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転生令嬢は初恋を貫く!  作者: 尾木 愛結
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 煌めくシャンデリア、彩豊かなドレスを纏う淑女たち。


 国立ヴァソール学園の校内にある大広間での卒業パーティーが開始された。時刻は十八時を回り、卒業生たちは婚約者や身内の者を連れ添い、それぞれ親しい友人たちとの最後の挨拶を楽しんでいる。


 レベッカは婚約者のアンダーソン侯爵令息を連れ歩く。


 デュプレ伯爵令嬢はレジス侯爵令息、カゾーラン伯爵令嬢はベイロン伯爵令息、シャレット子爵令嬢はミレー伯爵令息と、それぞれが婚約者と一緒に歓談をしていた。


 私の隣にはクレージュ公爵令息が立っている。



「ダニー、久しぶりだな!」



 そこへ兄貴分のレジス侯爵令息とベイロン伯爵令息が近づいてきた。


 男同士での会話があるのか、彼らは婚約者を私の傍へ置いてから場所を移す。ちょうど喉が渇いていたから、私たちは飲食のあるエリアへ移動する。

 壁際に椅子があるのを確認してから、飲み物を取ったあと椅子へ腰を降ろした。


 勿論、私は男性の会話を盗み聞きするつもりである。

 そう思っていたら、レベッカがアンダーソン侯爵令息を取られたと泣きついてきた。そこまでして私たちに聞かれたくない会話なのだろう。


 ーーどんな会話が展開されるのかしら?



「フィル兄とジェロ兄、サミーも二年ぶりか?」


「あの話はどういう意味だ?」



 レジス侯爵令息が話を切り出した。



「どういう事?」



 アンダーソン侯爵令息は意味が分からないといった様子である。



「ダニーが他所の女に懸想しているんだ」


「ーーは?」



 レジス侯爵令息の言葉にアンダーソン侯爵令息が唖然としているようだ。ベイロン伯爵令息が動じていないので、レジス侯爵令息と同じく事情を知っているのだろう。


 これはーーアイリスの言っていた内緒の外出の件に違いない。



「フィル兄、言い方が悪いよ。別に懸想しているとか……そんなんじゃない。ただ、向こうから会いたいって言うから。エンヌに内緒で会っているのは悪いと思うけど、俺たち別に悪い事をしているわけじゃないし」


「ジュリエンヌ嬢に言えない時点で、悪い事をしている自覚があるじゃないか」


「ダニーは秋に入籍するんだろう? ジュリエンヌ嬢が知ったら悲しむぞ」


「エンヌには言わないで欲しいな。俺はエンヌが大事だし」


「だったら相手に会わない事だ」



 ーーこの会話から推測すると、クレージュ公爵令息に女性の影アリって所か。


 クレージュ公爵令息が本気で相手の方を思っているなら、私は身を引く形を取っても良い。既にアンダーソン侯爵家の養女になったので、彼と婚約を解消しても支障はなくなった。


 私の個人的な感情で言えば、クレージュ公爵に会う口実がなくなるのはイヤ。



「ダニーはジュリエンヌ嬢と結婚するんだよね? 彼女を幸せにするって言ったのは嘘?」


「サミーがジュリエンヌ嬢に片思いをしていたのを知ってて、彼女に婚約を申し込んだんだろ? お前も男なら腹を括ってジュリエンヌ嬢か、その相手の女を選べ」



 レジス侯爵令息の言葉に声が出ない。


 ーーアンダーソン侯爵令息は私に片思いしていた?


 そういえばーー二人が婚約する前、レベッカの想い人は誰かに恋していると言っていた気がする。レベッカはアンダーソン侯爵令息の想い人を知っていたのだろう。


 そのレベッカの想い人の相手は、ずっと年上のクレージュ公爵に夢中だった。


 ーーレベッカは事実を知っていても、私と普通に接してくれたのか。



「サミーには悪い事をしたっていう自覚はあるよ。今はベッキーと婚約して幸せなんだろ?」


「ずっとサミーからジュリエンヌ嬢の話を聞かされ、ダニーが彼女に興味を持つのも分かる。あの有名なアグレッサ侯爵の美貌を受け継いでいるだけあって、めちゃくちゃ美人だしな。それにクレージュ公爵とも対等に商談しているし、お前の領地も彼女のおかげで潤っているらしいし。そんなデキた婚約者がいて、よく別の女に行けるよな」



