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転生令嬢は初恋を貫く!  作者: 尾木 愛結
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 七月の下旬、王都の神殿で結婚式が行われた。


 婚礼衣装はクレージュ夫人が監修の元で仕立てられたらしい。

 夫となったアルカード・クレージュ公爵の衣装は、私のデビュタントの時にベル伯爵にデザインした物を参考に仕立てられた。黒い軍服姿のアルカード様に惚れ直したのは内緒である。


 衣装の生地はクレージュ公爵領が誇る高級素材。

 そしてクズ石を粉末にして混ぜた染料で染めた効果で、常にない程キラキラと輝く衣装に仕上がっている。


 キラキラした衣装に身を包んでいるアルカード様の姿。


 ーーやっぱりドストライク!!


 ややくせ毛寄りの短い髪は自然な形でセットされ、私にとってはいつも男前だが更に凛々しく見える。何よりも軍服が似合い過ぎていて、私の心拍数が心配になるほど。長身で引き締まった体つきの方が、軍服が良く似合う。


 その場に黙って立っているだけでも絵になる。六歳から彼に片思いをしていたが、諦めずに好きでいて良かった。


 初恋は実らないというジンクスは間違っている。


 ずっと相手を思っていれば叶う。

 ある意味、相手の事が好き過ぎて自分の中で勝手なイメージを作り、相手の本性を知って幻滅するのが実らない理由だと、個人的に思っている。


 ーー私はアルカード様の、どんな姿でも幻滅しない。


 新たな一面を知る喜びの方が強いのだ。


 神殿には元父アグレッサ侯爵と、養父母であるアンダーソン侯爵夫妻が並び、その横には義理父母となる老公爵夫妻。

 そして祖父母の隣に弟レイモンがいる。

 レベッカとアンダーソン侯爵令息夫妻、レジス侯爵令息夫妻と学園時代の友人が立ち並んでいた。


 シャプル伯爵は妻が妊婦の為、単独で参加。


 甥の結婚式とあって、国王陛下と王妃陛下といった王族も参列。王族といった豪華な参列者がいる場に、私の心臓は不整脈気味に早鐘を打っている。


 厳かな婚礼式が終わり、披露宴会場となる王都の公爵邸では、ガーデニングパーティー風といった立食スタイル。


 私はお色直しで衣装を変えて登場する。

 アルカード様と挨拶するのに動き回る為、ドレスは動きやすさを重視したデザインだ。



「ジュリー、伯父様、結婚おめでとう!」


「レベッカ、有難う」


「義理姉上、クレージュ公爵、おめでとうございます」



 アンダーソン侯爵令息がキリっとした顔で挨拶を交わす。


 同じ年齢だけど一月の差で、私が戸籍上の義理姉となっている。彼は来年まで学生だが、卒業したらアンダーソン侯爵家の次期当主としての執務が始まるらしい。


 レベッカとの間に二人の子がいる。

 どちらも女の子なので、もしかしたら私の子供と恋に落ちる可能性もありそうだ。



「お祝いの言葉を有難うございます」



 アンダーソン侯爵令息にお礼を告げる。



「ジュリーの粘り勝ちね!」


「ふふふ、諦めずにいて良かったわ」



 私とレベッカの会話に、アンダーソン侯爵令息が首を傾げた。



「どういう事?」


「ジュリーはね、六歳の時から伯父様に恋をしていたの。本当にしつこかったのよ。伯父様との年の差を気にして、うじうじしているし。ああ……そういえば、入学式のお祝いに髪飾りを頂いて、有頂天になっていた事もあったわね」


