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末っ子王子は貧乏令嬢を見初める ~御令嬢は実は凄腕冒険者でした~  作者: 秋月真鳥
二章 高等学校二年生の王子

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13.父上のお誕生日

 魔族の国へ移動する魔法石は大きいものではなかったので、ネックレスに加工してもらって僕が首から下げることになった。


「エドヴァルド殿下も発動できますよ。他にも場所を記録すれば、どこにでも一瞬で移動が可能です」


 魔法石には場所を記録する魔法が込められていて、記録させればどこへでも行けるという。これからは移動が楽になりそうだ。

 ロヴィーサ嬢と馬車に乗っての移動や、列車に乗っての移動も楽しいので、それはそれとしていいことにする。

 魔法石の使い方を僕は爺やから習った。


「王城へもすぐに行けるようになる?」

「できますよ。王城を魔法石に記録させましょう」


 細かな操作はできないのだが、記録された場所には僕が魔法石を発動させて飛ぶことができるのは便利だった。

 アメジストのような紫色の魔法石は首から下げていても全く違和感がない。

 そろそろ開かれる国王陛下である父上のお誕生日の祭典のことを僕は考えていた。

 本来、国王陛下のお誕生日はお誕生日は高等学校も研究課程も幼年学校も休みになって、国中で祝うものである。

 数日にわたって式典を行う国もある。

 しかし、父上は母上が亡くなってから、できる限りお誕生日はひっそりと静かに祝うことを望んでいた。

 国王陛下なので式典は免れないが、それも国民に対して王城のバルコニーから手を振るくらいのことしかしない。貴族との晩餐会もなくして、家族だけで祝うのが例年のことになっていた。

