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 どうしてこうなった。今、私の布団で楓さんと私が一緒に寝ている。イケメンの顔が近い。楓を起こさないよう、そっと布団から抜け出す。


 普段は意地悪なのに、寝顔は本当に可愛い……ではなくて、もう直ぐバイトの時間なので準備をしないとね。頭で分かっていても、余りの素敵すぎる楓さんの寝顔に迂闊にも頭を撫でてしまった。


 何をやってる私、落ちつけ。確かにイケメンを舐め、撫で回すなんて、前世で何がどう転んでもそんな機会無かっただろう。私ときたら、ついつい興奮して写真まで撮りそうになった。


 頭を冷やさねば。


 朝というには遅すぎる時間、こっそり部屋を抜け出し大浴場に向かう。がらんどうの大浴場で身体を洗いながら、昨日の事を思い出す。


 昨日、私の部屋に遊びに行くと言い出した楓。彼は買い物袋の中身をおもむろに取り出し、お前と同じゲームを買ったから教えろと言い出した。


 あの時は、もう血の気が引いた。だが、何時までも言いなりになる私ではないぜ!と言わんとばかりに反撃を試みた。


「別に嫌ではないけど、女子寮だから男子は入れないよ」


 私がそう言うと、スマホを取り出し楓がどこかに連絡を取りだす。


 女子寮に男子を呼べないのは当然だ。いくら大金持ちでも、このルールは捻じ曲げれまい。ドヤッ!


「話はついたから、今から行くぞ」

「えっ!待って待ってそれ可笑しくない?」


 いつの間にやら来ていた送迎用黒塗り高級車に、押し込められる私。だから、待てって言っているだろ。


 車中あれこれ聞き出そうとするものの、何も答えない楓。まさか、高校を買収したの?この短期間で、そんな漫画じゃあるまいし。あ、でもゲームの世界だから何でもありか。


 寮に着くと、スーツ姿の細っそりとした初老の男性がお出迎えをしてくれた。


「神白様、よく我が校の寮へおいでくださいました」


 汗を拭きながら、男性が仰々しく挨拶をする。


 あれ、この人うちの高校の校長だよね。さっきから何か見覚えがあると思えばってまさか……。


「あ、あの楓さん。まさかとは思うのだけど私が通っている高校……」

「おっ、察しがいいな。うちが経営している高校だよ。流石にお前の親も、目の届かない所にお前を入れるのは不安だったのだろうからな」


 ですよね。


「何分私も忙しい身でして、急とはいえ休みの日にわざわざすみません。蛇窟家のご息女を預かるにあたり失礼があってはいけないと、父に代わりこうして一度様子を伺に来ました」


 楓さんが宣うと、校長の汗がまた一段と吹き出す。この楓さんの優等生キャラは、何だか違和感ありまくりで気持ち悪い。


「出迎えてくれてありがたいのですが、後は麗華と廻りますのでどうかお気遣いなく」


 それはないでしょう。素っ気なさすぎだよ。でも、遊びに来ているだけだから仕方ないよね。


 ん?校長が何か目で訴えているけど、どうしたのだろう。


 あっ!やばいやばい。私の部屋、反省部屋じゃないか。楓が見たらえらい事になると思うよね。名目は視察なのだし。


 校長に、口をパクパクして後は私が何とかしますと、声を出さずに伝える。伝わったのか校長が一度頷く。寮に入る私達の背中を不安そうに見送る校長に、振り返り任せておけとサムズアップをかましておいた。校長の笑顔がなんとも言えず、普段の堅苦しい雰囲気とは違いなんだが可愛く見えてしまった。


 私達は寮全体を見て回らず部屋に直行する。少しも視察の振りをしない楓さんの潔さはプライスレスだ。部屋に入る前に案の定、楓からツッコミを入れられる。部屋のプレートには蛇窟麗華と書かれた紙が貼られている。紙が薄い所為か、反省部屋と薄っすら浮き出てしまっていた。


「麗華、この部屋」

「急な転校で部屋が無いらしくて、私的には満足してるけどね。だから楓、変な気を廻さないでね。下手に問題になって親に迷惑を掛けたくないし、それによく言うでしょ。住めば都って」

「お前が気にしてないなら、俺は構わないけど」

「それじゃあ、立ち話もなんだから入って」


 うむ、これで校長のフォローになっただろうか。あまり納得をしていない楓を部屋に通す。


 私の部屋はどうよ?褒め称えてもいいのよ。意外と女の子らしいとか、いい匂いがするとか。ドヤッ!


「なんだこの部屋⁉︎な、何もない」


 だよね。うん、自分でも分かっていた。


 有るのは、畳まれ四隅に置かれた布団とちゃぶ台とカラーボックスが一つ。


「実家からは必要最低限しか持って来てないし、学校は勉強しに行く所だからこれが正解なのよ」

「幾ら何でも、無さすぎだろ」


「文句を言うなら出ていけ。一人でゲームをするから」とは言えず、いそいそとおやつなどを用意する。


「まあ、細かいことは気にせずに、お姉さんが貴方にいろいろ教えてア・ゲ・ル」

「どこからツッコンだらいいのかわからん」


 楓がため息を零す。


「で、買っておいてなんだが、本当におもしろいのか?」

「楓さん、なかなか言うじゃない。この業界100万本売れた大ヒットなのに、このゲームはなんと480万本売上る怪物ゲームの続編よ。そんなゲームがつまらない訳ないじゃない。そんなの、常識よ常識!」