「あら、レベッカに言われたくないわ」



 レベッカも幼い時からアンダーソン侯爵令息に恋をしていた。


 此方が見ていて切なくなるほど、レベッカは一途に彼を想っていたのである。


 状況が分からないアンダーソン侯爵令息に、レベッカが私の片思いの歴史を語り始めた。私がアルカード様に一目惚れをしたのが六歳の時。

 最初は偶然、彼と知り合っただけの関係。


 そして次の年の園遊会でも、アルカード様と顔を合わせる機会があった。私が十歳になった時、ようやく外の世界へ行けるチャンスがきたのである。


 その年の園遊会でアルカード様の唯一の息子、ベル伯爵に婚約を申し込まれた。


 婚約者が不在のまま、クレージュ公爵領で過ごすのが定例となる。十歳から夏季休暇を公爵領で過ごすようになり、学園を卒業した年から領地に住み始めた。

 その場に婚約者はいない。


 ずっと一緒に過ごしてきたのは、アルカード様。

 そして老公爵夫妻である。



「じゃあ、ダニーの事は好きじゃなかったの?」



 アンダーソン侯爵令息に問われて、言葉に詰まってしまう。



「人間として好感はあったけど、恋愛としての好きではなかったわね」



 これが全てだ。


 人間として好感は持てても、その相手に恋愛感情が抱けるかは別である。



「そもそもジュリーは伯父様しか目に入っていなかったもの。他の男性に言い寄られても見向きすらしなかったわ。伯父様もそんなジュリーに絆されたのかしら?」



 レベッカは最初から私の片思いを知っているので饒舌だ。



「レベッカ、大人を揶揄うものじゃない」



 ここにきてアルカード様が口を開く。


 さりげなく私の腰に腕を回すのは、天然タラシである老公爵の遺伝かもしれない。腰に腕を回す動作が自然すぎる。女性の扱いに長けているように思えるが、実際は幼少期の頃から女性の扱いを叩き込まれたらしい。



「伯父様の行動は意外だったわ。先に子を儲けるなんて……ジュリーを他の男に取られたくなかったのね」


「当然だ」



 アルカード様が当然の事のように答える。



 ーーにやりと笑みを浮かべるアルカード様も良き!



「まあ!」



 レベッカにとっては揶揄うつもりが、逆に惚気られたと声を上げる。



「ちょっと、レベッカ」



 私の方が狼狽えてしまう。



「さっきジュリーの子に会わせて頂いたわ。大伯父様と伯母様が双子を手放さないのよ。普段からあんな感じなの?」


「そうね、ずっと抱いている姿しか見ないかも?」



 私が生んだ子は初孫ではないのに、なぜか初孫といった扱いだ。


 戸籍上は次男と三男になっているが、長男の欄は空白となっているらしい。その長男はクレージュ公爵家の籍から抜けて、現在はベル伯爵だ。この辺りは大人の事情で空欄にされたのか。


 ベル伯爵がクレージュ公爵令息だった頃と比べ、クレージュ夫人の孫に対する扱いが全く違う。ベル伯爵が生まれた時は、乳母とメイドに世話を任せ切りだったと聞く。

 それなのに双子に関しては、目に入れても痛くないといった状態である。魔眼を持って生まれた事が関係している可能性も否めない。


 それから魔力量も同様だ。クレージュ夫人の双子に対する溺愛が止まらない。


 その勢いのままベビー服や子供服までデザインを始めた。双子だからお揃いの服を着せられる事だろう。そのうち、六歳から招待を受ける園遊会まで参加しそうだ。


 そんな事を考えていたら、レベッカがこっそりと耳打ちをする。



「もう一人産む予定ある?」


「……」



 実は私の中で小さな命が芽吹いているようなのだ。


 まだ胎児の形になっていない。



「まさか?」


「……そのまさかね」



 双子を生んでから一年も経たずに懐妊である。

 さすがに恥ずかしい。



「伯父様って実は手が早かったのね……意外過ぎるわ」



 レベッカが驚いた顔を浮かべている。


 ーーでしょうね!


 私もアルカード様に驚いているのだ。


 王領のアーデン港町から戻って来た夜から、今日の朝を迎えるまで部屋から一歩も出る事が叶わなかった事は、たとえレベッカでも恥ずかしくて言えない。


 ーーずっと濃い夜を過ごしていたなんて口が裂けても言えない。


 それにしても命中率が高すぎる。


 この調子でぽこぽこ子供を産み続けるのだろうか。


 ーーさすがにそれだけはイヤかも。



「次は待望の女の子だ。ジュリエンヌに良く似た子に違いない。娘は母上には渡せないからな」



 次の子は娘が生まれるらしい。


 アルカード様は娘だけでも死守するつもりでいるようだ。双子は老公爵夫妻に奪われているので、アルカード様は息子を抱ける機会が少ない。双子が自分に似ているせいか、アルカード様は子煩悩気味になりつつある。



