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転生令嬢は初恋を貫く!  作者: 尾木 愛結
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< 34 >  age16

 現在の季節は初夏ーー六月の半ばである。


 風が運ぶ匂いは新緑の香り。

 もうすぐ夏の到来だ。


 私は今年の二月に国立ヴァソール学園を卒業し、その翌日からクレージュ公爵領に居を移している。領地の本邸にいるのは、クレージュ公爵は勿論、老公爵夫妻の四人だ。


 この場にクレージュ公爵令息はいない。


 彼は王都の公爵邸に残って、国立図書館へ通っているようだ。この国立図書館には他国から取り寄せた、あらゆる専門の蔵書が集められている。クレージュ公爵令息は、その蔵書を読む為に図書館へ通っているとの事らしい。

 本音では留学先へ戻って勉強したいようだが、さすがにクレージュ公爵も老公爵夫妻も許可しなかった。


 その理由が「秋に結婚するのに許可は出来ない」と一言。


 実際、入籍が決まっているだけで、結婚式の話は一切ない。私と本気で結婚する気があるのか、さりげなく聞いても話を逸らされてばかり。その事について、私も色々と考えるようになった。


 クレージュ公爵令息と入籍する際、私からの条件を契約に入れてもらう。


 それと同時に離縁の書類へサインを貰うのを忘れない。

 私からの条件は不貞不倫はお断り。

 そして絶対に嘘や隠し事はしない事を条件に出す。


 アリエルからマーガレット・ベル伯爵令嬢について教えて貰った。


 彼女は私と同じ年齢で、王立ノヴェール学院を卒業したばかり。

 本来は王立ノヴェール学院へ通う立場ではないが、クレージュ公爵から援助を受けて通っていたらしい。


 ベル伯爵令嬢の亡き両親は、クレージュ公爵と親しい間柄だったようだ。その忘れ形見の娘の後見人となり、王立ノヴェール学院へ通わせていたらしい。ベル伯爵令嬢が卒業した後は、クレージュ公爵邸で侍女として働きながら領地の立て直しを考える。


 王立ノヴェール学院の生徒なら、魔力量は少ないだろう。

 スタンピードで土壌が悪くなったのなら、属性魔法が使える者が必要となる。クレージュ公爵令息では力不足だが、アンダーソン侯爵令息たちなら解決できるだろう。


 彼らが協力してくれたらの話になるが。


 ーー彼が農耕学に興味が湧いたのは、ベル伯爵令嬢がきっかけだった?


 そうだったら完全にアウトだ。

 ベル伯爵令嬢と親しくなったきっかけは、やはり同じ王立ノヴェール学院の学生だった事だろうか。当時の彼女は学生寮に入っていたから、クレージュ公爵邸にはいなかった。


 こういう場合、学校が違うと情報が足りないと痛感する。


 ベル伯爵令嬢は私と同じ年齢だから、今年の二月に卒業したのだと思う。学費や寮費の資金援助はあったが、卒業後は働いて身を立てていくしかない。

 クレージュ公爵が後見人になっても、彼女が成人すれば後見人は外れるので一人立ちしなければならなくなる。スタンピードで荒らされた領地も立て直さなくちゃいけないのだ。


 ベル伯爵令嬢が一人で何とかなる状況じゃないだろう。


 王都の邸の方で侍女として働くとしても、私とクレージュ夫人が領地にいるので侍女は不要だ。令嬢には侍女がつくけれど、令息には侍女ではなく侍従という存在が侍る。女性不在の邸で侍女ではなく、メイドとして働いているのか。


 この辺りはアイリスの情報頼みとなる。



「いっそ白い結婚にしちゃおうかな」


「誰が白い結婚をするんだ?」


「クレージュ公爵、執務の方はもう宜しいのですか?」



 私はお茶の時間という事で、クレージュ公爵の執務室からサロンへ来ていた。


 ここのサロンは日当たりが良く、窓を開けると風通しが良い。

 初夏の風を感じるのも贅沢なひと時である。



「ああ、素晴らしい助手がいてくれるから仕事が捗っている」


「嬉しい言葉を有難うございます」



 私はクレージュ公爵の執務の補佐をしているのだ。


 他国語の翻訳だったり帳簿の見直しに、書類整理といった秘書みたいな感じだろうか。クレージュ公爵の傍にいられるので、私も楽しく仕事をさせて貰っている。


 こうなったのは一枚の書類がきっかけだった。

 たまたま目にした書類の数字が違っていて、それを指摘したら助手にスカウトされたのである。執務室という密室にいるわけだが、クレージュ公爵以外の人間もいるのだ。


 執務室の主であるクレージュ公爵は大きな執務机で作業し、他の執務補佐官と書記官は会議室で使用する長い机で作業をする。雑用係の人間は選別された書類を保管室へ運んだり、必要な資料を探して持って来るといった仕事内容だ。

 私は執務室の中央に置かれたソファとテーブルを借りての作業。


 なかなかの待遇で快適に仕事が出来る。


 クレージュ公爵が真向いの席に腰を降ろすと、彼が座ったタイミングでお茶が置かれた。執事のピエールはとても有能な人間だと思う。息をする感じでクレージュ公爵の給仕をする。



「ジュリエンヌ嬢の知り合いが白い結婚をするのか?」



 私の独り言を聞いてしまったようだ。


 まさかクレージュ公爵に向かって、「貴方の息子です」とは言えない。


 ーーよくある友人の話として相談してみようか?



