21.アルマスのお誕生日お祝い
隣国はヒルダ姉上の出産で賑わっているようだ。
王族の中からお祝いに行く人物を選んでいたが、選ばれたのはエリアス兄上とユリウス義兄上だった。
僕も行きたかったが、高等学校があるし、次期国王であるエリアス兄上が隣国との関係性を深めるために行くのは妥当なのだろう。
「エリアス兄上、ラウラの様子を教えてくださいね。ミルカも大きくなっているはずです」
「しっかりと使命を果たして来るよ。エド、できたら写真をもらってくる」
「お願いします、エリアス兄上」
エリアス兄上とユリウス義兄上は隣国へ旅立った。
僕が持っている魔法石ならばすぐに行けるのだが、隣国の王家に約束なしに行っていいはずがない。特に今はヒルダ姉上は出産後で消耗しているのだ。大勢の客人はヒルダ姉上の負担になるだろう。
エリアス兄上の持って帰ってくる写真に期待して、僕は我慢していた。
わが国ではアルマスのお誕生日会が開かれることになっていた。
アルマス自体は子爵家の子息だが、ハーヤネン公爵家の次期当主の婚約者ということで、ハーヤネン公爵家で盛大にお祝いが開かれる。
去年もそうだったが、今年も僕は招待状を受け取っていた。
「アルマスと出会った年には、ミエト家でお誕生会を開きましたよね」
「もう三年も前のことになるのですね」
その頃はアルマスはまだ平民で、豪華なお誕生会など望めなかった。
僕はアルマスのためにミエト家でお誕生会を開いたが、そのときにアルマスの弟のアクセリが僕の料理を食べてしまった。
倒れたアクセリに迅速に食べたものを吐かせて一命を取り留めさせたのが、ヘンリッキだった。
あのことがなければアルマスとヘンリッキの関係は築かれていなかったかもしれない。
重大な事故だったが、それだけが不幸中の幸いだった。
あの後でアルマスは魔族の食材から毒素を抜く技術を開発して、誰もがモンスターや魔力のこもった食材を食べられるようにしたし、逆に魔族も普通の人間の食べる食材を食べられるような技術も開発した。
その功績でアルマスの両親はバックリーン子爵となったし、魔族の国から騎士号ももらっている。
魔族である僕が高等学校に入って来たときに、誰も声をかけない中、一人だけ人懐っこく声をかけて来てくれたアルマスは、始めは平民で、今は貴族としての地位を確立している。
三年の日々はこれだけ僕たちを変えた。
アルマスはヘンリッキと婚約して、国王陛下である父上からもそれを認められている。
アルマスのお誕生日には僕はロヴィーサ嬢と一緒にハーヤネン公爵家に行った。
ハーヤネン公爵家では、魔族の食べる食材から毒素を抜いた料理を出してくれると招待状に書かれていた。
「本日はお招きくださり誠にありがとうございます」
「ロヴィーサ様、わたくしの息子の婚約者のために足をお運びいただきありがとうございます」
「今後ともハーヤネン公爵家とミエト公爵家が強い絆で結ばれることを望んでおります」
ハーヤネン公爵家のご両親は、ヘンリッキがミエト公爵家に忍び込んだ事件からミエト公爵家を非常に丁重に扱ってくれている。ヘンリッキのご両親がロヴィーサ嬢を大事にしてくれるのは、僕とヘンリッキが学友という立場であることも関係しているのだろう。
「エドヴァルド殿下、ロヴィーサ様よくいらっしゃいました」
「エドヴァルド殿下、ロヴィーサ様、俺……じゃない、私のためにありがとうございます」
ヘンリッキともアルマスとも挨拶をする。
「アルマス様、お誕生日おめでとうございます。アルマス様にとってこの年がよい年となりますように」
「ありがとうございます、ロヴィーサ様。いつも弟と妹がお世話になっております」
「アクセリ様もアンニーナ様もとても賢くて可愛くて、わたくしは一人っ子ですから弟妹ができたようで楽しいです」
「そう言っていただけるとありがたいです」
ロヴィーサ嬢もアルマスとは打ち解けて話しをしている。
貴族社会は厳しいものなので、声をかける順序も決まっている。位の低いものから高いものに声をかけてはいけないし、未婚の女性が婚約者でもない相手に声をかけてもいけない。
