俺たちの戦いはこれからだ③
落ち込む裕華を見かねた沙音が先輩のように優しく慰める。
「#安井金毘羅宮行く#京都#隠語で何もひっかかりませんよ。#京都#隠語で調べても安井金毘羅宮は出てこないですよ?」
「歌織先輩の予想は外れてるんじゃないでしょうか?」
沙音は下を向いたまま、スマホで検索しながらフォローする。
「そうなの?安井金毘羅宮行くって隠語はないの?」
裕華の死んでいた瞳にアイドルの輝きが戻るが、下を向いていた沙音は裕華の変化に気がついていない。
むしろ見たくないかのように、沙音はスマホを凝視しながら会話する。
「いや、知らないですけど、検索してるだけなんで」
「でも出てこないでしょ?“安井金毘羅宮に行きます、はあなたと縁を切りたいです”なんて意味はないのよ」
裕華が歌織にゲスい顔で勝ち誇る。
「ゆーぼう先輩もちょっと思ってたでしょ!ネットにないけど、イケメンがどういうつもりで言ったかわかりませんよ」
裕華にザマア返しされて、歌織はゆずるつもりはない。
「すっごい迷惑そうにしてましたよイケメン。だからゆーぼう先輩と縁切りしたくて言ったんですよ」
「そんなことないし、ちゃんと回せたし、ラジオMCなら80点くらいだったし」
「ラジオ採点してどうするんですか?そんなんだからモテないんですよ」
会話に加わるつもりが無さそうに、スマホを見ながら下を向いていた沙音が、思わずツッコミを入れる。
しまったと口を押さえる。
しかし、手遅れだ。裕華が沙音にも詰め寄る。
「モテるし!初対面の人に話しやすい、オモシロイ、可愛いってよく言われるから」
「それですぐ彼氏ができるけど、3ヶ月以内にだいたいフラれてますよね?」
ここぞとばかりに歌織が弱点をつく。
「そんなことないし、イケメンバンドマンとはけっこう続いたし」
「「あぁ~長かったですね~」」
歌織と沙音が静かに口をそろえる。
2人の顔が急に窒息しそうなくらいに青ざめる。
疲れがどっとでて、どうでも良くなってきた。
「とりあえず、順番にお風呂入らないといけないけど、どうしますか?」
作り笑顔の沙音が話題を変える。
「あたし下でビール買ってくるから、どっちか先に入ってて」
裕華は足早に部屋を出ていった。
残された2人が部屋に負のオーラを充満させる。
「歌織先輩、あたしたちあんまり詳しく知らないんですけど…」
「去年の夏イケメンバンドマンと同棲するとかで事務所とゆー先輩が、もめたって本当ですか?」
「本当よ… 去年の夏、同棲する前に別れたらしいけど」
「え?本当なんですか?ゆー先輩かわいそう、けどそれ事務所もひどくないですか?」
沙音が裕華の肩をもつと、歌織が首を横にふる。
「バンドマンって本人が言ってるだけで、ただのニートだったの」
「デート代とか、バンドのライブチケット100枚とかゆーぼう先輩が全部出してて…」
「さらに同棲しよってなったらしいけど、お金がなくて、ゆーぼう先輩が全部出すってなったんだけど、ゆーぼう先輩もバンドマンにムシリとられててお金がなかったの」
「それで事務所にお金前借りを頼んで、怒られたのよ」
「わぁ~」
沙音が人生最大のドン引きする。
「それで、事務所となーぼう先輩と私で同棲を止めようとしたの」
「え?別れさせようじゃなくて?止めようとしたんですか?」
「ゆーぼう先輩は別れないって絶対ゆずらなくて、とりあえず同棲から阻止したの、そしたら…」
「そしたら?」
「ニートとは新しい寄生先を見つけて同棲しだして、ゆーぼう先輩はフラれたの」
「えー!何それ!最悪ですね!そんなのはじめて聞きました!」
沙音がドン引きを重ねる。
「ゆー先輩はどこでそんなニートに引っ掛かったんですか?」
「たしか、福岡へ1人旅行に行った時って………」
歌織と沙音が人生最大のピンチを迎えたように顔を見合せ固まる。
「ゆーぼう先輩!」「ゆー先輩!」
2人が部屋を飛び出し裕華を追いかけた。




