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転生令嬢は初恋を貫く!  作者: 尾木 愛結
6/11

< 6 >  age10

 早いもので国立ヴァソール学園に入学してから、二年の月日が流れた。


 季節は初夏ーー今年も園遊会の時期が到来。

 私はクレージュ公爵領の特産品であるドレス生地を使って、園遊会へ着て行く衣装を仕立てて貰った。この手触りを一度でも味わうと手放せない。


 クレージュ公爵が言うには魔物の素材らしいが、魔物でも色んな種類が存在している。虫型に植物型もそうだが、普段の食事に出て来る肉や魚も魔物を捌いて調理されたもの。


 この世界は前世で目にしていた普通の馬や牛が存在しない。全てが魔物や魔獣と呼ばれている存在だ。酪農が盛んな場所は牛型の魔獣が基本だし、馬車を引く馬も元は魔獣である。


 馬は生け捕りにされた状態で捕獲され、人間に慣れるように調教が行われるのだ。そうして人間に慣れた魔獣に番いを宛がって数を増やす。牛型の魔獣も乳牛と食用に分けられ、食用の方は基本的に野生を捕獲。

 乳牛は生け捕りにして飼育する。


 鳥も魔獣なので大型のものは野生を狩り、人間が飼育できるサイズのものは生け捕りにする形だ。飼育方法は前世と同じなので、魔獣と聞くと驚くが見た目は違和感を感じない。

 私も異世界に転生して十年目だ。

 ある程度の事に免疫を持ってしまう。


 クレージュ公爵領が誇るドレス生地を見つけ、園遊会でクレージュ公爵に一目惚れをするなんて、彼は私の運命の相手と断言したい所だ。私だけが勝手に思っている事だが、クレージュ公爵にとっては園遊会で知り合った子供。

 三十一歳になったクレージュ公爵は、去年よりも更に色気が増している事だろう。


 あの駄々洩れのフェロモン。

 彼を思っても相手にされない事は自覚している。

 私と彼の年齢差は二十一歳ーーーこの差を縮める術はないだろうか。クレージュ公爵は魔力量が多いせいか、見た目が二十代で止まっているのだ。


 私の父も膨大な魔力を持っているので見た目は若い。

 祖父母も七十代に見えない若さを誇っているので、魔力量の高さが伺える。魔力量の少ない母と姉の二人は、年齢と共に老いていくので父より先に逝く可能性が高いだろう。


 前国王も七十四歳とレベッカから教えて貰ったが、見た目だけなら四十代だ。その前国王の父も元気らしく、妻と一緒の旅行を楽しんで各国を回っているらしい。年齢は既に百歳を超えているのに物凄いバイタリティだ。

 これを聞いて王族は化け物揃いだと、私の中で認定したのである。


 私が何を言いたいかと言えば、ようやく十歳になって外に出られるようになったこと!

 さすがに親の承諾がなければ諦めるしかないけれど、いつかクレージュ公爵領に行きたい野望を募らせている。レベッカがいれば可能になりそうだが、それは最終手段に残しておきたい。



「ジュリエンヌお嬢様、楽しそうですね」


「そう見える?」



 メイドに話しかけられて笑顔で答える。

 今は園遊会へ行く準備の途中だ。


 まだ私には専属の侍女がいないので、メイドが母の侍女に髪型を教わったらしい。令嬢が専属の侍女を持てるようになるのは、十二歳の誕生日を迎えてからと教えられた。

 その年齢前だと主人が幼過ぎるので、侍女が主人に対して舐めた行動をする者がいるらしい。相手が幼い子供なら簡単に言いくるめられそうだ。メイドは裕福な商家の平民や下位貴族の女性が主で、侍女になれるのは貴族令嬢のみ。

 家が没落してしまった元貴族や、貴族籍の女性もそれに該当する。


 他家の茶会や夜会に招待された時、侍女は主人と一緒に行動をするので、貴族のマナーを知らない者を連れて来た時点で相手を侮辱する行為に当たるのだ。こういった貴族の面倒くさい仕来りにウンザリするが、貴族家に生まれたら何不自由のない生活に十分な教育が受けられる。

 そういった恩恵に預かれるので、面倒な仕来りやルールを守るしかない。



「今回も同じ髪型になさいますか?」



 去年まで髪型はシニヨン一択だったが、十歳になった記念に使わせて貰おう。

 私は大切に保管していたバレッタを取り出し、メイドに渡す。



「これを使いたいの」


「バレッタですね……それにしても見事な細工」



 白銀はカスミソウがモチーフとなっていて、小さな花弁に葉が絡み合っている繊細なデザイン。クレージュ公爵は初めて会った時に、私が着ていたドレスの刺繍を覚えてくれていたのだ。



