老なので、思い切って油から上げてしまうことにした。

 たれをつけて、海老天をおむすびにしていく。


「卵焼きの準備はできておりますぞ」

「ありがとう、爺や!」


 天むすを作り終えると大急ぎで卵焼きを巻く。

 卵液は爺やが用意してくれていたので、卵焼き器でくるくると巻いて行く。

 綺麗な形に巻きたかったのだが、なぜか三角になってしまった。


「うまくできない……」


 普段ロヴィーサ嬢がどれだけ器用なのか、僕は思い知った気分だった。

 焼き上がったタルト生地にチーズクリームを流し入れて、ぼろぼろのグレープフルーツを乗せていく。

 格好は悪かったが、もう剥き直す時間はなかった。


 おかずももっと作りたかったが、時間切れだ。


 僕は敗北した気分で着替えて大広間に行った。

 大広間ではロヴィーサ嬢が挨拶をしてくる貴族たちの対応に追われていた。

 爺やが料理を持ってきてくれるので、僕もロヴィーサ嬢の隣りに並ぶ。


「エドヴァルド殿下、エリアス王太子殿下とユリウス様が来られていますよ」

「エリアス兄上と、ユリウス義兄上が!」

「先ほどご挨拶と、お祝いの言葉をいただきました。エドヴァルド殿下が来たらもう一度来ると仰っていました」


 エリアス兄上とユリウス義兄上がロヴィーサ嬢のお誕生日に来てくれているのは嬉しい。夏には国王陛下になるエリアス兄上と、その配偶者のユリウス義兄上が揃ってやってくるほど、ミエト公爵家は王家と繋がりが深いのだと貴族たちに見せつけることができる。


「エド、来るのを待っていたよ」

「ロヴィーサ様とお話をしていたのです。私たちも魔窟の探索をしてみたいと考えていると」

「この国にある魔窟は、国民を脅かす場所でもある。そこをロヴィーサ嬢は管理しているのだから、それをしっかりと視察しておきたい」


 エリアス兄上の姿勢は王太子としてとても尊敬できるものだった。

 僕にとっては美味しいものの養殖場なのだが、普通の人間にしてみれば魔窟は脅威になっている。ロヴィーサ嬢が魔窟の管理をできていることを国としてもしっかりと確かめて、他の領地にその方法を伝えたいと考えているのだろう。


「ロヴィーサ嬢、エリアス兄上とユリウス義兄上を魔窟の視察にお招きしてもいいですよね?」

「もちろんです。わたくしが安全は保障致します」

「それでは、よろしくお願いします、ロヴィーサ嬢」

「日程は後程お伝えしますね」


 エリアス兄上とユリウス義兄上は、頭を下げてロヴィーサ嬢にお願いをして去って行った。


 貴族との挨拶も一通り終わったロヴィーサ嬢が料理の置かれたテーブルに近付いていく。

 テーブルの上には、ボロボロのグレープフルーツのタルトと、天むす、卵焼きしか乗っていない。


「天ぷらに挑戦してくださったのですか?」

「時間がなくて、天むすだけしか作れませんでした」

「揚げ物は難しいのに、わたくしのために頑張って下さったのですね」


 嬉しそうなロヴィーサ嬢の声に、僕は俯いてしまう。


「もっと色んな天ぷらを作るつもりだったのです。卵焼きだけでなくて、もっとたくさんのおかずを作るつもりだったのです。グレープフルーツももっと綺麗に剥きたかったのです」


 僕にはできなかった。

 ロヴィーサ嬢のように完璧にはできなかったことを後悔している僕に、ロヴィーサ嬢は笑顔だった。


「わたくしのためにエドヴァルド殿下が作ってくださったものが嬉しくないはずはないのですよ。形など些細なことです。エドヴァルド殿下がしてくださったという事実が幸せなのです」

「ロヴィーサ様……」

「最高のお誕生日プレゼントをありがとうございます!」


 ロヴィーサ嬢に感謝されて、僕は落ち込んでいた気持ちが明るくなる。顔を上げると、ロヴィーサ嬢が天むすを食べている。


「とても美味しいです」

「海老に火が通っていましたか?」

「通っていますよ。ぷりぷりで美味しいです」


 ロヴィーサ嬢は天むすと一緒に卵焼きも食べる。


「卵焼きもとても美味しいです。天むすと一緒に食べるとよく合いますね」

「喜んでくれて嬉しいです」

「ケーキはエドヴァルド殿下も一緒に食べましょうね」


 ロヴィーサ嬢は天むすと卵焼きを食べて、僕が食べるのを待っていてくれた。

 僕も天むすと卵焼きを食べる。天むすもロヴィーサ嬢が作ったものほどではないが、美味しい気がするし、卵焼きも悪くはない。

 それでもロヴィーサ嬢には全く敵わなかった。


 天むすと卵焼きを食べ終わると二人でケーキを切って食べる。

 食べていると、アルマスとアクセリとアンニーナ嬢が挨拶に来た。


「ロヴィーサ様お誕生日おめでとうございます」

「グレープフルーツのタルトですか?」

「美味しそうですね」


 アンニーナ嬢は美味しそうと言ってくれているけれど、上に乗っているグレープフルーツが千切れているのは隠しようがない。


「今日は全部僕が作ったんだ」

「エドヴァルド殿下は料理ができるんだな。すごいな」

「ロヴィーサ嬢には敵わないって実感したよ」

「ロヴィーサ様は料理上手だから、簡単に敵うわけがないよ」


 アルマスに言われてその通りだと思う。

 ロヴィーサ嬢の偉大さを知った一日でもあった。

読んでいただきありがとうございました。

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