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天龍寺⑪
「すいません。元カノからブロックされてるんで行かないといけないんです。行って話を聞きたいんです」
「行ってもホントの事を教えてくれるとは限りませんよ。ブロックされてるから、嘘つかれてもわからないですし…」
裕華の必死の訴えに悲しそうな瞳のイケメン。
「元カノさんにもう新しい彼氏が出来たよ、だからあたしと付き合ってとか、作り話で都合のいいように先導されるだけかもしれませんよ」
かわいい声の軽い口調で、嫌われないようにする裕華。
「そんなことはないと思いますけど…」
声優の本気はディスっている事すらイケメンに気づかせない。
「そんな事あります!別れて直ぐの元カノに近づく男友達がいたら、どう思います?絶対に狙ってるでしょ」
「確かに……」
裕華の本気の説得に気圧され、同意するイケメン。
「「……………」」
2人が深刻な表情で黙り込む。
真摯に向き合う2人は、蝋梅の匂いを感じる余裕もなくなる。
「「……………」」
甘い香の下、甘くない話しで沈黙が続く。
「それでも、やっぱり大阪へ行きます。ごめんなさい」
「そうなんだ……」
肩を落とす裕華。
2人の手はいつのまにか距離ができ、歩き出す。
無言で北門を出て、天龍寺を後にする。




