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SOS 227 ソフィア3

 この男は、同郷の者だろう。

それも、同じ組織の出身だ。


「まあ、せめて苦しまずにあの世に送ってやるよ」


 使い古した台詞を言いながら、

男は瓶の蓋を僅かに開けた。


 ソフィアはその男の仕草に

慌てる様子もなく、まるで男を無視するように

すたすたとあさっての方角に向かって歩き出す。


 背中を見せるとかそういうことではなく、

完全に無視していた。


「え? おい?」


 流石に何らかの抵抗や

対抗措置を予想していた地人族の男は

ソフィアの行動に面食らう。


「鼻腔内から浸潤する麻酔系神経薬。

薬草分類はヒラノギ類で匂いがほとんど無く、

治癒院でよく使用されるルベリア類の薬草で

睡眠導入する際と同じ注意が必要。

即ち、空間への拡散力が高いため

風通しの良い部屋では効果が薄まることが

使用上の問題として上げられます」


 誰に対する何の台詞かは不明だが、

ソフィアは淡々と説明をする。


「よって、施術以外の目的、

この場合戦闘において使用するには

通常不向きな薬剤です」


 ソフィアはちらりとラジを見る。


「しかし、何事にも例外があるように

ヒラノギ類の薬剤については

別の物質を媒介させることで、

その比重に変化が起こります」


 ソフィアは風向きに細心の注意を払いながら、

淡々と説明を続ける。


「比重の変化した薬剤は空間的に

下部へと押し下げられ、

また拡散する力も弱くなります。

匂いも微弱なので感覚器官が並みの相手なら

労せずして昏睡させられるでしょう」


 相手の男はやや困惑する。獣人族ならまだしも

地人族が判別出来るほどの匂いではないはずだ。


 未知の薬効の脅威を知る薬師なら

まずは距離を取って路地にでも逃げ込むだろう。

 その目算が完全に外れた格好だ。


「故に、風向きに注意すれば脅威ではありません。

ラジ、少しそこから右に動きなさい。

そこは少し危険ですよ」


 ラジは戸惑いながらも、

言うとおりに動く。


「薬師が戦う場合、その戦闘のほとんどが

暗殺の類です。

当然ですが、直接戦闘が行われることは稀です。

しかし、この様に直接戦闘を仕掛ける

酔狂な者も居るわけです。

何故だか分かりますか? ラジ」


 ソフィアにとって、これはまるで

講義の延長にあったようだ。


「それはこういう手合いが

『自分は薬師としても戦士としても優秀だ』と、

大きな思い違いをしているからです」


「……言ってくれるね」


 男は瓶を手に、言葉を呟く。

 何をしているか、傍目には分からないが、

その表情は凶悪に歪む。


「自信過剰で溺れ死ぬのは

あんたの方だよ」


 ソフィアが何の気なしに、近くにある

枝を折る。パキッと乾いた音がして、

拍子に小さい虫が飛び立った。


 ソフィアがひゅいと振り切った枝が、何かを弾く。

ほとんど何も聞こえないような、

そんな破砕音がした。


「ふん」


 ソフィアが何も無いような空間を

次々と枝で切り刻む。

 ラジはそれを不思議な目で見ていたが、

相手の男の動揺は大きく、

「何故分かる……?」と驚愕の

表情をしていることに、

一層不可思議な感覚に陥った。


「何故でしょうか。分かるんですよねー、

あなたの攻撃が。

小さな水滴を凍らせて、礫のように

飛ばす技ですか。

しかも薄皮一枚分ほどの表層だけを

凍らせるあたり、いい腕してますね。

それであれば薬効はそのままに

武器として使用出来ますものねー」


 ベラベラと得意気に説明するソフィアに

腹を立てた男は、その氷弾丸を増やした。

 霧のように濃厚なもやが

男の周りを覆う。


「これでどうだ?

そんな棒きれで防げると――」


「ばーか」


 パキッと乾いた音がした。

今度は男の足元だった。

 次の瞬間バァン、と盛大な破裂音とともに、

男の足に炎が引火する。

 同時に、その熱で氷の弾丸が弾け飛ぶ。


「そういうとこが、思い違いだって

言ってんのよ」


 男は自分の生成したもやの成分効果で

一瞬で昏睡状態に陥った。

 後悔する間もない出来事である。


 ラジはその顛末を

ただ呆然と見ていた。

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