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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
二章 高等学校二年生の王子

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16.父上の喜び

 マンドラゴラと協力することによって、常人にも害のない魔力のこもった料理が作れる。マンドラゴラの葉っぱを何らかの方法で入れなければいけないので、それは工夫しなければいけないが、一枚だけなので味に大きな変化があるわけではない。


 僕はこのことをまず、父上に知らせる手紙を書いた。


 父上は僕が王城に留まれないことをとても寂しがっていた。何より、エリアス兄上もエルランド兄上もヒルダ姉上も魔力のこもった料理を食べても平気なのに、父上だけが毒になってしまうので、厳重に注意をしなければいけなかった。

 それがなくなるとなると、僕も王城に行くのが心が軽くなるし、二、三日ならば王城に泊ってもいいかもしれないと思いだす。


 王城で魔力のこもった食材は毒になるので、僕とロヴィーサ嬢しか扱えないが、調理した後のものは無害になっているので、誰でも扱うことができる。


 手紙を書いて王城に送ると、なんと、父上がミエト家に来てしまった。

 国王陛下としての執務があったはずなのだが、それをキャンセルして手紙を読んだらその足でミエト家に来たようなのだ。


「エド、手紙を読んだぞ。私もエドと同じものが食べられるのだな?」

「学友のアルマスとその弟のアクセリと妹のアンニーナと実験をしました。マンドラゴラの葉っぱを使い、マンドラゴラに歌わせることで、魔力のこもった食材から毒素を取り除けることが分かりました」

「今、エドヴァルド殿下と実験していますが、調理前の食材をマンドラゴラの葉っぱと一緒にして、蕪マンドラゴラのエーメルに歌わせることで、食材の時点から毒素が抜けないか見ています」

「これが成功すれば、王城の厨房に魔力のこもった食材を持ち込めます」


 ロヴィーサ嬢と僕は、調理するときに毒素を抜くだけでなく、素材の時点から毒素が抜けないか研究を進めていた。マンドラゴラの葉っぱを素材の中に揉み込んで、蕪マンドラゴラのエーメルに歌ってもらっているのだ。


 食糧庫の素材は大量にあるので、エーメルは大変そうだったが、疲れすぎないようにマンドラゴラの葉っぱは別のマンドラゴラから取っていたし、すぐに休めるようにプランターも傍に置いていた。


