2.ヘンリッキのお誕生日
ヘンリッキのお誕生日会は週末にハーヤネン公爵家で開かれた。
ハーヤネン公爵家はこの国でも有数の貴族なので、お屋敷も侯爵家だったミエト家よりも大きく、年季が入っている。
古い建物も修理しながら使って行くのがこの国の習慣なのでハーヤネン公爵家の年季が入っている建物も立派に修復していて、流石は長く続く公爵家だと感心してしまう。
ヘンリッキは深緑のスーツを着て、隣りには紺色のスーツを慣れない様子で着ているアルマスがいた。
僕とロヴィーサ嬢が近寄ると、アルマスがホッとした様子で僕とロヴィーサ嬢に近寄ってくる。
「誰も知り合いがいないから、ヘンリッキと一緒にいるしかなくて。ヘンリッキは今日の主催なのに、俺が隣りにいたらおかしいだろ?」
「アルマス、敬語」
「あ、いけね。おかしいでしょう?」
「そうだね。僕とロヴィーサ嬢と一緒にいる?」
「お願いできますか?」
居場所のないアルマスのために僕はアルマスと一緒にいることにした。
さすがにハーヤネン公爵家に料理の持ち込みはできなかったので、僕は食べるのを我慢して、アルマスが軽食をテーブルに取りに行っているのを羨ましく見送る。
心得たもので、ロヴィーサ嬢は僕が食べられないのを分かっているので、僕と同じく何も口にしなかった。
「我が家の息子、ヘンリッキの誕生日にお越しくださってありがとうございます」
「ヘンリッキも十四歳。国王陛下から温情をいただいた日より、更生に務めております」
「今はエドヴァルド殿下の学友となって、成績もよく、自慢の息子に育っております」
「今後ともヘンリッキのことをよろしくお願いします」
もしかすると、ヘンリッキのご両親も兄のハンヌのことは持て余していたのかもしれない。ヘンリッキが幼い頃にハンヌはヘンリッキの乳母に庭の毒の木の実を食べさせて、昏倒させたとヘンリッキが言っていた。
悪戯にしては酷すぎる行為だ。
そんなハンヌにからかわれ、苛められ続けたヘンリッキは、正直兄のハンヌのことが好きではないと言っていた。
ヘンリッキに兄がいることは、ハーヤネン公爵家では今後忘れられていくのだろう。
公爵家ともあろう家が、取り潰しになるようなことをしでかしたハンヌは、修道院から二度と出て来ることができないし、話題になることもない。
ハーヤネン公爵家の嫡男はヘンリッキになり、素行のよくなったヘンリッキが僕の学友にもなっているのを、ご両親は喜んでいる。
「ヘンリッキ、お誕生日おめでとう。僕より一年近く年上なのは何だか悔しいな」
僕がお祝いを言いに行くと、ヘンリッキはにこにこと笑っている。
「私の方がエドヴァルド殿下よりも年上ですね。アルマスとも同じ年になりましたよ」
「あ、そうか! 二人だけ同じ年でずるいな」
よく考えれば、アルマスは春生まれなので、僕の誕生日よりも先にお誕生日が来てしまう。
僕がアルマスと同じ年になれる日は永遠に来ないのだ。
それなのにヘンリッキがアルマスと同じ年でいる期間は秋、冬、春までかなりある。
羨ましくなってしまう僕にアルマスが苦笑している。
「元々、俺……じゃない、私は幼年学校に入るのが一年遅れていますからね。弟が一歳で、妹が生まれた年だったので、私を幼年学校に行かせている余裕がなかったのです」
幼年学校に行かせた方が家に子どもがいなくなって楽なのではないかと僕は考えてしまうが、そうではないらしい。
アルマスが教えてくれる。
「六歳になると、赤ん坊を見ていることも、オムツを替えることもある程度できるから、私はそれをさせられていたんですよ。弟のアクセリと妹のアンニーナは年子で手が足りなかったし、両親が農作業に行っている間も、アクセリとアンニーナの面倒を見る相手が必要だったんです」
六歳の子どもに一歳と生まれたばかりの乳幼児の面倒を見させる。そんな世界があるのだと僕は驚いていた。
六歳というのは守られる子どもであってほしいのに、兄として、労働力としてアルマスは両親から頼りにされていた。
