14.誇れる成績
冬休み前の試験で、僕はヘンリッキの成績を抜かした。
学年でアルマスが一番、僕が二番、ヘンリッキが三番だったのだ。
僕に抜かされてヘンリッキはものすごく悔しがっていた。
「あのケアレスミスがなければ、エドヴァルド殿下に勝てたのに」
「ケアレスミスも実力のうちだよ」
「アルマスは厳しいな」
ヘンリッキはアルマスに言われてしょんぼりとしていた。
僕は自分がこんなにいい成績を取ったことがなかったので、みんなに自慢したい気分だった。
妊娠中なのでヒルダ姉上は頻繁には帰ってこられないけれど、エリアス兄上は冬休みには一年間の留学を終えて帰ってくる。エリアス兄上にも、エルランド兄上にも、父上にも、僕は早く報告したかった。
冬休みに入ってから計画しているのは、それだけではない。
王城に行くのは当然なのだが、ロヴィーサ嬢と魔族の国へも行くとお祖父様とお祖母様と約束していた。
僕に会いたくて仮病を使うくらい僕のことを可愛がってくださるお祖父様と、それを苦笑しつつも僕を優しく受け入れてくださるお祖母様に、僕が頑張ったことを認めてほしい。
大人ぶったことを言ってみても、僕はまだまだ十三歳の子どもだった。
まず最初に僕が報告したのはロヴィーサ嬢だった。
帰って来た試験の答案用紙を見せて、それらがほとんど満点であることを示す。
「アルマスが学年一位で、僕が二位で、ヘンリッキが三位でした!」
「エド殿下、努力の成果がでましたね」
「ロヴィーサ嬢が毎日教えてくださったおかげです」
飛び付いて喜びたかったけれど、ロヴィーサ嬢は妙齢の女性である。ヒルダ姉上やエリアス兄上やエルランド兄上のように、気軽に抱き付いていい相手ではないと分かっていた。
我慢する僕はうずうずしてしまう。
その様子を見て、ロヴィーサ嬢は勘違いしたようだ。
「お腹が空いていますか? おやつに何か作りましょうか?」
ロヴィーサ嬢の言葉に僕のお腹がきゅるるるると鳴る。お腹が空いているのも嘘ではないし、僕はロヴィーサ嬢の作ってくれるおやつが大好きなので、素直に頷いた。
「おやつが食べたいです」
「昨日から仕込んでおいたものがあるのです」
厨房に行ってロヴィーサ嬢が魔法で冷やす冷蔵庫の中からガラスの器を取り出す。中には白いものが入っている。
「それは何ですか?」
「マシュマロをヨーグルトに一晩漬けたものです。ベリーのソースをかけていただきましょう」
「マシュマロとヨーグルト?」
どんな味か想像できない僕に、ロヴィーサ嬢は居間にガラスの器を持って行って、温かな紅茶を淹れてくれた。
紅茶にミルクを入れて少し冷まして飲んでから、ヨーグルトに漬けたマシュマロを食べる。
ヨーグルトの水気を吸ったマシュマロはしゅわっと口の中で溶けるようで、ヨーグルトの酸味とベリーのソースがよく合う。不思議な食感のヨーグルトに漬けたマシュマロはとても美味しかった。
「マシュマロは何でできているのですか?」
「主にゼラチンと卵白ですね」
「マシュマロも手作りですか?」
「もちろん。魔力のこもった素材で作られたマシュマロはこの国にありませんからね」
ヒルダ姉上やエリアス兄上やエルランド兄上がマシュマロというものを食べている場面を見たことはあるが、僕はそれを受け付けなかった。常人の食べるマシュマロは僕にとっては栄養にならず、有害だったのだ。
ロヴィーサ嬢は僕のためにマシュマロまで手作りしてくれている。
「ヨーグルト漬けのマシュマロは、母が生きていた頃によく食べていたのです。母の大好物でした」
「ロヴィーサ嬢にとっても思い出の味なのですね。一緒に味わえて嬉しいです」
「エド殿下との思い出の味にもなりました」
美味しいおやつを満喫して、僕は王城に行く準備を整えた。
王城までは魔法石で飛んでいける。それまでは馬車でそこそこ時間がかかったのに、魔法石を使うようになってから、僕の生活はかなり便利になった。
王城に行くとエルランド兄上と父上が迎えてくれた。
「エリアス兄上は今日、留学先でお別れ会があるそうだよ」
「帰りは明日になるそうだ」
「そうなのですか……エリアス兄上にも聞いて欲しいことがあったのですが」