「わたくしの大好きなカスミソウなの」


「この黒い石は……」


「ブラックダイヤモンドらしいわよ」


「ダイヤモンド!? そんな高価な石だったのですね」


「ある方から頂いたのよ。その方につけている所を見せたいの」


「ふふふ、かしこまりました」



 彼女は同年代の令息からバレッタを頂いたと勘違いしているようだ。説明が面倒くさくなりそうだから、そのまま黙っておく事にする。


 今回のドレスは淡い灰色の生地に、白い刺繍糸で模様が施されているものだ。

 バレッタの白銀の土台にも合う。

 どうせ今回もレベッカと一緒に過ごすのだから、バレッタについているブラックダイヤモンドの存在に気づかれないはず。これに気づくのは、レベッカとクレージュ公爵の二人だけだ。


 園遊会へ行く準備が整い、部屋を出て玄関ホールへ向かう。

 まだ誰も来ていないのは珍しい。


 こんな事なら準備を急がさず、のんびりしていれば良かった。



「ジュリエンヌが一番先に来ているなんて珍しいわね」



 母がゆったりした足取りで近づいてくる。



「お母様、メイドが頑張ってくれたのです」


「そう……あら? 今回は違う髪型にしたのね。その方が素敵よ」


「有難うございます」



 そこへ姉が姿を見せた。

 姉は十四歳になったので園遊会への参加は出来ない。


 そしてーーようやく姉に婚約者が出来たのだ。

 婚約者になったのは、姉の二つ上で十六歳のシリウス・コンサル侯爵令息で、コンサル侯爵家の三男である。彼は私が通っている国立ヴァソール学園の先輩で、十六歳以降は学校と同じ敷地内にある専門科へ進学。


 コンサル侯爵令息は元生徒会副会長だったので、同級生のアンダーソン侯爵令息との関係で知り合う機会があった。

 アンダーソン侯爵令息は次期生徒会長の候補という立場で、レベッカも次期生徒会副会長の候補として生徒会へ付き合わされ、その流れで先輩たちと交流する結果に。


 アンダーソン侯爵令息は首席を守り、次席はレベッカで、三番手に私がいる。

 国立ヴァソール学園の生徒会は成績上位の者が推薦されるので、もしかしたら私も推薦される可能性が出てきた。魔法の実技だけは首席をキープしているけど、学力試験だけは二人に及ばない。


 姉の婚約者は偏差値が高くて有名な国立ヴァソール学園で成績優秀な相手だが、王立ノヴェール学院へ入学した姉の成績は芳しくなかった。学院へ入学した翌年、祖父母はアグレッサ侯爵家の後継者を弟のレイモンに変更したらしい。


 その代わりアグレッサ侯爵家が持つシャプル伯爵を、姉ではなく夫となる相手に引き渡す事を条件にされた。

 シャプル伯爵領はアグレッサ侯爵領から離れた場所にある。

 魔力のない領主では統治するのが難しいらしく、そこで白羽の矢が当たったのはコンサル侯爵令息という事だ。


 彼は三男なので継げる爵位がない。

 国立ヴァソール学園で成績優秀な上に、魔力量の多いコンサル侯爵家の人間である。魔力量の少ない姉にとって、魔力量の多い相手は必要不可欠。


 二人の結婚は姉の成人後ーーデビュタント後になるそうだ。

 この国での女性は十六歳で成人を迎えるのに対し、男性は十八歳が成人と定められている。


 姉とコンサル侯爵令息は年齢が二つ違うので、二人の婚姻は規定通りに行われるだろう。

 それとは別に同じ年齢同士の二人が婚約する場合、婚前交渉の契約を結ぶ事が義務づけられている。契約を結ぶと男性が十六歳であっても、女性がデビュタントを果たした後に子作りが可能になるからだ。


 これはあくまで同じ年齢の婚約者同士が結ぶ契約であり、ほとんどの貴族は年の差婚が多い。その契約を結んでいないと婚前交渉で生まれてきた子供は、両親の実子でありながら養子の扱いとなってしまう。


 貴族たちが年の差婚を選ぶのは、こういった面倒な事を回避する為かもしれない。


 姉の婚約に立ち会っていないので、どんな契約をしたのかは不明だ。二年後に姉が伯爵領へ向かうなら喜ぶし、コンサル侯爵令息の卒業を待つなら、更に二年ーー足すと合計四年も待たなければならない。



