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森のキャラバン  作者: 森のキャラバン
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古民家にて

楽しかった休暇は、夢だった。

あっという間に過ぎて、仕事に向かう。


とりあえず、現場は、大工の棟梁がいた。


さて、正月休みは終わり、また仕事が始まる…。


朝食は、時事ネタ目白押しだった。

アメリカ初の黒人大統領が、一月二十日に誕生する。

「それに合わせてか、まるで、魔法みたい!」

雪ネェが、ホットなネットの記事を読み上げた。

「イスラエルは18日、中心都市ガザ市やその周辺部に展開していた部隊の撤退を開始した。オルメルト首相はこの日の記者会見で「ガザにとどまる意思はなく、早急に引き揚げたい”と述べた。だって~」

「ハマスは?」とスンちゃん。

「ん~と、イスラム原理主義組織ハマスは「勝利」を宣言。

「へぇ~、やったじゃん!」


それに、もう一つのニュース。

「不況を人材獲得の好機に農林漁業で求人ラッシュ」 

「近年、これだけ農林水産業への就職に関心が集まったことはない」(農水省幹部)として、国や自治体、業界団体は相談窓口設置や研修支援など就労を応援する取り組みを強化している。

農水省が業界団体から集約した今月16日現在の全国の農林水産業求人数は計1810人。求人の急増を受けて実態を把握しようと急きょまとめたもので、内訳は農業関係が833人、林業が782人、漁業が195人だった」

石破茂農相は「求人情報と就職活動をマッチングすれば成果は得られる。今までそのシステムが整っていなかった」と就労促進に向けた態勢づくりに意気込む。(共同)」

「不思議だな~、まるで最初からうまく行くように出来ていたみたいじゃん!」

大下さんが、目を丸くした。

「まるで、俺たちのこれからやろうとすることが、もう現実にやっていた~」

そうだ。田舎を元気にしようと、繰り出して見たら、もうとっくに、そうそういうシステムを立ち上げている人が、いっぱいいた。

昨日だって、テレビで、もう二十年も前から、自給自足で自然農法を作っている人が、紹介されていた。


昔は、変人扱いを受けたけど、今や、時代の最先端を地でいっている。

転換地点を知らぬ間に、越えたかな? 気持ちとしては、とっても嬉しい。


それに、もう一つの記事。

「静岡新聞、自動車産業を中心に、深刻な雇用状況に直面している県西部の外国人労働者が、工場勤務から林業に活路を見出そうとしている。浜松市内の民間就職支援団体が新たな雇用の場として、広大な森林に注意している。…16日、長野との県境に近い同市天竜区水窪町の森林に、職を失ったブラジル人の家族五人が訪れた。