僕はエクロース公爵家の令嬢を思い出していた。あの令嬢はどうなったのか興味はないが、エクロース公爵家はあれ以来、ミエト公爵家やハーヤネン公爵家の行事に参加しなかったのが、きちんと参加して挨拶もしてくるようになっている。
貴族たちの中にエクロース公爵家の夫婦の姿も見付けて、僕はちゃんと来ているのだと確認する。
「エドヴァルド殿下、兄上のお誕生日ですよ」
「兄上に、プレゼントをくれませんか?」
アクセリとアンニーナ嬢が僕に話しかけてきて、僕はプレゼントなど考えていなかったことに気付いた。普通はお誕生日には学友ならばプレゼントくらい用意するものかもしれない。
「アルマスは何が欲しいんだろう」
僕が呟くとアクセリとアンニーナ嬢が答える。
「にゃんたのお嫁さんです!」
「同じリンクスの雌が手に入りませんか?」
猫と間違えてアルマスの一家はリンクスという山猫の一種を飼っている。にゃんたという名前で、性別は雄だ。
「にゃんたにお嫁さんが欲しいの?」
「にゃんた一匹では可哀想じゃないですか?」
「飼えるお屋敷になったので、二匹飼ってもいいと思うのです」
アクセリもアンニーナ嬢もそう言っているが、話はそんなに簡単ではなかった。
もう一匹リンクスを飼うとなると、リンクス同士の相性も大事になって来るし、リンクスの雄と雌が揃ってしまうと、子どもを大量に産むかもしれない。
「子どもがたくさん生まれたら貰い手に困るような気がするんだけどな」
「子どもも責任をもって飼います」
「ある程度生まれたら、子どもが生まれないようにします」
アクセリもアンニーナ嬢もどうしてもにゃんたにお嫁さんが欲しいようだ。
僕はロヴィーサ嬢の方を見た。
「ロヴィーサ嬢、リンクスの雌を捕まえて来ることができますか?」
「リンクスでなければいけないのでしょうか?」
「え? リンクスでなくてもいいのですか?」
ロヴィーサ嬢は僕とは別の考えを持っていたようだ。
「猫の中にも大型のものがいます。メインクーンなどがそれです。種類を揃えなければ子どもが生まれる確率は下がりますし、同じ猫科同士で仲良くしていればそれでいいのではないでしょうか」
「確かに! アクセリ、アンニーナ嬢、メインクーンという種類の猫でもいいですか?」
「メインクーンがよく分かりませんが、にゃんたにお嫁さんが来るならいいです」
「お願いします」
これはアルマスのお誕生日プレゼントにかこつけた、アクセリとアンニーナ嬢の願いなのではないかと思ってしまったが、突っ込むことなく僕はロヴィーサ嬢にお願いした。
「メインクーンという猫を一匹、手配してもらえますか? 雌でお願いします」
「分かりました。アルマス様のお誕生日お祝いですね」
ロヴィーサ嬢は快く引き受けてくれた。
アルマスのお誕生日が終わってから、ロヴィーサ嬢はふさふさの毛の成猫をどこかからもらってきた。
とても大きなその猫は、事情があって飼えなくなった子のようだった。
「飼っている方がご高齢になって面倒が見きれなくなった子です。この子もバックリーン家に行った方が幸せに暮らせるでしょう」
「何歳くらいなのですか?」
「三歳だと言っていました」
にゃんたのお嫁さんはにゃんたより少し年上だった。
バックリーン家にメインクーンを届けに行くと、アルマスが顔を見て言った。
「ねここ!」
「え?」
「その子の名前は、ねここだ!」
いきなり、ねここに名前がなってしまったメインクーンだが、大きなプランターに埋まってリラックスしているにゃんたに近寄って、匂いを嗅いで、寄り添っている。にゃんたも威嚇することなく、ねここを受け入れていた。
「アルマス、遅くなったけどお誕生日プレゼントだよ」
「ありがとう。可愛い猫だな。……猫だよな?」
「今度こそ、間違いなく猫だよ。にゃんたのお嫁さんにしてあげて」
「分かったよ。よろしくな、ねここ」
ねここはバックリーン家に受け入れられた。
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