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転生令嬢は初恋を貫く!  作者: 尾木 愛結
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 祖母にとって初めて耳にした話もあり、少し動揺しているのが伺える。


 ようやく出来た一人息子の不甲斐なさと、孫娘による魅了で息子の嫁まで精神異常を来していたのだ。正常な感情を持っていれば、こんな異常事態にならなかっただろう。たとえ妻にしか興味はなくとも、長女の魅了に気づいたのなら対処すれば良かったのだ。


 それすらも行動を取らず、ずっと放置し続けていたのだから。

 嫡男の誕生にも感情を見せず、ただ妻が欲しかったからと流すだけ。嫡男が三歳になっても何もせず、妻と長女が人形遊びをするように嫡男を扱っても何も思わなかったのだろう。


 私はそれを放置する事が出来ず、祖父母へ相談した。


 せめてレイモンだけは大切に扱って欲しい。

 私の願い虚しく、二人は変わらなかったので弟を祖父母へ託したのだ。祖父母が引き取る前のレイモンは、まるで感情の持たない人形そのもの。相手の言葉に従い、自分の意思を持たない。


 まだ三歳の子供だったので、祖父母へ託した後はレイモンも子供らしさを取り戻していった。喜怒哀楽は勿論、自分の意思を伝える事も覚えていったのである。


 元姉のシャプル伯爵夫人はともかく、私とレイモンの見た目はアグレッサ侯爵に酷似しているのだ。シャプル伯爵夫人はアグレッサ侯爵夫人に似ていないが、アグレッサ侯爵夫人の母親タイペイ夫人に似ている。その事にシャプル伯爵夫人はコンプレックスを抱いていたようだが、二十年も両親を独占していたのだから十分だろう。


 シャプル伯爵夫人のように外見に拘る必要はない。

 その人の本質が重要なのだから、シャプル伯爵夫人も自分を磨く努力をすれば良かったのだ。シャプル伯爵は妻を愛していると言っていたので、これからはシャプル伯爵の為に生きていけば良い。



「わたくしの我儘な願いを聞いて下さり有難うございます」


「ジュリエンヌが悪い訳ではないの。ダーレンに親としての自覚がない事が原因だわ。それとハリエットの魅了でメグさんまで……ずっと貴方に辛い思いをさせて、ごめんなさいね」


「祖母様はわたくしに寄り添って下さったわ。わたくしに祖母様がいてくれたから、今日まで乗り越えられたの。だから……これからも、わたくしの祖母様でいて下さる?」



 アグレッサ侯爵夫妻との縁が切れても、私は祖父母と弟の縁を続けていくつもりだ。



「勿論よ! 貴方はわたくしの大切な孫娘なのは変わらないわ」


「祖母様」


「ジュリエンヌ」



 祖父が傍に立っていた。



「祖父様……この度は本当に有難うございました」


「孫娘の為にした事だ。お前が気にする必要はないのだよ?」


「それでも養子の件や弟の事も……」


「レイモンが成人したら、ダーレンは当主の座を降ろす。息子は元から社交の場に興味を持たぬから、別に領地へ戻しても構わんだろう。領地でレイモンの代わりに執務をしながら、数年に一度のスタンピードの討伐をすれば良い」



 祖父は息子に期待するのを諦めたのだろう。


 これは祖母から聞いて知った事だが、レイモンが六歳になって園遊会へ出席する時に、王宮へ同伴しているのが祖父母の二人だった事だ。元両親は世間体を考えてなのか、私が十二歳になるまで同伴してくれたのである。

 そういった世間体を考えているなら、レイモンにも同じ事が出来るはずなのに。


 元両親はレイモンと一緒に園遊会へ出向いていない。


 ーー本当に何を考えているのだろう?