「真剣に国を変えなければいけないね」
この国には学びたくても学べない子どもたちがたくさんいる。
そのことを知った日でもあった。
「父上、母上、彼がアルマスです」
「アルマス殿、ヘンリッキのことをよろしくお願いします」
「エドヴァルド殿下とアルマス殿と仲良くなってから、ヘンリッキは変わりました」
「今後ともよろしくお願いしますね」
ヘンリッキがアルマスをご両親に紹介している。アルマスがヘンリッキの服を着ているのもご両親は気付いているだろう。
平民のアルマスでも差別することなく、ご両親は接している。
ヘンリッキはアルマスのことをご両親に何と伝えているのだろう。もしかすると、自分の想い人だと伝えているのかもしれない。
「私の方こそ、ヘンリッキといるととても楽しいです。私のお誕生会で、ヘンリッキは毒を口にしてしまった弟を助けてくれました。頼りになる友人だと思っています」
アルマスもご両親に挨拶していた。
ミエト家に帰ると僕はお腹がペコペコだった。
ロヴィーサ嬢が作っておいてくれたサンドイッチを、手を洗ってすぐにソファに座って食べる。ロヴィーサ嬢も同じものを食べている。
サンドイッチには白身魚のフライが挟まれていた。コカトリスの卵で作ったタルタルソースがよく合う。
「エド殿下はお肉よりもお魚が好きなのですか?」
「お肉も好きですが、お魚の方が好きかもしれませんね」
僕がお誕生日の翌日にリクエストしたのも鮭のホイル焼きだったし、今日食べたいとお願いしたのも白身魚のフライのサンドイッチだった。
お肉も美味しいのだが、僕は魚の方が好きなようだ。
「それなら、作ってみたいものがあるのですが、生魚は寄生虫が怖いのですよね」
ロヴィーサ嬢は作ってみたい料理があるようだが、それは生魚を使うもので、生魚は寄生虫がいるかもしれないので難しいと言っている。
ロヴィーサ嬢の作りたいものならば作らせてあげたいし、僕もロヴィーサ嬢の作ったものを食べてみたい。
「爺や、シードラゴンのお刺身を僕は食べたことがあるよね。爺やはあのとき、寄生虫について何も言わなかった」
「私は魔法でモンスターに特殊処理を行えますから、寄生虫を取り除くことも可能なのです」
「そうなの!? 早く教えてほしかったな!」
僕は爺やに確認して、ロヴィーサ嬢に言った。
「爺やがモンスターに魔法で特殊処理を行って、寄生虫を取り除くことができるそうです」
「モンスターの卵も、特殊処理で菌を取り除くことができます」
爺やには僕の知らないものすごい能力があった。
「それならば、わたくしは魔窟の右側の部屋を探索しに行きましょうかね。寄生虫を取り除けるといっても、新鮮な魚でないと美味しくないですからね」
魔窟の右側の部屋は海産物の養殖場になっている。
左側の部屋が畜肉の養殖場になっている。
右側の部屋に行くということは海産物を取ってくるということだ。
「僕も同行します!」
「エド殿下は水の中には入らないでくださいね」
ロヴィーサ嬢の注意に僕は素直に頷いた。
僕は泳いだことがない。
ロヴィーサ嬢は水の中にでも服を着たままでざぶざぶと入っていくが、僕が入ったら溺れてしまうだろう。
右側の部屋に行くときには、僕は極力水の中に入らないで済むように気を付けている。
水の溜まった部屋でも、端には通路があって、そこを歩いて行けば次の部屋まで濡れずに進めるのだ。
びしょ濡れになったロヴィーサ嬢は髪や服を絞って次の部屋に進んでいるが、その逞しさを僕は尊敬してしまう。
「僕も泳げるようになりたい」
「泳ぎの練習をするのは悪くありませんが、魔窟ではおやめください」
「そうだよね。どこで練習すればいいんだろう」
馬車の中から川で泳いで遊んでいるひとたちを見たことがあるけれど、僕はそこに混じることはできない。
僕が王族で、王子だからだ。
王族というのも窮屈なものだと、僕は改めて思っていた。
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