 ここは年長者のレジス侯爵令息が、クレージュ公爵令息に釘を刺しているらしい。



「そうだぞ、ダニー。お前はハリソン伯爵令嬢の事だって黙っていたじゃないか」



 ベイロン伯爵令息の続く援護に、クレージュ公爵令息は無言で返す。



「ちょっと待って、ダニー。ハリソン伯爵令嬢の事は間違いだったんだよね? 在学中ずっと付きまとわれて迷惑していたって言うのは嘘だったの? こっちはレティとジュリエンヌ嬢に黙っていたけど、もしソレが嘘なら正直に話した方がダニーの為だよ」



 アンダーソン侯爵令息の言葉に一同が黙る。



「ミレーヌは……俺と一緒にいたいって言ってただけで、別に疚しい関係じゃない」



 ーーハリソン伯爵令嬢を名前で呼ぶのか。


 クレージュ公爵家の影は何もなかったと報告していたはずだが、私が傷つかないように配慮していたってこと?


 先ほど会話をしたハリソン伯爵令嬢の口からも、全く相手にされていない様子が伺えたから、ある意味そこだけは本当の事だろう。



「名前で呼び合うって重要だよ? ダニー、分かってる?」



 確かに名前で呼び合う関係は、疚しい事がなくても疑われる要素となる。



「サミーだってエンヌの事を名前で呼ぶじゃないか」


「それはーー」


「ダニーは知っているんだよな? サミーとジュリエンヌ嬢の関係」



 ここで誤解されるような事を言うレジス侯爵令息も、かなり良い性格をしているようだ。


 学生時代は頼りがいのある兄貴分だったのに、男同士つるむとこんな感じになるのか。



「サミーとエンヌの関係? お前こそエンヌを諦めてないじゃないか。俺ばかり責めるなよ」



 案の定、クレージュ公爵令息がレジス侯爵令息の罠に引っかかった。



「違うって。サミーとジュリエンヌ嬢は義理の兄弟になったんだよ。アグレッサ侯爵家の籍を抜けて、アンダーソン侯爵家の養女になっただけだ。義理の兄弟になったんだから名前で呼ぶのは普通だろ?」



 ここで助け船を出しているのが、ベイロン伯爵令息である。


 ーーさすが常識人だ。



「アンダーソン侯爵家の養女? エンヌが? 俺は何も聞いてないけど?」


「クレージュ公爵と夫人は知っていたみたいだぞ。それと王女殿下もな」


「なんだよソレ……俺だけ除け者扱いしてたって事だろ?」



 クレージュ公爵令息が拗ねたような口調で呟く。



「ベル伯爵令嬢だったか? ジュリエンヌ嬢に知られるのも時間の問題だぞ。お前の口から説明すれば、ジュリエンヌ嬢も分かってくれると思う。彼女は馬鹿じゃないから、ダニーの考えも認めてくれるはずだ」



 ーーここに来て別の女性の影!?


 ベル伯爵令嬢って聞いた事あるような気がするが、今は軽いパニックで思い出せそうにない。



「アグレッサ侯爵家から籍を抜いているから、ジュリエンヌ嬢も婚約には拘ってないはずだ。ダニーがその女を選ぶなら、順序を考えて行動しろ。婚約解消するなら早めにして、ジュリエンヌ嬢と結婚するなら女と縁を切れよ」


「ずっとダニーを支えてきたのは誰? まずそこを考えて行動しなよ」


「サミーはエンヌの事が好きなんだろ? 俺がエンヌと婚約を解消したら、すぐにベッキーと別れて婚約するのか?」


「そんな事を言っているんじゃないよ。僕はレティの事は大切だし、結婚式だって控えてる。僕と家族になったジュリエンヌ嬢の事を心配しちゃいけないの?」


「それは……」


「ダニーの心の中を占めているの誰? ジュリエンヌ嬢? それともベル伯爵令嬢?」


「……メグの方に気持ちは傾いている」



 ーー思い出した!