 レイモンは祖父母の傍ですくすくと育っているから良いが、元両親は唯一の嫡男であるレイモンに対して、本当に何も感じていないのか。あんな両親に育てられるより、祖父母の傍にいた方がレイモンも幸せだろう。


 園遊会で両親ではなく祖父母と参加しているレイモンは、社交界で何と言われているのか気になる。レイモンの見た目は元父ダーレン・アグレッサ侯爵と瓜二つなのだから、社交界で噂が立たないはずがない。


 国立ヴァソール学園の入学式も祖父母が出席している。

 世間から見ても嫡男を冷遇しているように見えるが、祖父母がレイモンの傍にいるので、アグレッサ侯爵夫妻の悪評が流れずに済んでいるのかもしれない。



「わたくしと主人は卒業パーティーには参加せず、レイモンと一緒に別邸へ戻るわ。姉の卒業を祝いたいとレイモンが言えば、わたくしと主人もパーティーへ参加するつもりでいるわよ」


「レイモンにパーティーへ参加するように頼んでおこうかしら」



 八歳になったレイモンは中世的な美少年である。


 髪の長さがミディアムのせいか、前世で目にした天使画のような愛らしさ。藍色の瞳はくりっとしていて男の子なのに目が大きい。超絶美形で表情筋が死んでいる元父よりも、レイモンの方が数倍も素敵に見える。


 まだ変声期が来ていないのでボーイソプラノだが、十二歳を過ぎたら現在より大人びた姿になるだろう。このまま美少年の状態で成長が止まって欲しいと、私は密かに心の中で願っている。


 あの元父親の息子だから、その通りに成長すると思うが。


 前世でも美少年だった子役やアイドルが、成長すると残念な大人になる例が非常に多かった。それも見た目だけじゃなく、中身も残念な事になっている。

 未成年のうちから周りの大人にチヤホヤされていると、それが当たり前になって傍若無人になるのか。それだけならともかく、薬物中毒や不倫だったり無理やり致すとか有り得ない。


 金銭感覚もバグっているのも考えものだ。

 下手に処世術を学んでいるから余計に質が悪い。


 そしてーー何よりも暴力なんてもっての外!


 元父は自分の妻以外に興味がないだけで、性格が悪いわけではないけれど。金銭感覚もおそらく正常だろう。家政の事は妻に一任しているだろうから、私やレイモンに関する予算に関して知らないと思う。