「ジュリエンヌ、久しぶりだな」



 元父アグレッサ侯爵ーー魔眼を通して見ると、確かに印象が違う。


 相変わらず人形のように整った顔をしている。

 この超絶美形な男が実の父親だ。見た目年齢はバグってて年齢不詳だが、アルカード様の三つ上。


 いつもはアグレッサ侯爵夫人を共に連れ歩くのに、今回は単独で来ているのが謎である。



「ごきげんよう、アグレッサ侯爵」


「クレージュ公爵と悔いのない人生を願っている」


「有難うございます」



 たった一言だけ告げてアグレッサ侯爵が去って行く。


 本当に分かりにくいが、確かに私とレイモンに対する愛情が伺えた。ここまで感情が乏しいと、何が楽しくて生きていられるのか。


 アグレッサ侯爵は妻がいれば、それだけで生きていけるのだろう。



 その後は国立ヴァソール学園の同級生や、レジス侯爵令息夫妻、ベイロン伯爵令息夫妻にシャプル伯爵と会話が弾んだ。彼らと離れてから、祖父母とレイモンに合流する。


 ここでの話題は双子がメインだった。


 レイモンの甥っ子に対する熱が凄い。

 祖父母に取っては直に触れられるひ孫である。シャプル伯爵夫人の子と会った事がないらしい。シャプル伯爵領はアグレッサ侯爵領の最西の位置にあるので、馬車で向かうと往復で十日もかかる。


 私の子供には転移門を通じて、いつでも会えるのだ。


 祖父母に取って気軽に会えるひ孫が可愛いらしい。



「ジュリエンヌ、そろそろ出よう」



 アルカード様に手を引かれ、転移門で王領にあるアーデン港町の私の個人宅へ移動した。


 此の場所で二週間過ごす予定である。


 新婚休暇というものらしい。

 大体は二週間から一月、新婚休暇で二人きりで過ごす。


 私たちは移動に時間がかからないので、二週間にしたがーー今朝までの事を考えたら、別に新婚休暇は必要ないんじゃないかと思ってしまう。それを含めたら三週間も爛れた時間を過ごす事になる。


 アーデン港町には私の家があるので、ゆっくり過ごせるという理由で選んだ。

 家の敷地を覆う結界は、不法侵入者は当然だが、魔法と物理攻撃まで弾き返す威力がある。この結界があるから門番と護衛は必要ない。


 この世界では小さな家になってしまうが、前世の感覚で言えば二階建ての豪邸だ。


 家主は二階に居室と寝室に食事をする部屋を構えている為、外出する以外に下へ降りなくても良い。

 勿論、お茶を飲むサロンや寛げるリビングまで完備。


 一階は主に厨房と大小の応接室に来客の侍従や侍女の待機室、それと住み込みで働く使用人用の私室となっているので、家主と使用人が顔を合わせずに暮らせる環境と言っても良い。


 アルカード様はソレが狙いなのだろう。


 私ものんびり過ごしたいと思ったから、この地に家を購入した。

 そうして二週間の休暇を楽しんだ後、私たちは再び日常へ戻る。



 


 それから数年後ーー風の便りで元姉シャプル伯爵夫人が亡くなった事を知った。


 享年二十八歳の若さ。


 シャプル伯爵領で感染病が流行し、シャプル伯爵夫人は医師が駆け付ける前に息を引き取ったらしい。妻を亡くしたシャプル伯爵は嘆き悲しみ、妻の忘れ形見である四人の子供に慰められて立ち直ったようだ。


 ベル伯爵は子爵令嬢と再婚して子に恵まれ、養子と共に幸せに暮らしている。マーガレットは実子の乳母の役目を終えた後、下級使用人として働いているという噂を耳にした。


 マーガレットは公爵夫人になれなかったどころか、ベル伯爵の正妻にもなれず使用人として、さぞかし屈辱の日々を送っている事だろう。ベル伯爵家は正妻の嫡男が継ぐようで、養子は嫡男の執事として働くらしい。


 二重の意味で断罪を受けた事になるのか?


 ベル伯爵が再婚した相手は、十歳の年の差がある若い妻だ。さすがにマーガレットも若さには叶わない。彼女は魔力量が少ないので、年相応の見た目になっていく。

 ベル伯爵は魔力量が増えたおかげで、見た目は若いまま維持している。


 彼が再婚した事でマーガレットの野望が打ち砕かれ、更に彼女が生んだ子供は後継者ではなく執事になる予定なのだ。ベル伯爵の手腕で領地が潤っているのなら、彼女も本望だろう。

 私は無理やり納得する事にした。


 それからーーハリソン伯爵令嬢のその後が気になって情報を探したが、彼女は他国で気弱そうな低位貴族と結婚していた。この世界が彼女の知っている物語と内容が違う事を自覚し、自分の身の丈にあった相手を見つけて結婚していたのである。