「そうですね……友人というより、知り合いから聞いた話なんですが。その方の婚約者は隠れて、別の相手とお付き合いをされているようなのです。相手の方は婚約者とは別れたくない。でもお付き合いをされている方とも別れたくないそうですが、やはり二人同時にお付き合いをされるのは不義理だと思います。どちらか一人を選べないのなら、婚約を解消すれば良いのにと思ってしまって」



 クレージュ公爵令息の現状を語ってみた。


 この夏はクレージュ公爵令息も領地に来る予定なので、聴覚を発揮して色々と探ってみようと思う。

 私の言葉にクレージュ公爵が眉間に皺を寄せる。やはり一般的にも、クレージュ公爵令息のような二股は良くないという事だろう。



「なるほど……」


「婚約を解消せずに結婚するなら、不義理な方と夜伽をする必要はないかと。わたくし個人の意見として、白い結婚にするべきと思いました。クレージュ公爵はどう思われますか?」


「俺は二人同時に心を傾ける相手が信じられない。結婚とは家同士の繋がりを意味する。そんな不義理な相手では、誰も幸せに出来ないだろうな」



 クレージュ公爵が自分の息子の話だと知ったらどうなるか。


 さすがに彼を悲しませたくないので、ここは知り合いの話だと思わせておいた方が良いだろう。まさか自分の息子が白い結婚になるとは思わないはず。


 クレージュ公爵令息が、ベル伯爵令嬢を振り切ってくれたら問題はないが、あの様子だと宙ぶらりんのままだろう。普段は潔いのに、男女の話になると優柔不断になるようだ。



「わたくしも同意見です。そもそも一人の男性を誰かと共有したくありません」


「ジュリエンヌ嬢は一途なのだな」


「一途になるのか分かりませんが、ずっと一人の方を思い続けていたいのです」



 クレージュ公爵に向かって告げる。


 ーー私の心はクレージュ公爵で占められているの。


 六歳で一目惚れをしてから早十年。

 彼には恋愛対象として見られていないのが残念だが、十六歳となった私では無理だろうか。クレージュ公爵の姿を見ただけで胸がときめく。声を聞くだけでドキドキする。


 手を握られると心臓が止まるほど。

 だけどーー私の想いは告げられない。


 いっその事、クレージュ公爵令息から婚約解消してくれないだろうか。まだ彼は王都にいるが、来月には領地へ来るので行動や会話を把握する必要がある。



「クレージュ公爵、話は変わりますが……来月から騒がしくなりますが、宜しくお願い致しますね」


「有能な助手と可愛い従姉妹のおねだりには弱い」



 ーークレージュ公爵の為なら何でも頑張ります!



「ふふふ、有難うございます」


「あらあら、二人で楽しそうね」



 クレージュ夫人が姿を現す。


 私はクレージュ公爵の執務の秘書をしながら、クレージュ夫人から公爵夫人としての教育を受けている。主に家政と帳簿の確認で、他には特産品の紹介や販路を広げること。


 ほとんどがクレージュ夫人が広告塔になっているおかげで、商品の売れ行きはうなぎ登りである。彼女はクレージュ公爵領が誇る生地で仕立てたドレスの紹介が多い。

 それとダンジョン産の鉱石をあしらったアクセサリーや、高価な宝石も茶会でお披露目して売り上げを伸ばしている。その手腕は、私も見習いたいと思う。



「クレージュ夫人、お先にお茶を頂いております」



 本日のお茶は爽やかなグリーンティーだ。


 お茶請けにはババロアとグレープフルーツを使ったゼリー。

 クレージュ公爵用には、レアチーズケーキとポップコーンが定番となっている。



「ジュリエンヌが来てから、アルカードの仕事が捗っているみたいね。それと新しい魔道具のおかげで、本当に快適になったわ。保存食の備蓄にも役立っているそうじゃない。この拡張バッグは万能ね」



 クレージュ公爵邸の食料庫には、肉類や野菜を詰めるコンテナを拡張している。それらには時間停止を付与しているので、痛む事がなく長期間の保存が可能になった。

 それと冷凍保存やチルド保存といった設備も完備している。



「非売品ですので内密にお願い致します」



 全てクレージュ公爵領内に限られた魔道具だ。



「そうだったわ」


「母上もジュリエンヌ嬢が来てから楽しそうだ」


「当たり前じゃない。わたくしの娘になるのよ」



 そこは敢えて「孫娘」じゃなく、「娘」と呼ぶのは、彼女の拘りなのか。



「ダニエルが王都から戻って来なくて寂しくないか?」



 クレージュ公爵が息子を心配して告げる。


 私の中ではクレージュ公爵がいれば良いので、特に気にしていない。それにクレージュ公爵だけじゃなく、クレージュ夫人もいるので楽しく過ごす事が出来る。

 先日は老公爵と一緒にダンジョンへ行ったが、もの凄く強くて頼もしかった。


 ーーあの四階層の昆虫類を瞬殺!