 ベル伯爵令嬢はクレージュ公爵邸にいる侍女のマーガレット。


 どういった経緯でクレージュ公爵令息とそうなったのか分からないが、邸内にいる侍女とわざわざ外で会うのは男女の関係って事だろう。


 アイリスの方は二人の関係に気づいてないのかも。

 まさか嫡男と侍女が恋仲なんて、そんなスキャンダルはあっという間に広まってしまうものだ。メイドや侍女の噂話は伊達じゃない。その情報網は素早く迅速に広がっていく。


 ーーでも、昨日はそんな素振りを見せていない。


 クレージュ公爵令息は、私に隠し通そうとしている可能性がある。

 彼が本気で好きな相手なら応援しても良いが、私を当て馬にして自分だけ幸せになろうとしているなら許さない。


 私は隣にいるレベッカにこっそり打ち明ける。

 そしてーー再び彼らの会話を聴覚で盗み聞く。


 彼らは自分たちの会話を、私が盗み聞いているとは思っていないだろう。



「ジュリエンヌ嬢を泣かせたら、僕の両親とレティは黙っていないよ? それとクレージュ夫人もね」


「どうして俺の祖母上が出てくるんだ?」


「ダニーは知らないの? ジュリエンヌ嬢とレティは二人でセットだけど、そこにクレージュ夫人も加わった三人は僕でも間に入れないほど深い仲なんだよ」



 ーーアンダーソン侯爵令息の言い方!


 確かに仲は良いけど、アンダーソン侯爵令息の怯え方が普通じゃない。

 そこまで怯えなくても良いと思う。



「そういえば……エンヌの話に祖母上が出ていた」


「あの三人は本当に深い仲なんだよ。ダニーの不貞がバレたらただじゃ済まない。今のうちに手を切るか、婚約を解消するかの二択しかないと思う」



 アンダーソン侯爵令息がクレージュ公爵令息に告げる。


 現状で不貞をしているのか定かではないが、私は前世の記憶があるせいか不倫不貞が許せない。一人の男性を誰かと共有するなんて気持ち悪くて無理。

 最悪のパターンだと「あっちの方が良かった」なんて、比べられる事も有り得るのだ。


 帰宅したらアリエルから情報を貰っておいた方が良いだろう。



「エンヌとは別れたくないし……彼女とも続けていきたい」



 クレージュ公爵令息が二股発言をしていた。


 ーー私はイヤ!



「僕は忠告したからね。フィル兄とジェロ兄の意見も、僕と同じだよね?」



 アンダーソン侯爵令息の言葉に、レジス侯爵令息とベイロン伯爵令息の二人が頷く。



「いいか、ダニー。道は踏み外すなよ」



 レジス侯爵令息の脅しの効いた声で言われ、クレージュ公爵令息が息を飲む。


 ここまで彼らに詰め寄られた事がなかったのだろう。

 兄弟同然で育った三人に詰め寄られ、ようやくクレージュ公爵令息は自分の過ちに気づいたのか。彼らの気迫に押されて頷くしかなかった。


 彼らの会話をざっくりとレベッカに説明する。

 詳しい話は後日また改めて話をするとして、今夜は私たちの卒業パーティーなのだ。せっかくの祝いの場なのに、男女の泥沼ちっくな話を聞かされテンションもダダ下がりである。


