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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
二章 高等学校二年生の王子

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21.ロヴィーサ嬢のお誕生日とお父上

 ヒルダ姉上に赤ん坊が生まれた。

 隣国は国中で祝っているという。

 生まれたのは男の子で、とても健康だという。

 父上とエリアス兄上とエルランド兄上と僕も、大喜びしていた。


 生まれてすぐに訪問するとヒルダ姉上も疲れているだろうから、お祝いの品を王家から送るのと、お手紙を書くだけにする。

 僕はロヴィーサ嬢と一緒にミエト家でお手紙を書いていた。


「ヒルダ姉上に赤ちゃんが生まれたのですよ。僕の甥っ子です。僕は叔父さんになりました」

「ヒルダ殿下がこちらの国に来られた際には会えるかもしれませんね」

「僕は赤ん坊を抱いたことがありません。大丈夫でしょうか」


 急に不安になってくる僕に、ロヴィーサ嬢が僕の腕を取る。肘を曲げさせて、何かを抱くような形にして、ロヴィーサ嬢が肘のところを指差した。


「生まれたばかりの赤ん坊は首が据わっていません。こちらの肘に頭を置いて、こちらの肘にお尻を置いて、安定させるのです」

「ロヴィーサ嬢は赤ん坊を抱いたことがあるのですか?」

「親戚の子どもを抱っこしたことがあります。首の据わっていない赤ん坊は小さくてわたくしも不安でしたわ」


 ロヴィーサ嬢は赤ん坊を抱っこしたことがあった。

 僕は末っ子なのでそんな経験はない。ロヴィーサ嬢も一人っ子なのでないと思い込んでいただけにショックだった。


「ロヴィーサ嬢に負けた気分です」

「こういうことに勝ち負けはありません。ヒルダ殿下がお連れになれば、抱くこともありましょう」

「そうですね。早く会いたいなぁ、僕の甥っ子」


 ダミアーン伯父上は甥である僕をこんなにも可愛がってくれている。甥というものは可愛いのだろう。ダミアーン伯父上を見ているとそう思う。


 お手紙は王家からのお祝いの品と共にヒルダ姉上に届けられた。


 春はロヴィーサ嬢のお誕生月もある。

 ロヴィーサ嬢はドレスを新調していた。

 上半身は体に添うラインで、下半身はたっぷりと布地を取ってスカートを膨らませた薄紫のドレスはロヴィーサ嬢を豪華に見せる。

 僕も青いスーツを新調していたが、僕はまた背が伸びたようだ。


 ロヴィーサ嬢は元々それほど体の大きな方ではない。

 体付きもほっそりとしていて、背も高すぎない。

 ロヴィーサ嬢は踵のある靴を履くと僕よりも背が高いが、靴を脱いでしまうと僕とほとんど身長が変わらなくなっていた。


「エド殿下、背が伸びられましたね」

「僕はダミアーン伯父上に似て、大きくなるのかもしれません」

「それは楽しみですね」


 ダミアーン伯父上とロヴィーサ嬢は頭一つ分くらい身長差がある。

 将来僕がダミアーン伯父上くらい大きくなったら、ロヴィーサ嬢とそれくらい身長差ができるのだろうか。

 楽しみなような、ちょっと大きすぎるような、不安な気持ちにもなるが、ロヴィーサ嬢は無邪気に楽しみだと微笑んでくれるので救われる。


 後ろを向いてみれば爺やがいる。

 爺やも非常に背が高い。

 ダミアーン伯父上と同じくらいの背丈なのではないだろうか。


「爺や、母上は背が高かったの?」

「エドヴァルド殿下のお母上は、魔族の国の王妃様くらい背が高かったですよ」


 お祖母様も女性にしてはとても背が高くて、すらりとしていた。

 父上もそれなりに大きなひとだし、エリアス兄上もエルランド兄上も背は高い方だ。ヒルダ姉上も長身でしっかりした体付きだった。


「スーツが毎年何着も必要かもしれません」

「毎年成長に合わせて作っていくのも楽しみですよ」

「このスーツもすぐに着られなくなるのですね」

「新しいものはもっと素晴らしいデザインにしましょうね」


 ロヴィーサ嬢を見て僕が言えば、ロヴィーサ嬢は明るい返答をしてくれる。こういう前向きなところがロヴィーサ嬢のいいところだと思っていた。


 ロヴィーサ嬢のお誕生日会にはアルマスの一家も、ヘンリッキの一家も来てくれた。王家からは代表としてエルランド兄上が来てくれている。

 エルランド兄上も高等学校を卒業してしまったら、魔族の国に一年間留学するので、僕はできるだけ何度も会っておきたい相手だった。


「ロヴィーサ嬢お誕生日おめでとうございます。ロヴィーサ嬢のおかげでエドは通常の成長を取り戻した気がします。きっとエドは誰よりもいい男になると思うので、待っていてやってください」