「そんな素晴らしい実験もしているのか。エドが週末に泊まりに来ることも可能になるのだな」

「ずっといるのは難しいかもしれませんが、時々なら王城に泊って、父上と同じものが食べられます」

「エドの学友は何という素晴らしい研究をしてくれたのだ。彼を讃えたい。彼に恩賞を与えるぞ」


 父上の喜びようは尋常ではなかった。

 僕はアルマスに恩賞を与えるという父上の言葉を聞いて、思い付いたことがあった。

 アルマスは平民で、暮らしに困っている。マンドラゴラが売れたお金はあるのだが、それもアクセリとアンニーナの学費のために貯めている。


「アルマスを貴族にできないでしょうか? 僕の学友のヘンリッキはアルマスのことを思っています。公爵家に婿入りするとなると、それなりの身分が必要でしょう」


 僕の提案に父上の表情が難しくなる。


「アルマス殿の功績は大きいが、それだけで貴族の身分を与えることはできないな。いや……子爵家で跡取りがいないものがいたな。そこに養子に入って……」


 真剣に考えてくれる父上に、僕は答えが出るのを待つ。


「すぐには決められないが、子爵家とも話をして、結論を出そう」

「父上、お願いいたします」


 頭を下げたところで、ロヴィーサ嬢が父上に声をかける。


「せっかくエドヴァルド殿下と同じものが食べられるようになったのですから、お茶をしていかれませんか?」

「よいのか?」

「国王陛下がいらっしゃったのに、お茶も出さないなんて失礼はできません」


 喜んでソファに腰かけた父上に、僕も厨房に行こうとしたがロヴィーサ嬢に止められる。


「エドヴァルド殿下は国王陛下をもてなしてください」

「は、はい」


 僕も父上の向かいのソファに座った。

 爺やがマンドラゴラを使って毒素を抜いたお茶とミルクを用意してくれる。

 ミエト家で一番高級なカップでミルクティーを飲みながら、僕は父上と対峙していた。


「父上、執務はよかったのですか?」

「それどころではなかった。エドの手紙を見たらいてもたってもいられなくなった」

「宰相が困っているのではないですか?」

「たまには困らせるのもいい。私は真面目にずっと国王をやってきたのだからな」


 父上がこんな風に執務を置き去りにすることは今までになかった。僕のことだからすぐに駆け付けてくれたのだろう。

 それだけ僕は父上に気にかけてもらっている。

 そのことが嬉しかった。


 ロヴィーサ嬢が小さなタルトとスコーンとジャムとクリームを持ってきてくれる。小さなタルトには、苺が飾られていた。


「この苺も魔力を帯びているものなのか?」

「そうです。エドヴァルド殿下のために、魔族の国からダミアーン王太子殿下が届けてくださったものです」

「普通の苺と変わりがないな。これは、毒素を抜いていない状態だと、気を付けなければ非常に危険だ」


 言いながら父上がタルトを食べる。

 タルトの苺はコーティングするシロップにマンドラゴラの葉っぱを入れて、蕪マンドラゴラのエーメルに歌ってもらっているので安心だった。


「美味しい。ロヴィーサ嬢はお菓子作りも上手なのだな」

「お褒めに預かり光栄です」

「スコーンのジャムは何かな?」

「梅のジャムです。甘酸っぱくて美味しいのですよ」


 梅のジャムも煮るときにマンドラゴラの葉っぱを入れて、蕪マンドラゴラのエーメルが歌っているので父上も食べられる。タルトの生地の材料も、スコーンの材料も、全部同じ処理がしてあった。


「これがエドの世界か。ずっと私が知ることのできなかった世界だ」

「やはり味わいが違いましたか?」

「普段食べているものとは少し違うな。だが、どれも美味しかった。年越しで泊まりに来るときにも、食材を持ち込んで厨房を使ってくれ」


 父上に許可がもらえて僕はとても嬉しかった。

 父上が帰ってから、ずっと歌いっぱなしだったエーメルは、疲れたのかプランターに埋まりに行っていた。僕はエーメルに近寄って、少しだけ出ている白い蕪の頭を撫でる。


「エーメル、本当にありがとう」

「びぎゃ!」


 僕のためならば構わない。

 そんなエーメルの気持ちが伝わって来た気がしていた。


 アルマスはマンドラゴラについての研究を進めているようだった。

 研究の成果を見せにミエト家にやってくる。

 アルマスが来ると、アクセリとアンニーナも一緒に来ていた。


「食材を素材の時点で毒素を抜く方法、うまくいってるよ」

「それならよかった。調理中でなくても毒素が抜ければ、食材の持ち運びが自由になるからな」


 食材にマンドラゴラの葉っぱを揉み込んで、蕪マンドラゴラのエーメルに歌わせて毒素を抜くというやり方の発案も、アルマスだった。アルマスとアクセリとアンニーナは、常人が魔力のこもったものを安全に食べるために尽力してくれている。


「素材で毒素が抜けたなら、僕も……じゃない、私も調理に参加できますか?」

「私も調理に参加したいわ」

「アクセリ、アンニーナ、家では全然手伝わないのに!」

「魔力のこもった食材を扱えるなんて、初めてだから」

「お家のご飯は、パンと野菜スープばっかりで飽きちゃった」


 アルマスもアクセリもアンニーナも満たされた栄養状態というわけではなかった。分かってはいたが、食べるものが限られていた時期の僕と重なって、僕は深く同情してしまう。


「ロヴィーサ嬢、アルマスとアクセリとアンニーナに食材を分けませんか?」

「構いませんよ。また狩って来ればいいだけのことです」


 毒素を抜いた豚肉や牛肉、鳥肉を分けるとアルマスもアクセリもアンニーナも喜んでいる。


「悪いな、エドヴァルド殿下」

「いいんだよ。アルマスには美味しいものを食べて欲しい。僕もずっと食べるものが限られていて、栄養失調でつらかった。アクセリとアンニーナにはそんなことがないようにしてほしいんだ」

「ありがとうございます、エドヴァルド殿下」

「とっても美味しそう! ありがとうございます!」


 食材を分けた後には僕はアルマスに伝えておかなければいけないことがあった。


「父上にアルマスを貴族にできないか話したんだ」

「え!? 俺が貴族に!?」

「これからのことを考えると、アルマスも貴族の地位があった方がいいと思うんだ」


 アルマスは驚いていたが、すぐには決まらないことだと告げると落ち着いていた。

 アルマスとアクセリとアンニーナを招いて、僕とロヴィーサ嬢はお茶をした。

読んでいただきありがとうございました。

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