SOS 157 信頼
サイエンはこういう戦いが得意ではない。
術式の構築練度については
世界一を自負するほど
得意ではあったが、
そも実戦となると勝手が違う。
この世界では、頭でっかちの術士は
あまり優遇されないのだ。
高名な術士はえてして実戦も強かった。
サイエンはそういう意味では
優秀とは扱われなかった。
けれど、若様と崇める方に出会い、
サイエンの生き様は一変した。
場末の工房で虐げられていた生活は変わり、
今や若様の右腕として世界を
飛び回っている。
『《堅波》』
キチョウが対術対物理防壁を身に纏う。
あれは相対的に術式の攻性を分析して
対消滅させる波動を発現させる術式だ。
全方位方だが
発動中は動けなくなる欠点を持つ。
キチョウの声がサイエンに届くより早く、
サイエンの二丁拳銃はその術式の欠点を突く。
サイエンから放たれた
無数分散する弾丸がキチョウを襲う。
防壁はその木っ端に反応した。
『しまっ…』
『《滅空》』
足留めされたキチョウにサイエンは
三丁目の拳銃を抜く。
細く金属質な腕が、背中から飛び出た。
放たれた弾丸には空間消滅の術式が
組み込まれている。
キチョウの核となる部分が
ごっそりと削られた。
『(これで回線は飛んだはず。
あとは自動操縦に切り替えられる)』
サイエンはその後の展開を予見して
次の術式弾丸を用意する。
四丁目の拳銃が表れる。
『(これで詰み!)』
サイエンは自分の勝利を確信する。
もっともそれは対キチョウという意味では
正解そのものだったが、国防軍対反乱軍という
位置付けで見れば、その限りでは無かった。
『《断界》』
サイエンの術式弾丸は確かに放たれた。
しかし、その弾道は明後日の方向へと飛んでいき、
空高く舞い上がっていった。
『?!』
サイエンは状況を見失った。
しかし、すぐに気がつく。
『あのチビ女!』
ヒナギクの短刀が上空にある
サイエンの頭部に突き刺さっている。
サイエンの術式の問題は
対象を個人に限定してしまうこと。
そしてその限定効果は自分にも
降りかかってしまうことだった。
擬似的な未来予知を可能にするために
サイエンの術式は他の必要情報を
遮断することになるのだ。
「こちとら遊びじゃ無いんですよ!」
『クソチビ!』
サイエンが驚いたのはヒナギクの
直感的センスもそうだが、
キチョウがヒナギクの行動を呼んで、
自分だけにサイエンの意識を
集中させたことだ。
『なんでいきなり通じ合ってるのよ!?』
サイエンは独り言で憤りを発露した。
戦いに身を置く者の、
信頼関係というものだろう。