 妃である母上を失った父上は、そうやって喪に服しているのだ。


 それでもヒルダ姉上は帰国して来るし、エリアス兄上も帰国してくる。

 ヒルダ姉上は今回は夫である隣国の王太子殿下と一緒に帰国すると言っている。エリアス兄上は婚約者を父上のお誕生日に同席させるだろう。

 当然、ダミアーン伯父上も駆け付けてくれる。

 僕もロヴィーサ嬢が一緒なので、例年になく賑やかな晩餐会になりそうだ。


 ロヴィーサ嬢と僕で晩餐会の料理を作っていた。

 ダミアーン伯父上も食べるので、三人分になる。

 ロヴィーサ嬢はこの日のために特別なモンスターを狩っていた。


「ラム肉もマトンも羊ですよね。どう違うのですか?」


 ラムの骨付き肉に下味をつけて、パン粉とマスタードでオーブンで焼いているロヴィーサ嬢に、僕は問いかける。


「ラムはまだ草を食べたことのない乳飲み子なのです。草を食べ始めると羊は臭みが出ますが、乳飲み子のうちに食べると、臭みがほとんどないのです」

「え!? お乳を飲んでいる赤ちゃんの羊を食べるのですか?」

「群れの中で乳飲み子は守られているので、狩るのは大変でした。エド殿下に美味しいお肉を食べて欲しくて狩って来ました。お嫌でしたか?」


 問われて僕は考える。

 僕が食べるという行為をしているのは、常に命をいただいているのだ。それが乳飲み子であっても大人であっても関係はない。

 生きているモンスターを見て僕は美味しそうだと思ってしまうし、食べるということは命を奪うということでどうしても残酷にならざるを得ない。


「大事に食べます。ロヴィーサ嬢が大変な思いをして狩って来てくださったラム肉を食べないなんてことはあり得ません」

「それならばよかったです。ラム肉は貴重なので、エド殿下に是非食べて欲しかったのです」


 貴重な乳飲み子の羊の肉。

 柔らかくて美味しいのだろうか。

 残酷かもしれないが、僕は食欲の方が勝っていた。


 料理が冷めないようにお弁当箱に詰めて、僕は魔法石を発動させる。白い光に包まれて、目を開けたときには王城の前庭に来ていた。

 バルコニーから手を振っている父上の姿がちらりと見えた気がする。

 王城に入るとエリアス兄上が婚約者と共にいた。


「ロヴィーサ嬢に紹介いたします。婚約者のユリウスです」

「何度かお目にかかっていますね。婚約式でもお会いしました。ロヴィーサ様の純白の衣装は花嫁のようでとても美しかった。私はユリウス・ニスラ。ニスラ大公家の息子です」


 ニスラ大公家は、父上の母上の弟が降下した王族だ。ユリウス殿とエリアス兄上はまた従兄弟にあたる。

 ユリウス殿は灰色の髪に薄い緑色の目をしている。

 王族同士で、同性ではあるが将来はエルランド兄上か僕の子どもを養子に迎えることで二人の婚約は成り立っていた。


「ロヴィーサ・ミエトで御座います。ユリウス様、よろしくお願いします」

「とても勇敢で、大型のモンスターも狩る冒険者のロヴィーサ様が、こんなに細身で小柄だとは驚きました」

「わたくしの腕力は鬼の力の指輪のおかげですから」


 ロヴィーサ嬢は謙遜しているが、僕はそれだけではないと分かっていた。

 モンスターを狩るためには、腕力だけでは到底無理だ。咄嗟の判断力が必要だし、思い切りも必要だ。立ち回りもうまくなければいけない。

 最初は躊躇いもあったのだろうが、今はロヴィーサ嬢はその全てを兼ね備えたSSランクの冒険者なのだ。


「ユリウス、エドとロヴィーサ嬢の食べるものには気を付けて欲しい。エドもロヴィーサ嬢も、ユリウスを傷付けたくないと思っているだろうから」

「分かったよ、エリアス」


 また従兄弟同士、ずっと仲が良かったというエリアス兄上とユリウス殿。二人の世界を築き上げている。


「エド、わたくしの旦那様をロヴィーサ嬢に紹介させてちょうだい」

「ヒルダ姉上!」


 妊娠しているのだが元気そうなヒルダ姉上が僕とロヴィーサ嬢のところに近付いてくる。

 ヒルダ姉上の隣りに立っているのは、黒髪に黒い目、褐色の肌の男性だった。


「初めまして、カスパル・アルテアンです。ヒルダ様の夫で、世界一幸せな男です」

「まぁ、カスパル様ったら、そんなことを仰って!」

「本当のことだから構わないでしょう?」


 カスパル王太子殿下の挨拶にヒルダ姉上が少女のように照れている。いつも長女として気を張っている姿しか見たことがなかったから、僕には新鮮だった。


「エドヴァルド・ナーラライネンです。ヒルダ姉上を世界一幸せにしてくださる方ですね」

「そうとも言います」

「エドヴァルド殿下の婚約者のロヴィーサ・ミエトです」

「モンスターを狩る冒険者の公爵とお聞きしております。そのお話も詳しく伺いたい」


 カスパル王太子殿下はロヴィーサ嬢に興味を持っているようだった。

 ヒルダ姉上がいるので色恋沙汰にはなるわけがないが、ちょっとだけ僕は妬けてしまう。


「ロヴィーサ嬢は僕の婚約者なのですよ」

「話すのもいけませんか?」

「二人きりでは嫌です」


 素直に僕が拗ねた気持ちを口にすると、カスパル王太子殿下が大らかに笑う。


「晩餐会のときにお訪ねしましょう」

「そうしてください」


 僕が返事をすると、ロヴィーサ嬢が僕の袖を摘まんでいた。


「エドヴァルド殿下、恥ずかしいです」

「僕は自分に正直なのです」


 ロヴィーサ嬢に僕は言い返した。


 ダミアーン伯父上と父上が一緒に部屋に入ってきて、エルランド兄上も揃って、全員で食卓につく。

 僕とロヴィーサ嬢はダミアーン伯父上のお皿と三人分のお皿に、作って来た料理を置いて行った。

 蛸のカルパッチョに、家庭菜園で採れた野菜のゼリー寄せと、ラム肉のマスタード焼きと、デザートのアプリコットのタルト。

 ゼリー寄せは野菜が彩りよく、鳥肉も入っていてとても美味しそうだ。


 父上とエリアス兄上とユリウス殿とカスパル王太子殿下とヒルダ姉上とエルランド兄上も、同じメニューなのだが、材料が全く違う。

 僕とロヴィーサ嬢とダミアーン伯父上の料理は魔力がこもったものやモンスター由来のもので、父上とエリアス兄上とユリウス殿とカスパル王太子殿下とヒルダ姉上とエルランド兄上は普通の食材だ。


 事前に王城の厨房とメニューを擦り合わせておいて、同じ見た目のものを食べられるようにロヴィーサ嬢が心を砕いてくださったのだ。


「ロヴィーサ嬢の料理はとても美味しいな」

「僕も作ったのですよ」

「エドヴァルドも色んなことができるようになって、私は嬉しい」


 ダミアーン伯父上が食べながらしみじみと呟いている。


「今年も無事に誕生日を迎えられてとても嬉しい。家族が揃っての晩餐会が私の一番の楽しみだ。集まってくれて感謝する」


 母上が亡くなってから父上はどれほどの悲しみと絶望の中にいたか僕には想像もできない。

 その中でも父上は僕たち兄弟を愛して育ててくれた。


「父上、お誕生日おめでとうございます。いつまでもお元気でいてください」


 僕の言葉に、父上は微笑んでグラスを掲げた。

読んでいただきありがとうございました。

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