 私とレイモンの予算を、元母と元姉が使い込んでいる事も知らないはずだ。

 それを今更知った所で元父が何かするわけでもないし、元母に至っては「ごめんなさいね」と、おっとりした感じで言うだけだろう。

 そこに私とレイモンに対する申し訳なさや、親として酷い事をしていたという自覚もない。



「姉上!」



 タイミング良くレイモンが顔を出す。

 国立ヴァソール学園の制服に身を包んでいるが、まだまだ体が小さい。



「レイモン、貴方は卒業パーティーに参加する?」


「僕は八歳なので十九時までしか残れません。それでも良いのですか?」



 レイモンも私と同じ四月生まれなので、現在は八歳。


 学園の規定で十歳の年齢になるまで門限が定められている。これを破ると退学処分という厳しい罰則があるので、学園に通う生徒は規定を守っているのだ。



「パーティーの開始が十八時だから、一緒にいられるのは僅かな時間ね。そんな慌ただしい時間を過ごすなら、夏にゆっくり過ごした方が良いわね」


「僕も同感です。パーティーに参加しても、姉上は婚約者の方といるので邪魔をしたくありません」


「レイモンは良い子ね」


「祖母様と祖父様、そして姉上が僕を育てて下さったからです」



 ーー本当に良い子に育ったと思う。


 祖父母の惜しみない愛情を受け、レイモンは真っすぐに育ってくれた。三歳までの記憶は曖昧らしいが、レイモンにとってそれが救いとなっただろう。


 あんな両親の記憶が残っていたら、レイモンの心が傷つく原因になる。



「ジュリエンヌ、改めてーー卒業おめでとう。夏は領地で楽しみに待っているわ」


「ええ、祖母様。祖父様、レイモンも夏に会いましょう」


「はい」



 祖父母はレイモンを伴って去って行く。

 私は三人の後姿が見えなくなるまで目で追う。



「ジュリエンヌ嬢、卒業おめでとう」


「あら、お姉様と呼ばないの?」



 アンダーソン侯爵令息に声をかけられ、私は笑みを浮かべる。



「それはーー」


「兄弟喧嘩?」



 アンダーソン侯爵夫妻もやってきた。



「養父様、養母様、ご機嫌麗しゅうございます」



 私は二人に淑女の礼を落とす。


 二人はパーティーに出席するので、夜会用の装いをしている。夫人は翡翠色のドレスに身を包み、装飾品は全て金で統一していた。ドレスのデザインも落ち着いたもので派手な印象はなく、全体的に貞淑で上品な装いだろう。



「ジュリエンヌ、サミーが何か失礼な事でも?」


「いいえ、彼がお姉様と呼んで下さらないので、寂しいと思っただけですわ」



 先ほどの会話を軽い口調で教える。



「ジュリエンヌ嬢と一月しか誕生日が違わないのに、姉上なんて呼べないよ」



 アンダーソン侯爵令息の中で葛藤があるらしい。


 確かに同級生で誕生日が一月しか違わない相手に向かって、姉と呼べる者は少ないだろう。



「では、第一王女殿下に呼んで頂きますわ」



 レベッカなら簡単に言うはずだ。


 彼女にとって言葉遊びの一つとして、「お姉様」と呼ぶに違いない。

 ちなみにレベッカと私は、同じ四月生まれで数日違いである。



「ふふふ、貴方たちは仲が良いのね」


「第一王女殿下とは六歳からの付き合いですわ。本当の姉妹みたいな感じ?」



 レベッカとは外見というより、髪の色が同じせいか一緒にいると姉妹だと勘違いされる事が多い。主な原因は着る物の好みが似ていたり、言動が似ている所だろう。


 何よりレベッカといると、互いに時間を忘れるほど楽しいのだ。



「そうだね、彼女も同じ事を言っていた」


「ダーレンには困ったものだな。こんなに素晴らしい娘がいたのに、家の為にもならない娘を優遇しているのか理解出来ん。先ほど老侯爵と話をしていたのだが、彼は嫡男が成人したらダーレンを当主から降ろすようだ。その後は、こき使っても良いとお許しを頂いた」



 にんまりと笑みを浮かべるアンダーソン侯爵は、ちょい悪オヤジ風でドキドキする。


 ーー私の気持ちはクレージュ公爵一筋なのに、アンダーソン侯爵に揺らぎそう!


 私は同年代より年上が好みなのだ。

 しかも私と年齢が離れている分だけ良い。


 大人の魅力に弱いとも言う。



「ジュリエンヌ嬢はダニーと何処で待ち合わせているの?」


「わたくしの控室まで迎えに来てくれるそうです」


「ダニーに会うのは久しぶりだ」


「ダニエル様が帰国してから連絡は届いていませんか?」


「いや、全く連絡はないよ」



 アリエルの話では、クレージュ公爵令息は帰国してから何度か外出をしているはずだ。

 その帰国も僅か数日前。


 クレージュ公爵令息がそわそわしながら外出していると聞いて、特に仲の良かったアンダーソン侯爵令息に会っていると思っていた。勿論、そこには兄貴分のレジス侯爵令息たちが含まれる。


 クレージュ公爵令息が連絡して行っていると思っていたのだが、アンダーソン侯爵令息が否定するなら違うらしい。私がアリエルから聞いた話では、「友人と会って来る」である。


 ーー彼の指す友人とは一体?