 この日の為に誂えたドレスも滑稽に見えてしまう。



「エンヌ、お待たせ」



 クレージュ公爵令息が貴公子らしい笑みを浮かべる。


 何も知らないデュプレ伯爵令嬢、カゾーラン伯爵令嬢とシャレット子爵令嬢の三人は、彼の笑みにノックアウトされたようだ。頬を上気させている。

 彼の装いは軍服スタイルのせいか、正統派な貴公子然としているのだ。


 十八歳となって大人の色気も加わり、彼に微笑まれたら恋に落ちてしまうだろう。


 そういえば彼女たちに、クレージュ公爵令息を紹介した事がなかった。改めて紹介しようか迷っていた所に、レベッカがクレージュ公爵令息に向かって口を開く。



「ダニー、サミーはどこ?」



 クレージュ公爵令息が一人だけ来たので、レベッカがアンダーソン侯爵令息の事を尋ねる。


 彼らと一緒にいたのに、クレージュ公爵令息だけが一人で戻って来たのが不思議だった。



「俺抜きで話があるみたいだったから置いてきたんだ。もうすぐ来ると思う」



 先ほどのやり取りのせいか、罰が悪そうな口調で呟く。



「そう……また今年の夏にお邪魔するわ。今回は彼女たちも招待するから宜しくね」



 私が彼らの話を盗み聞いている間に、レベッカが夏季休暇をクレージュ公爵領で過ごさないかと提案したらしい。レベッカにしたら、伯母の嫁ぎ先の領地である。


 今年の夏は婚約者のアンダーソン侯爵領で過ごすと思っていたが、北方にあるクレージュ公爵領の方が涼しくて過ごしやすいようだ。アンダーソン侯爵領の方は、最東側に位置しているので冬場に過ごすのは快適らしい。


 一応、私も今年の冬のシーズンに誘われている。

 アンダーソン侯爵家は書類だけの家族であるが、レベッカがいるなら一緒に行きたい。



「父上の許可を取ったのか?」


「伯父様はわたくしとジュリーのする事に文句は言わないわ。それと伯母様も一緒よ」



 クレージュ公爵は、私とレベッカのする事に肯定的な所がある。


 これも全て便利な魔道具と、クレージュ公爵領の新たな特産品を開発して利益を上げたのが大きい。ついでに言えば、本邸の快適さや料理のレパートリーを増やした事も最大の理由だと思う。


 私もクレージュ公爵と一緒に過ごすのが嬉しくて、色々と提案したり商品を開発してしまうのだ。そんな私とクレージュ公爵の様子を、クレージュ夫人が微笑ましげに眺めるのが常である。


 クレージュ夫人も王領の避暑地から、クレージュ公爵領で過ごすようになった。



「それより、サミーも一緒?」


「サミーはヴァソール学園長の別荘へ招かれて、卒業生と進学メンバーを集って合同研究会をする予定らしいの。彼女らの婚約者も同様みたいで……婚約者を合同研究会に奪われた者同士が集まり、女性だけの交流を深めるのよ」



 レベッカが良い感じに説明しているが、今回の女子の集まりは「独身最後の女子会」である。


 大舞踏会でデビュタントを済ませた後、レベッカの結婚式を筆頭に、彼女たちの結婚式も続く予定だ。その中に私の結婚式は含まれていない。


 クレージュ公爵令息が一緒に式を考えたいと言うから、まだ結婚式の準備を始めていない状態だ。入籍はデビュタントの翌日という事で話が決まっている。

 先ほどの話を聞いてから、あんなに楽しみにしていた結婚が色あせてしまった。


 今夜の卒業パーティーも楽しみにしていたのに、クレージュ公爵令息の不貞疑惑が頭を過る。もやもやした気持ちが気分を重くしているようだ。


 ハリソン伯爵令嬢の件もハッキリしていない。


 クレージュ公爵令息とハリソン伯爵令嬢の関係は、完全に白だと分かっているが問題はそこではなく、そこに感情があったかどうかが問題なのだ。


 恋心というのは厄介だと思う。


 全く気分が晴れないまま、卒業パーティーを後にしてクレージュ公爵邸に戻ってきた。クレージュ公爵令息とダンスも踊らず、同級生たちと始終会話して終わった気がする。


 この日の為に誂えたドレスだったのに、ダンスも踊れなかった。ファーストダンスは婚約者が常識だが、クレージュ公爵令息は見知らぬ相手と踊っていたのである。それが余計に腹立たしくて、クレージュ公爵令息が見知らぬ相手と踊った後、ようやく私に気づいてダンスに誘われたが気分が悪いと断ったのだ。


 クレージュ公爵令息をダンスに誘ったのは、在校生の女生徒らしい。


 先に婚約者の私とファーストダンスを踊ってから、クレージュ公爵令息を誘うのがマナーなのに。

 その女生徒とクレージュ公爵令息が破ったのだ。ある意味、忘れられない卒業式となったのは言うまでもない。このもやもやした気持ちは、どこにぶつけたら良いのか。

 

 ーー明日からどう過ごそうか?


 クレージュ公爵のいる領地で過ごした方が気分も晴れそうだ。


 ーークレージュ公爵に慰めて貰うのもアリよね?


 私は通信機を取り出して、早速クレージュ公爵へ連絡を入れたのだった。



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