(中略)7年勤務の正社員だったが、解雇に派遣も正社員も関係なく」


「家族で安定した暮らしができるなら、山奥の急斜面な現場だろうが山間地の生活だろうが関係ない」と林業に意欲を見せた。


とにかく、一部にこういう動きがあることは救いだ。

僕たちの力がもっとあればいいのだけれど。

「ブラジル人の受け入れ窓口を買って出たのは、地元のNPO法人「天竜森の学校」、仕事を覚えるのに、三年はかかるって」

「三年!」

「そうだよな~。僕たちだって、ビギナーだよ。全然サマになってないもの!」


「それは、言えてる」


アハハハ


朝食を摂って、コーヒーを飲むと、グループホームにする古民家に出かけた。

一番行きたそうな顔をしていた店主が、留守番だ。


「はて今日は、何するんだろう?」

僕らは、軍手をはめて、のこのこ出かけた。

あんまりやるべきことがいっぱいあって、段取りが掴めない。

そう言えば、地下足袋もなぜか持っている。

大工の棟梁が、柱の近くに、分銅に紐を結んで、重しを垂らしてみて、垂直線を確かめていた。

「ちょっと、歪んでいるな~。レバーブロックを使ってみるか」

思案に暮れていた。

「は? レバーブロック。何ですか~それ」


「引き寄せだよ」

「ふ~ん。やっぱり引っ張るのか」

大下さんは、分かったような、分からなかったような顔をした。

とにかく、僕らは、できるだけ長く丁寧な仕事をしてここに関わっていようと作戦を立てた。何だか、急に、日本が方向転換していて、僕らは用なしだ。


コウジたちは、畳を全て剥がして、畑に運んで行った。

一日やった作業は、それだけだ。

「い~い肥料になるよ~」

「今の化学物質入り畳なら、土に還らないけど、これならもう半分土になっているよ」

「これって、築何年ですか?」

コウジが聞いた。

「さあ~、八十年ってことかな」

大工の棟梁が、適当に返事した。


「人間ならもう寿命だ。それを再度使うって言うんだから、すごいな~」

「人間は使い捨てなのにな」

「これからの時代は、違うみたいだよ」


「今日は、マスクを買ってないから、これで終わり。出来るだけ、ホコリを吸わないように、明日は、マスクを被らなきゃ~ね」

雪ネェが言うと、大工のおじさんが、日本手ぬぐいで口全体を覆い、頭の後で縛った。


「アッタマ~いい」

ゴロスケが感心した。ゴロスケも将来棟梁みたいに、大工をやりたい気持ちに心が傾いている。

「あのなぁ、知っているか? 匂いを消すなら、トイレットペーパーもいいんだぜ」

大下さんが、何を思ったか、ニカッと笑って言った。


「前の人のが、臭い時使えるぞ。トイレットペーパーは穴がたくさんあって、匂いの分子を吸収するんだって。火災の時も、何枚も重ねて鼻に当てると、もしかして化学物質を少しでも吸わなくても済むぞ」

「それは、いいね~。今、ここで使えるかも知れない」

ポッチャントイレの匂いのキツイとこだと、目に沁みるのだ。


コウジは、キャンピングカーに入ると、お昼のお握りを温め、味噌汁を沸かした。

マグカップに分けてみんなに配った。

大工の棟梁が、興味深そうに、中を見回していた。


「おお、トイレもあるのか~」

「うん」

「外からは、小さく見えるけど、中はなかなか、素敵な居住空間だなぁ~」

「ありがとう」

「寝心地はいいのか?」

「まあね」

大工のおじさんは、しきりに触って、感心していた。まさか、森のキャラバンに参加するのか? それぐらい熱心だった。

「自分の車を改造する気だろ?」

自分でそれができるなら、面白い。


一日仕事を終わって、喫茶『大菩薩峠』に帰ると、みくにのおばさんからメールが来ていた。


やたら文字数が多くて、「インフルエンザで三人死んだけど、大丈夫なのか?」

とか、これからの日本の情勢を憂いていた。


「神戸の長田区の消防団が、同時に広域に、災害があった時、消火が先か、人命救助が先か、判断に困った話を書いてある。消火が先なんだって」


「食堂がボロっちいからな~」

「瞑想してますか?」

「しているけど…、あんまりだな」

顔を見合わせた。


「おばさんは、最近身の内に、怒りを感じてしまう。なんだろうか?だって」

「イワトが開いたんだよ」

成っちゃんが、即答した。

「じゃあ、送信しよう!」

「どうしたの? スンちゃん」

「うっ、返事が来た」

「え~、もう来たの?」

食堂が、暇なんだ。


その途端、スンちゃんは、返事を考えるのを止めた。

極端な人間だ。

「うん、なるほど、ぴったりそれみたいです。頭の芯に違和感がありました。なんとかします。

後の者が先になり、先の者が後になりですね~」

スンちゃんの顔をみんなが、見つめた。

「怒ってなさそう?」

「ありがとうだって!」

皆は聞いていない…。

「そうか~、それはよかった」

「それよか、『レバーブロック』検索してみてよ」

成っちゃんが、雪ネェに聞こえるように言った。

「久し振りに、レバニラ炒め食べたくなっちゃったよ~」


オバマ大統領の式典でブッシュ氏に、大勢の参加者からブーイングが起きた。

今日も、そんなニュースで、朝食を摂った。


ところで当分の間、雪ネェが、喫茶店に居ることになった。

「何だ、今日は君か~」

携帯で聞いて、来ないお客もいる。

店主では、お客が集まらない。(やっぱりな)

誰かが、先に来て、携帯でみんなに連絡しているみたいだ。

(ちっ、今日は店主だ…とか)