 楓を指差し、ビシッと言ってやった。


「お前なんかゲームの事になると、時々変なスイッチ入るな」

「仕方ないじゃない。楓は今すごく損をしているのよ。こんな楽しいゲームは滅多にないんだから、この素敵な出会いに感謝しないとね」

「そ、そうだな」


 あれ?楓さん、なんか微妙に引いている気がするけど何故かしら。


 夜もすがら、若い男女が狭い部屋に二人っきり、しかもお泊まりなのだ。何もない訳なかろう。普通なんか有るだろう。だけど、健全?とは言い難いが、ゲームを二人してやり続けて1日が終わった。


 途中、楓が寝落ちして一人でクエストをこなしている最中、私も寝落ちした。目を覚ませば、楓と何故か一緒に寝ていた。でも、衣服に乱れがない。


 もしかして、私は女として魅力がないのか。そりゃ、学校指定のジャージを部屋着にしているぐらいですから、楓は微塵も意識してなかったのだろう。なんか、すみませんね色気がなくて。おかげで気まづくも無かったけど、何この敗北感。


 髪を軽く乾かし、部屋に戻ると楓はすでにおきていてゲームをしていた。


「楓、お風呂はどうする。今だったら入れそうだけど」

「お前もう直ぐバイトだろ。もう帰るよ」


 あれ?心なしか楓さんの雰囲気が違う。なんと言うか、思春期の男子学生が女子に対してするあのそっけない感じ。


「どうしたの楓?まさか、風呂上がりの私に欲情したとか。もしかして、風呂上がり効果で私の色気2割増し」

「ばーか。そんな訳ないだろ。麗華が2割ましなら世の女性は10割増し以上だろう。それよりお前の色気が2割増しだろうが、元が0なら何割増そうが色気は0だろう」

「ちょ、ちょっと待ってよ楓さん。私に色気がないだと!」

「違うのか?」

「確かに、男女が二人一緒に1日いて何も無いとか流石にないとは思ったけど、それは楓がカッコ良すぎなのがいけないのよ。楓の事だから美女を取っ替え引っ替えしてるのでしょ。だったら私といい感じにならなくても分かる」

「お前、俺をどんな奴だと思ってるんだ」

「超絶プレイボーイ」


 私の言葉に、呆れ顔を向ける楓。


「あのな、俺は身持ちが堅いんだよ。そんな軽い事はしないし、彼女なんて一度もいない」


 えっ⁉︎違うの?ゲームの楓は何に対しても凄く飽き性で、ガールフレンドをバカみたいに取っ替え引っ替えしていたから、今の楓もてっきりそうだとばかり思っていた。


「なんだ、意外だっか?お前、失礼すぎるだろう」


 私は取り敢えず謝っておく。楓は腕を組み分かればいいと言う。ゲームと今の彼のイメージがだいぶ離れていっているような。


「それより麗華、俺がカッコ良すぎるって思っていたのか?」


 そう言うと楓はダークスマイルを浮かべる。これ、あかんヤツだ。完全に揶揄いに来ているよ。


「いや、あの、その……」


 上手く返す事ができない。まさか、17歳のガキに揶揄われるとは思わなかった。しっかりするんだ精神年齢26歳。何か上手い切り返しをするんだ。


「楓はとてもカッコいいと思う。まつ毛が長い所とか、ネイビー掛かった目がとても綺麗だし、それに背だって高くて意外と筋肉質だし」


 あれ、なんか切り返すつもりが、ただ褒めてるだけのような。


「それと意地悪だけど嫌味がなくて話やすい。一緒に居ても気を遣わないから居心地がいいと言うか……」


 結論、テンパり過ぎてただ褒めているだけになった。今更だが、ツンデレ風に「貴方の事なんか何とも思ってないんだからね」とか言っておけば良かった。恥ずかしいくて、楓の顔がまともに見れない。


 恐る恐る楓を見ると私に背中を向け、「勘弁しろよ。いきなり不意打ちかよ」など小声でよく分からない事を言っている。


「あの、楓どうかした?」

「べ、別になんでもない。そろそろ迎えが来たらから行くよ」


 私は、わかったと返事をする。さっきから楓の様子が変だ。


「ねえ、顔少し赤いけど大丈夫?もしかして、風邪でも引いた?」


 私が楓のおでこに手を伸ばそうとすると、大丈夫だからと彼は私の手を握りそれを拒む。いつまでも握られた私の手。楓は私の手を離すことなく悲し目でそれを見つめている。


「……傷、やっぱり残ったな」


 私の右手の甲には、目立つ傷がある。


「別に楓が、気にする事じゃないよ」

「だけど、あれは「アレは私が勝手にやって怪我したことだから、楓が気に止むことじゃない。もう、やめやめ。辛気臭くなるのはなし」


 私がにっこり笑って見せると、そうだな……と、ぎこちなく笑う楓。


「ほら、迎えが来てるのでしょ。待たせたら悪いよ」

「わかってるよ」


 彼が私に背を向けドアノブに手を掛けた時、あっ!と何かを思い出したのか振り返った。


「麗華、夏休み中どうするか学校に提出してないだろ?」

「何それ?夏休みの行動予定表?」


 楓に聞き返した時に、ふいに思い出す。


「あっ、夏休みに帰省する期間や寮にいる日を記入して提出しなくちゃいけなかったんだ」

「それそれ。お前、提出してなかったから学校側の配慮で、夏休み中は実家に帰る方向で申請したみたいだぞ」


 えっ⁉︎私は夏休みは寮で過ごす予定だから、それってつまり……。


「お前、夏休み中はご飯抜きだけど大丈夫か?」


 おいおい、人生ハードモードだな。来週末には、夏休みだと言うのに流石にやばい。


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