 クレージュ公爵令息の告げる友人が彼ら以外だとすれば、私には思い当たる人物がいない。



「ジュリエンヌ、そろそろドレスに着替えて来たら?」



 アンダーソン侯爵夫人に言われ、「はい、養母様」と礼をしてから待機室を出る。

 ドレスに着替えるには時間に余裕はあるが、サイズの微調整を考えたら準備を早めた方が良いだろう。



「ジュリー」



 待機室を出た所でレベッカに呼び止められた。


 通路の奥へ腕を引かれた後、レベッカが私の耳元で言葉を告げる。



「あの女の所へ行くわよ」


「そうだ!」



 すっかりハリソン伯爵令嬢の存在を忘れていた。


 ーー彼女は学園の警備室にいるはず。


 私は聴覚に魔力を込めてハリソン伯爵令嬢の気配を追う。ついでに探索で位置確認もしておく。

 ここが本当に物語の世界であるなら、彼女から情報を聞き出したい。


 私とレベッカは急いで警備室へ向かった。



「ダーレンかジュリエンヌを呼びなさい。話はそれからよ」



 女性の甲高い声が聞こえてうんざりする。



「わたくしに用があるのよね?」


「アグレッサ侯爵令嬢、申し訳ありません。この令嬢が貴方に失礼な態度を……」



 警備の人が申し訳なさそうに頭を下げる。



「わたくし達だけにして頂ける? 勿論、扉の向こうで待機して頂いても構いません。少し込み入った内容の話になるので、席を外して頂けたら助かるわ」


「勿論です。扉の外で待機させて頂きます」


「有難うございます。話が終わりましたら呼びますわ」



 警備の人を室内から出した。


 この場には、ハリソン伯爵令嬢とレベッカの三人しかいない。

 目の前にいるハリソン伯爵令嬢を改めて観察する。栗色をした髪を緩い形で結い上げ、黒真珠の髪留めで抑えている。ドレスは淡い水色なので、自分の瞳の色を選んだのだろう。


 フリルとレースをあしらった乙女チック系なデザインだが、彼女の可憐な顔立ちにとても似合っている。違和感すら感じないほど似合っているので、おそらく自分の最大限の魅力を熟知しているのだろう。

 十二歳の園遊会で一瞬しか見ていないので、彼女の顔をじっくり見つめる。


 ーー物語の主人公だから美少女なのね。


 性格はとても悪そうだが、彼女の外見だけで複数の男性は簡単に釣れるだろう。



「貴方がハリソン伯爵令嬢? ほぼ初対面だと思うのだけど、ダニエル様にわたくしと親しいと言っているみたいね?」


「あんたがジュリエンヌ? 見た目が想像と違うけど、本物のジュリエンヌよね? それでダーレンはどうしたのよ」



 ーー私を前にしても呼び捨てで呼ぶのか。



「貴方はハリソン伯爵令嬢よね? たかが伯爵家の令嬢が、格上のアグレッサ侯爵を呼び捨てにするなんて……貴方の頭は大丈夫? 格上の貴族を呼び捨てにした代償は大きいわよ。貴方は命が惜しくないのかしら?」


「はあ? 呼び捨てにして何が悪いの? 此処はわたくしが主人公の世界よ。たかがモブ風情が偉そうな事を……そこの女もモブよね」



 ハリソン伯爵令嬢がレベッカに向かって、「そこの女」呼ばわりである。


 彼女は無造作に腕を組む。

 当然、足も組んだ形で椅子に腰かけている。


 私とレベッカに対する太々しい態度は変えないようだ。



「本当に命が惜しくないのね。わたくしはこの国の王女よ? 不敬罪で極刑になってもおかしくない発言になるわね。それで? 主人公のミレーヌ・ハリソンは何がしたいのかしら?」


「主人公のわたくしに対して、モブでしかない王女が偉そうね」



 ハリソン伯爵令嬢は腕を組みながら態度を変えない。



「その主人公と主張するのは意味があるの? たかが伯爵令嬢でしかない立場でいながら、本当に偉そうよね。侯爵令嬢と王女に向かって訴えたい事があるなら、仕方なく聞いてあげても良いわ。ただーー口調には気を付けた方が良いわね。この部屋は監視の魔道具があるから、貴方の行動次第によっては極刑は免れない。その覚悟があるなら言いなさい」



 レベッカの言葉にハリソン伯爵令嬢が睨みつける。


 ようやく自分の立場を思い出したようだ。





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