ちょっと残念に思っていると、エルランド兄上が僕の髪を撫でる。去年は肩くらいだった僕の髪は、肩を越すくらいに伸びていて、サイトテールにして赤い鳥の髪飾りで纏めている。右側の横の髪は相変わらず三つ編みにして下ろしている。
ロヴィーサ嬢は豊かな緩やかに波打つ黒髪をハーフアップにしているが、艶やかな黒髪なのでとても豪華に見える。
エルランド兄上は金髪をさっぱりと短く切っていて、父上も金髪を短く切っている。
「私には話してくれないのかな?」
「私も聞きたいのだが」
エルランド兄上と父上に促されて、僕は両手を握り締めて力を込めて報告した。
「学友のアルマスが学年で成績一位だったのですが、僕が二位になりました! ヘンリッキが三位です。アルマスと僕とヘンリッキで上位三位を占めました」
褒めてもらえるだろうと目を輝かせていると、父上が僕の身体を抱き寄せる。ぎゅっと抱き締められて、僕は胸が温かくなる。
「さすがだな、エド。我が息子。私の誇りだ」
「エドは勉強すればできると思っていたよ。頑張ったのだね」
エルランド兄上も僕を褒めてくれる。
父上とエルランド兄上の二人にもみくちゃにされながらも、僕は幸福な気分で胸がいっぱいだった。
「ロヴィーサ嬢がずっと勉強を教えてくれていたのです。ロヴィーサ嬢にも研究課程の勉強があったのに」
「わたくしは、エドヴァルド殿下の宿題を少し見ただけです」
「間違っているところを丁寧に教えてくれました」
謙遜するロヴィーサ嬢に、僕は一生懸命父上とエルランド兄上に言う。
「ロヴィーサ嬢は勉強まで教えてくれるのか。あり難いことだな」
「エドのためにならロヴィーサ嬢は何でもしてくれそうだな」
エルランド兄上の揶揄うような言葉に、ロヴィーサ嬢が顔を赤くして恥じらっている。
僕のためにモンスターを狩って、家庭菜園を作って野菜や香草を育て、料理を作って、勉強まで教えてくれる。ロヴィーサ嬢は正しく理想の女性だった。
「来年度はロヴィーサ嬢の手を借りなくても成績を保てるように頑張ります」
「そうなると、わたくしは少し寂しいのですが……」
「ロヴィーサ嬢!?」
「エドヴァルト殿下に頼っていただけるのが嬉しいのです」
料理も一緒に作っているし、家庭菜園の世話も一緒にしているから、ロヴィーサ嬢はそれほど大変ではないと言ってくれる。
ロヴィーサ嬢に甘えているのは情けないかもしれないが、ロヴィーサ嬢がそう言ってくれるのならば、僕もロヴィーサ嬢との時間が減るのは寂しかったのでお願いしようかと思った。
「冬休みには魔族の国へ、お祖父様とお祖母様を訪ねて行こうと思っています」
冬休みの計画を父上に伝えると、父上の顔が微妙な表情になる。
何を考えているのだろうと観察していると、形のいい顎を撫でて難しい顔で呟いた。
「狡いな」
「え?」
「エドが魔族の国にばかり行くのは、正直、羨ましい」
「父上、僕はこの国に住んでいるのですよ?」
「エドも王城に泊まりに来て欲しい」
父上の願いに僕とロヴィーサ嬢は顔を見合わせる。
魔族の国ならば出される食事が全部魔力がこもっているので、僕は問題なく食べられるのだが、この国の王城となるとそうはいかない。僕がミエト家に移った時点で、父上の身体に害になるようなモンスター由来の食材や魔力のこもった食材は厨房から撤去されているし、父上の食べるものを作る厨房でロヴィーサ嬢が料理をすることもできない。
悩んでいると、ロヴィーサ嬢から提案があった。
「庭に煉瓦を組んで、バーベキュー台を作ってもいいですか?」
「バーベキュー?」
「火を焚いて、その上に網を置いて食材を焼いて食べるのです。この季節ですから寒いかもしれませんが、鍋も使えばスープ類も作れて、体が温まると思います」
厨房を使えないならば、庭にバーベキュー台を組んでしまえばいい。
ロヴィーサ嬢の名案に僕は感心してしまった。
「それがあれば、エドは王城に滞在できるのか?」
「作れる料理の種類が限られてしまいますが、火を焚く場所があれば、食材は持ち込んで料理を作ることができます」
「ぜひそうしてくれ。エド、年越しは王城で共に過ごそう」
父上に誘われて、僕はロヴィーサ嬢も一緒ならばそれも楽しいのではないかと思い始めていた。
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