 そんな姉が玄関ホールまで出て来たのは母に話があるのだろうか。

 私は二人から距離を取ろうと玄関の扉の方へ歩こうとした時、いきなり姉に腕を摘まれた。



「それ、わたくしに譲って」


「ハリエット?」


「お母様は黙ってて。アンタの髪につけているそれを譲って欲しいの。ブラックダイヤモンドなんて高価なもの、どうしてアンタが持っているの? おかしいじゃない。婚約者のいないアンタが持って良いものじゃないわ」


「ブラックダイヤモンド? ジュリエンヌ、どなたから頂いたの?」


「これは入学祝いで頂いたものです。高貴な方なので名前は伏せさせて頂きますが……仮に、お姉様がこの髪飾りをわたくしから奪い取るなら、プレゼントして下さった方に説明しますので覚悟なさって下さいね」



 わざと姉を挑発するような口調で言い返す。

 姉は高貴な方という言葉に怯んだようだ。


 母の方は怯むというより、少し興奮気味になっている。



「高貴な方って……貴方と親しくされている第一王女殿下かしら? ブラックダイヤモンドは王族の色でもあるわ。ただの貴族令嬢が気軽につけて良いものじゃないのよ」


「これは第一王女殿下から頂いた物ではありません。別の方から頂きました」


「もしかして男性?」



 名前は伏せておきたいが、性別だけは伝えていた方が良いのか?

 ブラックダイヤモンドを女性に贈る相手は限られてしまう。母に相手を特定されると面倒臭い気がする。



「それを貴方にプレゼントして下さったというのは、もしや婚約を考えているのかしら。もしそうなら……ジュリエンヌ、その相手の名前を母親であるわたくしに教えてちょうだい」



 私が黙っている間に、母の脳内で色々と妄想が広がっていたようだ。興奮状態のまま捲し立てるように話を続けている。姉の方は高貴という一言に怯んだままだ。


 私に対して良い感情を持ち合わせていないが、その高貴な方に睨まれると不味いと思っているのか。

 しかも独身男性となると余計に数が絞られる。


 ここでクレージュ公爵の名前を教えて良いが、ここでは言いたくない。

 私は考えるふりをしつつ、この場は無言で貫くつもりだ。



「メグ、遅くなってしまったな。急いで馬車に乗らないと園遊会に遅れてしまう」



 父の冷たい視線が姉に注がれる。

 どうして関係のない姉が、この場にいるのかといった感じだろう。



「ジュリエンヌ、お前も急ぐんだ」


「はい」



 父に促されて姉から離れる事ができた。

 そして母をエスコートして馬車に乗せ、その次に私を馬車に乗せる。


 母は馬車の中で落ち着きを取り戻すと、改めて私に向かって声をかけてきた。



「お相手の名前が言えないの?」


「そんなに気になりますか? ただの髪飾りですよ。わたくしの事など気にせず、お母様はお姉様とレイモンの事だけを考えて下さい」



 そう言い終えてから、私はそれ以上は何も語らないと窓の方へ視線を移す。



「ねえ、旦那様。ジュリエンヌが何方かにブラックダイヤモンドのついた髪飾りを頂いたそうなのよ。それに高貴な方と言っていたから、近いうちに婚約の打診があるかもしれないわ」


「ブラックダイヤモンド……クレージュ公爵か?」



 父は正解の名前を告げた。

 どうして分かったのだろうか。


 クレージュ公爵に確認した後なら教えても良いが、まだ名前を言って良いのか自分の判断ではつけられない。



「クレージュ公爵? まあ! 確かジュリエンヌの二つ上にご子息がいたわね」


「ブラックダイヤモンドの産地を言っただけだ。メグ、早とちりをしてはいけないよ」


「そうね……クレージュ公爵の名前を聞いて興奮してしまいましたわ」


「彼は私の後輩でもある。入学時から首席を譲らなかった。嫡男の方は国立ヴァソール学園の入学試験に落ちたが、王立ノヴェール学院の入学試験を次席で通過したと聞く。縁があれば向こうから婚約の打診が来るだろう。それまでは、メグも他言無用でいるように」


「他の方にも教えたいのに……残念だわ。婚約の打診については、申し込む相手側にとってデリケートな話だから先走るのは良くないわね」



 父に諭されて母がおとなしくなった。

 でもクレージュ公爵の話が一つ聞けた事に気分が上昇する。


 今年もクレージュ公爵に会いたい。


 このバレッタを見て「似合っている」と言ってくれるだろうか。あの大きな手で頭をぽんぽんして欲しい。

 私とレベッカの会話に笑顔を見せてくれるかな?


 馬車が王宮に近づくたびに、クレージュ公爵に会いたくて胸が高鳴る。

 そんな私の浮かれている様子を、父が複雑そうな表情で見ているなんて思っていなかった。








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