 クレージュ公爵の父親だけあって、最強と言っても良い。

 最後に高級蜂蜜を入手して、フレンチトーストを作ったら高評価を頂きました。



「クレージュ夫人がいるので寂しくありませんわ。来月にはレベッカと同級生が来るので、その準備に追われていますが、楽しく過ごさせて頂いています」



 クレージュ夫人は女性が集まるのを楽しみにしているようだ。


 姪のレベッカも独身最後の夏である。来年はアンダーソン侯爵令息の夫人になるので、これまでと同じように過ごせなくなるのだ。それを考えると寂しく思う。


 ずっと一緒に夏を過ごしていたのに、私たちは子供から大人になっていくに従い、自由気ままに過ごせなくなっていく。結婚するとはそういう事だ。



「このババロアというデザートも美味しいわね。暑い時期だとレモンシャーベットが一番ね」


「レベッカが来れば新しいデザートが増えそうですね。彼女の食いしん坊につられて、わたくしも張り切って作ってしまいそうだわ」



 私一人では何が食べたいといった欲求はないが、レベッカの一言で「ソレを作ろう」となる。


 彼女は前世ではレンチン料理しかしていなかったらしい。その割に食に関しては貪欲だと思う。おかげでクレージュ公爵とクレージュ夫人に喜んで貰える。



「レベッカとは良いコンビね」


「姉妹のようだと言われます」



 私とレベッカは同じ銀色の髪をしているのだ。


 以前、二人でお揃いの髪型をしていたら間違えられた事がある。



「ああ、確かにーー二人は同じ髪色をしているから、後ろ姿だと見分けがつきにくいわね」


「そうか? 後ろ姿でも見分けはつくと思うが?」



 クレージュ公爵は、私とレベッカの区別がつくらしい。


 ーーこれは嬉しい!


 でもアンダーソン侯爵令息も同じように、私とレベッカを見分けるのだ。レベッカへの愛が伺える。


 クレージュ公爵令息が見分けられないのは、彼の心が私ではなく別の女性を思っているからだろう。その分、クレージュ公爵が見分けてくれるなら満足だ。



「それはアルカードだけよ。ダニエルでも見分けがつかないとボヤいていたわ」



 クレージュ夫人は楽し気に笑う。



「実際、レベッカとジュリエンヌ嬢の雰囲気は似ていると思う。俺がジュリエンヌ嬢の魔力が見えるせいかもな。レベッカの魔力は淡いブルーで、ジュリエンヌ嬢の魔力は無色に見える」


「無色って……それは本当なの?」


「母上も魔眼で確かめてみれば良い。無色の魔力は無限の力を秘めた色だ」


「本当だわ! ジュリエンヌは本当に素晴らしい娘ね!」



 クレージュ公爵とクレージュ夫人が、魔眼で私の魔力を見ているようだ。


 ーー私も魔眼を持って生まれたかったな。


 クレージュ公爵とクレージュ夫人は赤紫色の瞳を持ち、その瞳の色は魔眼を示しているのだ。ほぼ王族の色でもあるので、国王陛下や王太子殿下も赤紫色の瞳を持っている。


 クレージュ公爵家では元王女殿下だったクレージュ夫人と、その一人息子であるクレージュ公爵の二人だけ。

 老公爵の瞳の色は瑠璃色で、クレージュ公爵令息は琥珀色の瞳である。


 王族であるレベッカは王妃陛下の色を受け継いでいるので、銀髪に青灰色の瞳を持って生まれてきた。レベッカの妹であるグレース第二王女殿下も同じ色を持つ。

 王太子と第二皇子殿下は王族の色で、黒髪と赤紫色の瞳だ。



「わたくしも魔眼を持って生まれたかったです」


「魔眼を持つ子供が生まれたら、その子を通して見られるわよ。子が出来れば胎内で母体と一体になるせいか、母子は強い繋がりが出来るの。魔力量が多ければ繋がりが強くなるわね。ジュリエンヌの子が生まれたら、わたくしの生きがいになりそうよ」



 クレージュ夫人がうっとりとした顔を浮かべる。


 それとは逆にクレージュ公爵の眉間に皺が刻まれていく。



「……母上、気が早いですよ」



 私の気のせいなのか、クレージュ公爵の機嫌が悪くなっているように見える。



「ふふふ、貴方でも嫉妬するのね」



 クレージュ夫人は楽しそうだ。


 私は二人を眺めながらお茶を飲む。

 ずっとクレージュ公爵と一緒にいられたら嬉しい。


 そんな事を思いながら、三人でお茶を飲みながらひと時を楽しんだ。


 





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