SOS 224 ベル3
獅子族の男はおそらく戦士崩れだろう。
その無駄の無い動きは、相手を殺すことだけを
仕込まれた結果のなせる技だ。
ベルは考えるよりも先に身体が反応する。
平地単騎戦最強の獅子族に素手で挑むのは
通常であれば無謀もいいところだ。
いくら白虎族とはいえ、条件と相性が悪い。
以前のベルなら、まずは距離を取り、
遮蔽物を利用して隙を探り戦ったはずだ。
しかし、今はどう言うわけか、
その獅子族の攻撃を見ながら
(あれ? こんな遅いの?)と場違いな
感想を持っていた。
なので、ベルはほぼ無意識で
心臓に真っ直ぐ延びてくる相手の右腕を掴む。
「……ぐっ?!」
獅子族の男の顔が歪んだ。
自身の攻撃速度が速すぎて、
急制動をかけられた衝撃を
逃がしきることが出来なかったのだ。
その肩と上腕が軋み、
悲鳴を上げる。
しかし、獅子族は流石の胆力で
その痛みをねじ伏せた。
「ガァ!」
技術など無視して、獅子族の男は
その凶悪な顎を開き、獅子の牙を
剥き出しに襲う。
単純で最強の攻撃、噛み付きだ。
「よっ」
「!」
しかし僅かな捻りの動作で獅子族の男が
地面に倒れ込む。身体の構造を利用した柔体術だ。
ベル自身、どうしてそんなことが
あっさり出来たのか分からないが
とにかく出来てしまった。
「ぐっ……!」
「ま、諦めて――」
バンッ
ベルが言い終わらない内に、獅子の男は
奥の手を出す。そこで左手に握りこんでいた
毒指弾が弾き出された。
狙いはベルの後ろに居るプギットだろう。
「(……脚狙いか。
目的を考えれば神経毒だろうな。
即死はねえけど、喰らえば危ないか。
つーか、裏切り者呼ばわりされるほど、
何かしてもらった記憶は
無いんだけどな)」
獅子の男の左手から弾かれた毒指弾を
意識しながら、ベルは神の如き速さで
右足をその進路に出す。
通り道を塞ぐようにして、
プギットを守るよう動く。
あの一瞬でそこまで判断処理出来たことも
かなり有り得ない反応速度だったが、
ベルはそれを上回る芸当をその場でやってのけた。
その紡錘形の毒指弾がベルの靴先に触れた瞬間、
つま先でくるりと進路方向をかえ、
強制的に獅子の男へとその指弾を捻り返す。
「なっ!」
声を上げるより早く、獅子の男は
喉を打ち抜かれる。
「繭型の飛びクナイ。
暗部出身? それとも自己流?
ま、どっちでもいいか。
さーどーするー?」
さすがの身体強度を誇る獅子族は
この程度では死なない。
しかし、力量差を
ここまで見せ付けられては、
どうすることも出来ない。
「(……あたしが強くなった……というより、
この指輪の力かな……?
やっぱうちのご主人、タダモンじゃねーなー。
帰ったら、ちゃんと媚び売っとこ)」
あまりの出来事に呆然としている
プギットと路児の子供達。
ベルもこの場をどのように納めるか、
正直正解がわからなくなった。
「(……しゃーない。
嫌だけど、鬼雪に相談するか。
ご主人はまあ、怒らないだろうけど)」