 相手が子爵と言っても、資産が潤沢で裕福な家らしい。


 ーーやっぱり強かな女は強いわね。


 私の現在はと言えば、以前と何も変わらない。

 アルカード様と老公爵夫妻、それから四人の子供に囲まれて平和に暮らしている。


 双子のアルベールとベルナール、リリアーヌとジルベールの四人。名前は安直だが自分の主張で押し通した。ちなみに娘の名前はアルカード様が考えた名前である。


 五歳になった双子の息子は、周囲からも認められる祖父母っ子になっていた。三歳の長女リリアーヌは、完全に私の血を受け継ぎ、全属性に加えて氷魔法と闇属性持ちである。


 私の色である銀髪に藍色の瞳をしているせいか、アルカード様の娘に対する愛情が深い。私と娘は水面下でアルカード様を取り合う事もしばしば。三歳にしてファザコンになりつつあるのだ。


 半年前に生まれた四人目の子供は、私の腕に抱かれて眠っている。

 この子も魔眼を持って生まれてきた。


 双子の兄と同様に父親似ではあるが、この末っ子が一番アルカード様に似ているかもしれない。兄二人はアルカード様と、超絶美形な元父アグレッサ侯爵の容姿をブレンドした感じだろうか。


 末っ子は全属性に加えて私の闇属性を引き継いでいる。魔力量も双子に負けず劣らず。ミニチュア版アルカード様と言っても過言ではない。彼の両親でさえ錯覚すると言っていた。

 私もアルカード様を育てているみたいな、魅惑の背徳感を感じているのは内緒にしている。

 

 現在はレベッカが三人の子供を連れて遊びに来ているので、余計に邸内が賑やかだ。娘はレベッカの子供二人と楽しく過ごし、双子と一緒にいるのは銀髪の三歳の男の子。


 アンダーソン侯爵家の嫡男である。


 上の娘二人は金髪でアンダーソン侯爵令息に似ているが、嫡男はレベッカと瓜二つ。嫡男がレベッカ似であるが故に、アンダーソン侯爵令息の溺愛が止まらないらしい。



「それにしてもーーまた?」


「……」



 私はレベッカに詰め寄られている。



「ジュリーと結婚して伯父様はタガが外れてしまったのかしら? ずっとクールで女性に興味がないって感じだったのに、蓋を開けてみれば妻に溺れるなんてガッカリよね」


「家庭円満って事で良いじゃない。わたくしも流石に子だくさんになるとは思ってなかったけど。子供たちにとっては、兄弟が傍にいれば寂しくないわ」



 これは自分自身の経験だ。


 私には親身になってくれる祖父母と、自分を慕ってくれる弟がいたのは幸運である。何よりもレベッカが傍にいてくれた事の方が大きい。


 私の子供たちも大人に成長し、いずれ親友という名の生涯の友を見つけるだろう。



「でも……初恋が実って、ジュリーが幸せそうで良かったわ」


「わたくしの目に狂いはなかった事の証明になったわね」



 初めて会う相手の第一印象は大事だ。


 そして何度か付き合いを重ねて、相手の為人を確認していく。これを怠ってしまえば、相手の本性が見えた時に絶望を味わう。じっくり時間をかけなくても、相手の普段の生活スタイルを見ていれば察する事は可能だ。


 規則正しい生活をしているか。

 金銭面は常識的なのか。

 自分の意思がなく、優柔不断で他人に流されやすいタイプなのか。


 親に依存し過ぎていないかーー等、自分と同じ価値観であれば十分だろう。


 私はアルカード様と一緒にいるだけで幸せなのだ。会話がなくても傍にいるだけで落ち着く。大好きな相手だからこそ、自分を磨く努力は怠りたくない。


 彼が寛げる場所は、私だけであって欲しいのだ。



「そうね、わたくし達二人は初恋を貫いた勝者だわ」



 そう声を大にしたレベッカの言葉に、私も同感して頷く。


 これからもレベッカとの付き合が続き、アルカード様と共に生きて行くのだ。今は子供たちも一緒にいるけれど、子供は大人になると親の元から巣立ってしまう。


 愛する人と結ばれた幸せを、私はただ噛み締める。

 それが私の選んだ道ーー初恋を貫いた結果、とんでもない幸せが待っていた。





 ーーー  END  ーーー

 


 

 

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