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SOS 072 忠告

 サブマスターのグレースに

こってり絞られたシルビア以下三名は、

始末書の作成に追われていた。


 シルビアとソアラは報告義務違反。

ガジェットとトールは連帯義務違反に当たる。


 もっとも、今回は不測の事態が多くあった

こともあり、そこまで思い罰則は与えられなかった。

 要するに、対外的な印象を抑える為の措置だ。

何もしなければ、他のギルドに示しがつかないわけで

それを突かれる恐れが出てくるからだ。


「うーん……」


 こういう作業が人一倍苦手なソアラは

一人で苦しんでいる。


 他の三人はとっくに書き上げ、

お互いの寸評批判と校正、清書まで終えていた。


「…サブマスターもそこまで期待は

してませんよ。

ちゃっちゃと書いて下さい」


 シルビアが真っ当な指摘をする。


「でも、ちゃんと理由とか説明したほうが

いいんじゃないの?」


「でーすーかーら、

そんなもの誰も気にしてませんよ。

こういうのは体裁が大事なんです」


 シルビアは溜め息を吐く。


 同時に、部屋の扉が叩かれる。

そしてそのまま返事を聞く間もなく、

扉が外側から開かれた。

 ここはギルド関係者が使う

会議室の内の一室だ。入ってくるのは関係者以外ないだろう。


「おう、若人たちよ、

結構やられたみたいだな。元気か~?」

「お疲れ様です。はい、差し入れだよ~」


 入って来たのはオズマットとヒナギクだ。

オズマットは手ぶらだが、ヒナギクは

蜂蜜と檸檬の水割りと一緒に

焼き菓子を持って来てくれたらしい。


「あ、ほら、差し入れ! 早く食べないと!」


 一番作業が遅れているソアラが

一番先に食いついた。三人が呆れつつも、

グレースの圧力で疲れた精神を癒やすために

それも良いかと思った。


 ある意味、比較的真面目な三人がそう思うほどに

参っていたとも言える。



「…それじゃあ、ゼンくんはギルマスの

自宅に泊まるんですか。確かギルマスの自宅って

大興飯店っていう人気店ですよね」


「ああ、何回か行ったことはあるが、

かなり旨い店だな。予約がなかなか取れないから

そんなに通えないんだよ」


 オズマットが焼き菓子を頬張りながら

店の寸評をする。ソアラも負けじと焼き菓子を頬張って

目上のオズマットに気を使うでもなくどんどん胃袋に流し込んでいく。


「ちょっとは遠慮をしたらどうですか?

一番遅いソアラ先輩」

「ふぐ? あにそれどういうひみ」

「そのまんまの意味ですよ」


 シルビアは遠慮がちに焼き菓子を啄んでいる。

ヒナギクは何も言わなかったが、これは結構値段の張るおやつだった。

おそらく大通りにある人気高級菓子店の詰め合わせだろう。


「お? 始末書か? 懐かしいな、いいの書けたか?」


 オズマットがからかい半分に聞いてくる。


「いいのも何も、定型文通りの始末書ですよ」


 シルビアはオズマットに言う。


「はは、そうだな。まあそうするのが一番手っ取り早いな。

ある意味正解だ」


「……ある意味、ですか?」


「そうだ、確かにまあ、こういう始末書なんざただの形式だからな、

型通りの報告を含めた反省文みたいな感じで問題はねえよ。

ただ、単なる始末書だからって適当に済ませるのもまた、

正解とは言えねえっちゅう話だな」


「……そうでしょうか、始末書なんかが役に立つとは思えませんが?」


「いや、そうでもねえさ。大体、例の《災厄》とかいう《無形のアルマ》が

歴史上討伐されたのも、警備部隊の始末書か反省文がきっかけだっていう話だぜ?

無駄だと思える仕事も、無駄とは言えない場合もあるってことさ。

しかし、面白い仕事ってわけじゃないし、まあ精々頑張れ。俺は関係ないからな」


 飄々とした言い草で、オズマットは蜂蜜と檸檬の水割りを飲み干す。


 それを聞いて、シルビアは少し不満になる。

まるで、ソアラが正しいと言われたようで、腑に落ちなかったからだ。


「それはさておき、お嬢ちゃんたちよ。

これはおっさんである俺の忠告だが……

あの少年と狗の御仁に関わるのはもう止めとけ。

多分、碌なことにはならんぞ」


 先ほどと同じ調子だが、声の芯がしっかりしている。

冗談を装っているが、本音で言っている言葉だった。


「どういう意味ですか?」


 シルビアが問う。


「言葉通りの意味さ。あのヘンテコな空飛ぶ馬? もそうだが

《洞穴》《洞蜘蛛》《召喚》《災厄》

……多分、一連の流れに噛んでいるのはあの二人だ。

目的は分からないし、敵とまでは言えないが、

危ない橋を渡る危ない連中であることは間違いない」


「……」


 シルビアとソアラは押し黙る。


「ま、お前らが決めれば良いがな。

正しく清潔なだけが人生じゃあるまいしな。

んじゃ、そういうことで」


 それだけ言うと、オズマットは「よっこらせ」とおっさん臭い掛け声で

椅子から立ち上がる。ヒナギクは何も言わず立ちあがり、

オズマットと一緒に部屋を出る。


 残された部屋には、焼き菓子と蜂蜜と檸檬のほのかな香りが

いつまでも漂っていた。



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