リクルート
正直、家事スキルには全く自信がない。お金が取れるどころか、逆に授業料を払って教えてもらわないといけないレベルだろう。
だが鷹司の期待に満ちたまなざしからして、家政夫として優れているか否かが二の次なのは明らかだった。ならば迷う必要などないはずだ。
「分りました。頑張ります」
「そう、よかったわ。ユリアちゃんにお願いしてくれるのね。ありがとう武大くん」
「は? ユリアに何を……」
浮かびかけた疑問に、竜仁は一瞬後にはもう自ら答えにたどり着いていた。求められているのはまたしても自分ではないのだ。
「じゃあ、服がどうとかっていうのは、もしかして」
「もちろんメイド服よ。だけど誤解しないでね。安っぽいお遊びの衣装なんかじゃなくて、デザインは正統的だし縫製もきちんとしたものだから。ユリアちゃんが着たらきっとものすごく可愛いわよ。武大くんもそう思わない?」
それは思う。確かに思いはするのだが。
「お帰りなさいませ、我が君」
竜仁がアパートの部屋に戻ってドアを開けると、玄関の上り口でユリアが片膝をついていた。
こうして出迎えられるのは初めてのことではない。むしろ以前は毎回こうだった。堅苦しいのは疲れるからとやめてもらっていたのだが、なぜか復活したらしい。
どうせならこんな武張った作法ではなく、もっと愛らしい仕種にしてほしい。
たとえばスカートの端をちょんと摘んで、軽く会釈をしながら上目遣いに「お帰りなさいませ、御主人様」とか。
「我が君、何か」
不審そうな声をぶつけられ、竜仁は現実に引き戻された。じっとこちらを見上げる少女の顔は、想像の中よりもなお美しい。だが視線の強さはさらに段違いに上だった。ほとんど息苦しささえ覚えてしまう。
蹴り放すようにして靴を脱ぎ、ユリアの脇を通って部屋に上がる。ユリアも竜仁の後に続いた。
「……ただいまユリア。実はちょっと頼み事があるんだけど」
「承ります。もし朝の鍛錬が半端だったので物足りないということであれば、ぼろぼろに倒れ果てるまでおつき合いいたしましょう」
無論、ぼろぼろになるのは竜仁の方だろう。
「それは遠慮する。そもそも僕じゃなくて鷹司さんから来た話だし」
ユリアは露骨に眉をひそめた。
「うん、やっぱり聞きたくないよね。しょうがない。鷹司さんには僕から断っとく」
「いえ、まずはお伺いしてからです。どうするかはその後で」
こととしだいによっては斬る、と言わんばかりの迫力に肝を冷やしながら、竜仁は鷹司の家でのバイトの件を語った。なおメイド服に関しては、仕事用の作業着は向こうが用意すると説明したが、嘘はついていないはずである。
「つまり、あの女のために働けとの仰せですか。世界の敵、悪しき竜を討ち滅ぼすという大役を負った私に、小間使いの真似事をせよと。それが我が君のご命令なのですね」
「違うよ、全然命令とかじゃないから。やるかどうかはあくまでユリアが決めることだし。僕は鷹司さんに頼まれて伝えただけだよ。でも別に訊くまでもなかったね、ははは」
「一つ、質問があります」
「はい、なんでしょう」
「報酬は出るのですか?」
「それはもちろん。風俗系とかいかがわしいのを別にすれば、バイトであれだけ貰えるのってそうはないんじゃないかな」
ユリアのような美少女にメイド服を着させて、働くところを眺めて楽しもうというのは十分にいかがわしいことな気もするが、動機はともかくとして仕事の内容自体は真っ当だ。そのはずだ。たぶん。
ユリアは頷いた。
「承知しました。お引き受け致します」
「本当に? 別に変な気を遣う必要はないからね。ユリアが断ったからって、鷹司さんが僕のことを悪く思ったりはしないだろうし」
「思ったところで私は一向に構いませんが」
「すいません。余計なことを言いました」
竜仁は低頭した。ユリアはあくまで生真面目な調子で告げた。
「私もいつまでもこのままというわけには参りませんから」