「わたくしはもう、エドヴァルド殿下以外と結婚することは考えていません。エドヴァルド殿下の成長を見守り、共に生きていくことがわたくしの喜びです」

「そうですか。それを聞いて安心しました」


 エルランド兄上はお祝いにかこつけて僕のことを言っている。ロヴィーサ嬢は荷十歳になるので、僕と年が七歳差に一時期だけ離れてしまう。

 それでも結婚するのは僕だけだと考えているとはっきり言ってくれたことが嬉しかった。


「ロヴィーサ様、お誕生日おめでとうございます」

「アンニーナ様、お辞儀を覚えたのですね。とても上手ですよ。お祝いありがとうございます」

「ロヴィーサ様、マンドラゴラの研究を兄上としています。その話をしに来てもいいですか?」

「いつでもいらしてください、アクセリ様。アンニーナ様が淑女のマナーを学びに来るときがいいですね」

「ロヴィーサ様、おめでとうございます。妹と弟がいつもお世話になっております。これからもよろしくお願いします」

「わたくしにも弟や妹ができたようで楽しいですわ」


 アンニーナが完璧なお辞儀でロヴィーサ嬢に挨拶をして、アクセリはロヴィーサ嬢にお屋敷に来ていいかを聞いている。アルマスはそんな二人にロヴィーサ嬢に恐縮しているようだ。


「ロヴィーサ嬢、ますます美しくなられましたね。亡きお母上も喜んでいることでしょう」

「ロヴィーサ嬢、大人になられて。本当におめでとうございます」

「ロヴィーサ嬢、エドヴァルド殿下と仲良く幸せな一年を送られてください」


 ハーヤネン家のご両親とヘンリッキがロヴィーサ嬢に挨拶している。


「お祝い、誠にありがとうございます。ハーヤネン家もヘンリッキ様の婚約成立おめでとうございました。エドヴァルド殿下はヘンリッキ様の親友。今後ともミエト家とハーヤネン家が友好な関係を築けるようによろしくお願いします」


 ハーヤネン家に対するロヴィーサ嬢の答えは、ロヴィーサ嬢個人としてより、ミエト家の当主としての答えに聞こえた。

 ロヴィーサ嬢が貴族たちから挨拶を受けている中、僕は大広間の端に見知った人物を見付けた。

 ロヴィーサ嬢のお父上だ。

 お母上が亡くなって所領を失ってから、公の場に出て来ることはなくなったと言っていたが、ロヴィーサ嬢のお誕生日が気になったのだろう。


 僕はロヴィーサ嬢のお父上に近寄って声をかける。


「ロヴィーサ嬢を祝いに来たのでしょう?」

「エドヴァルド殿下……私にその資格があるでしょうか?」

「ロヴィーサ嬢はずっと待っていたと思います。お父上を無理に引きずり出さずに、いつか出て来てくれるのを待っていたのですよ」


 僕が言うと、お父上は凛と顔を上げた。

 貴族の中を掻き分けてお父上が進んでくるのを、ロヴィーサ嬢の深い海のような目が捉える。


「父上……」

「ロヴィーサ、お誕生日おめでとう。母上が亡くなったとき、お前は十五歳だった。それなのに、全てを任せてしまって、裏方に回ってすまなかった。今からでも取り戻せるか?」

「父上はずっとわたくしの代わりに執務をやっていてくれました。わたくしは表に出るのは怖かったけれど、それでも裏で父上が支えてくれていたから当主がやれたのです。これからは父娘で、共に手を取り合って協力していきましょう」

「ロヴィーサ、ありがとう」

「父上、わたくしこそ、ありがとうございます」


 手を取り合うお父上とロヴィーサ様の姿に、僕は涙ぐんでしまった。

 元々関係は良好だったのだ。所領を失う事件がなければロヴィーサ嬢のお父上も裏に引きこもるようなことはなかった。

 これからはロヴィーサ嬢のお父上も表に出てきてロヴィーサ嬢を支えてくれるだろう。


 ロヴィーサ嬢のお誕生日は感動の中盛り上がって行った。

読んでいただきありがとうございました。

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