日本時間の深夜行われた、オバマ大統領の就任式には、ホワイトハウス周辺を二百万人が埋め尽くし、地面が抜けるかと思った。

ビッグネームの女性歌手、ヨーヨー・マなどの(氷点下での)チェロの演奏は辛そうだった。

黄色いスーツの夫人が手にしていた、リンカーンも使ったという、古い聖書を手に置いて宣誓をしていた。


「神の助けを」

オバマの言葉だ。


「一つ気になることがある。国民の皆保険加入を公約としていたことだった。そんなお金どこにあるの?」

大金持ちが、貧乏な人にお金を配るはずもない。貧乏な人が保険料を払えるはずは、…もっとない。

「まだ、どこかの弱い国から、物資や、お金を調達する気?」

今度はそんなことのないように、祈りたい。演説は、素晴らしかったから。

パレスチナのガザ地区を、木っぱ微塵に攻撃していたイスラエル。

世界中が今度はどんなことをするのか注目されている。これ以上続くと、世界中から叩かれる。

経済破綻、大失業時代。ドルの下落。困ったことになるのが、目白押しのアメリカだ。

「浪費になれた国民が、ハイ今日から慎ましやかに暮らしなさいよと言われても急にはなぁ~」

「それは、日本人にも言えることだよ」


森のキャラバン風~、今日も古民家再生プロジェクトをやっていた。いつの間にか、店主がメンバーに加わっていた。今まで見たことのない別人格のキャラで…。


○ゴミを庭に出す作業。

○屋根に登って、茅葺屋根を剥がす作業。

○屋根板も剥がす作業。濡れないように、ブルーシートを被せる。

○柱が丸見えになったところで、柱を真っ直ぐに調整する作業。ホースで水をかけて、ホコリや、汚れも取る。レバーブロックで引っ張り、柱をちょっとずつ直す。これは、プロ集団のやり方を見ながら、僕らは、指示だけする。


「あがりかまちにチェーンブロックを使えば、土間から上がる、安上がりのリフトが作れるぞ!」

商品カタログを見ながら、店主が嬉しげに叫んだ。要するに、梁に滑車をつけて椅子こと釣り上げるのだ。

「そうだな、お婆ちゃんたちには、上がれない()()()()()()だ」

大下さんのジョークは、日々寒さを増して行った。


○壁土を剥がす作業。(再利用するので、一ヶ所に固めた。目減りしているので、新たに粘土を採ってきて藁を切って混ぜる。ドブ臭い匂いがするらしい。

○小舞いの枠を直す。竹を削って組んで、藁の縄を十字の部分に通す作業。永遠と言う言葉が似合いそう、ほとんど失神しそうだった。

○壁土を塗り、家を改装するのは、それからだ。


「大勢の人が利用する予定だから、お風呂も広くして、老人介護用に便利なの、洋式トイレも増設する。バーも壁につける、バリアフリーにする…、壁は漆くいにする」

店主がリフォーム案を述べた。

「コンセプトは、多数の家族が同居するロングハウス。東南アジアからメラネシアにかけて、分布する、大~きな家の大~きなお世話の、賑やか~な新しい家族」


「楽しそう~♪」

成っちゃんが、賛同した。


さっそく店主がメジャーを出して来て、測量を始めた。

スンちゃんがそれをメモっていた。

「まっ、ぼちぼち行か~?」

「ほな、そう()()ひょ~」

関西弁が似合いそうだ。大下さんたちは、軍手をはめて、マスクをつけ、片付け始めた。

「痛てっ!」

大下さんが叫んだ。

「木のトゲが刺さった~」

軍手を脱いで、分厚い働き者の手で、トゲを取ろうとしている。

「どれどれ、貸してみて~」

コウジが顔をしかめて、細い指で抜こうとしていた。

森キャラ全員の作業が中断した。


「なあ?」

「うん」

「僕、今ひらめいた! 何で、日本語に主語がないかを」

今、ここでか。それは、何の脈略もないように見えた。


「自分は、あなた、あなたは自分。他人のことを我が事のように考えるのが、そもそもそれが本来の日本人なんだよ!」

スンちゃんが、重大なことのように、メモっている。


「欧米は、その点が明確なんだ。私が! 損する。…それは大変だ。あなたは痛い! じゃあ、まあ~いいか。あちゃらでは、まるで別物なんだ。損とか得とかも、重要なポイントなんだ!」

それを聞いた、成っちゃんが言った。


「そう言えば~、赤ちゃんって共泣きするんだよね。理由もなしに。相手も自分もないんだよね」

「う~ん」

「きっと、赤ちゃんも成長して行って、相手の個性を認めた上での、あなたも私も同じね~だといいと思うよ~」

「ふう~ん」


「じゃあ、私はあなた。あなたは、私なんだ」


森キャラのメンバーとしては、すごい発見だった。


映画「バックトゥザフューチャー」が人気だった頃、

大統領になるという夢を食堂の黒人の店員が語っていた。

まさか、そんなことが実現したのだ。

とてもアメージング グレースなニュースだった。

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