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カナン⑤

「……すごいですね……」


「じゃあ、よろしくお願いします」

井ノ瀬裕華が丁寧にお辞儀する。暗に自分のアンケートを押し通そうとする。


“しまった”主導権をにぎられたコンシェルジュが立て直しを試みる。

「この条件でお相手を紹介するのは困難ですが、本当にこのままで登録しますか?」


井ノ瀬裕華とコンシェルジュの間に火花が散る。

佐崎歌織はのんきに座っている。

このアンケートで結婚希望者ゼロだった事すら忘れていそうな様子である。


「はい、このままでお願いします」

力強く返事する井ノ瀬裕華の瞳は強い意志を示していた。


「このアンケートを元にプロフィールを作成して、お見合いを希望する男性が見つかるとは思えませんが…」

「本当にこのままのアンケートでよろしいでしょうか?」

富松有紀は親切心から確認するが、地雷を踏んでしまう。


井ノ瀬裕華が爆発する。

「富松有紀さんはお見合いをする時、お相手のフェイスブックを調べたりしませんか?」


「?しらべますけど??」


「私たちはこれでも10年以上アイドル声優をやっているんです。フェイスブックはないけど、ウィキペディアや写真やコメントや動画がいっぱい、いっぱい、あるんです」

「検索したらチェックしきれないくらいの情報が出るんです!!」


「そうかもしれませんが、それが何か?」

気迫にのまれた富松有紀は弱々しい口調で尋ねる。


「私たちは実家暮らしで今まで何もやってこなかったんです。料理も家事もしないと公言しました」

「番組の企画で料理をすることはあっても、料理ができたことはないんです」

「おもしろクッキングかデンジャラスクッキングです」


胸を張ってみすぼらしい事を言う井ノ瀬裕華を見て富松有紀の様子が先ほどから変化しだした。

「そうですか…」


普段からテンション高めの井ノ瀬裕華がハイテンションにまくしたてる。

「卵焼きを作ると言って黒い目玉焼きを作ったり」

「オムライスを作ったらチャーハンと言われたり」

「シュークリームが膨らまず、クッキーのカスタードクリーム添えとなじられたり」


「ちょっと、黒目玉焼きとシュークリームは私のじゃないですか、やめてくださいよ」

横で何も言わずに首を縦に振り続けていた佐崎歌織がようやく口を開く。


「だから、アンケートを偽装したら秒でバレてネタにされるのがオチなんです」

自分でしゃべって、自分で悟りを開いた井ノ瀬裕華が勝手に落ち込む。


富松有紀は見事なブーメランで刺された井ノ瀬裕華を見て不思議な魅力に魅了された。

「そうだったんですね。すみませんでした。…」

わけのわからない言葉を言ってしまう。常人に対してならばクッキングスクールに行けと言うところだ、という自覚は残っている。


コンシェルジュとして葛藤した結果を告げる。

富松有紀自身、内面では驚きの言葉が出てきた。


「ではこのままで受付ますがご紹介できる保証はありません、そこはご理解の程よろしくお願いいたします」

「お2人は事務所所属のプロ声優ですので、特別会員登録可能ですがどういたしますか?」


「「特別会員登録ってどんな制度ですか?」」

この後のランチはラーメンにするか、パスタにするか、考えていた佐崎歌織の意識がこの場に戻る。


興味津々(きょうみしんしん)の2人が前のめりとなる。


「通常は登録料と入会金で30万円、月会費3万円、お見合い料1万円が必要ですがすべて無料、プライバシーを考慮して登録情報は一般公開されません」


「特別会員登録します」

井ノ瀬裕華が即決する。


「ただし、月に3回こちらの指定するお相手とお見合いをしていだきます」

先ほどまでのフランクな態度から一気に丁寧な対応となる。

安心する笑顔と声で、コンシェルジュが慣れた様子で背筋を伸ばして説明する。


「それって?どういう?」

井ノ瀬裕華がくい気味に質問する。

佐崎歌織はお昼ご飯の後はどうしよかなぁと、上を向いて考え始める。自分にはあまり関係なさそうだと判断する。


今まで、何度も同じ質問に答えてきた、コンシェルジュはいつも通りに説明する。

「もちろん、嫌なお相手と無理やりお見合いを進めるわけではありません。井ノ瀬様の希望条件にあったお相手とお見合いします」

「ただし、月に3回だけ井ノ瀬様の活動日にこちらの指定する方とお会いしていただきます」


コンシェルジュの目をしっかり見て井ノ瀬裕華がたずねる。

「それだけですか?」


「それだけです。ただし、成婚となった時の成婚料30万円のお支払いは必要です」


「入会します!」井ノ瀬裕華は再度、即決する。


「入会するんですか?」佐崎歌織が焦った顔を作る。

自分に紹介できるハイスぺ男子はいなかった事を思い出し、入会拒否する理由を探し始める。


「もちろん入会するよ、歌織は入会しないの?」


「えぇ~と、…月に3回も知らない人と会うの疲れそうですから…」

あたしが入会してもお見合い相手がいないとは口が裂けても言えない。


「いっしょに入会して、すごい相手と結婚しようよ。それでいつも小馬鹿(こばか)にしてくる後輩トリオにギャフンと言わせようよ」


「いやぁ~あのぉ~ライブ2本に新曲リリイベとか4月、7月ワンクールのアニメがあって月に3日もお休みとれませんし遠慮しておきます」


「そっかじゃあしょうがないね。あたしが先に結婚して待っててやるよ」


「はい、よろしくお願いします」


コンシェルジュは沈黙して2人の会話が終わるのを待って手続きを始める。


最後に井ノ瀬裕華に男性プロフィールを十数枚見せて確認する。


「それではこちらの会員の中からお見合いをセッティングしたいと思いますがよろしいでしょうか?」


高学歴、高年収の30代前半から後半の男性の写真入りプロフィールが並べられる。


全員がプロの写真家で用意した写真に高価な衣装をまとっている。


「はい、お願いします」

井ノ瀬裕華は自分が提案した条件を忘れて即・決・断する。


「では、今からアンケートを元に井ノ瀬裕華さんのプロフィールをお作りします」

「出来次第、男性にプロフィールをメールし、お見合いを希望するか確認します」


「今日中にお見合い日を設定したいと思いますが、年末年始にお仕事の予定はありますか?」


「今日から1月3日までオフです。お見合いと旅行がかぶったら、旅行キャンセルするから大丈夫です!」

嬉しそうに、まるで結婚が決まったかのように井ノ瀬裕華がうなずいた。


「それでは本日中にご連絡しますのでよろしくお願いします」


「お願いします」


井ノ瀬裕華とコンシェルジュの2人が深々と頭を下げて挨拶をし、朗報を願った。


佐崎歌織もお辞儀し、安堵しながら結婚相談所を後にした。





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― 新着の感想 ―
[一言] うん、これはどう考えても希望相手いないわw
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