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第五話 惹かれる光

 食事をとバム様がお薦めする、それに頷くと、パンを一つ手に取り飲み物の器を側近くに置く、スープを飲み


 時なに、酸っぱい果物に手を伸ばし一つ取る。砂ナツメの実を一つ、二つと齧る、そして


「よい」


 よい……側仕え泣かせのこの言葉。バム様はじめ、ここに居合わせる大人達は、落胆の空気を一斉に放つ。スープも、焼いた肉も、煮込み料理も、野菜も、蜜につけた果物、焼き菓子、銀の皿に美しく盛られたそれら……… 一瞥で役割を終える。   


「失礼ですが………お身体の為にも、もう少し食べて頂きたいのですが………」


 主が小さい頃から皇太后の命により、離宮に住まいを半場移して居られるでバム様は、義務的に食べるクシャル様に皿の物をすすめる。それに対して無言を返す。 主従二人の冷たい攻防戦。


 この頃の私といえば、まだまだ未熟者、名を聞かれ存在は認められたが、それだけ。バム様に言われるがままに動いている。


 深く溜め息をつくバム様を見ながら、そう、まるであのウードと同じ………いや、あんなに美しくないから、その辺の石ころみたいに、自分自身の事を感じてしまう


「何とかせねば……、お身体を壊してしまう、どうすればいいのやら………何故に食べぬと思う?ザザ、そなたは歳が近い故、わからぬか?」


 大人達が主が下がった食堂で、頭を突き合わせて相談をしている。そして唐突に聞かれた私。


 はい?わかりませんとその時、思わず答えそうになった。わからぬかと、聞かれた時は、無言で頷けと教えられていたので、こくんと、そうする。


「わからぬか………側近くに仕え、間がない故仕方ないが、認められておる、頼まれてくれないか?」


 バム様が何時もと違う口調で聞いてこられた。私は否など唱える事は出来ない存在、なので返事に困り、黙ったままでいると………その所作は、同意とされてしまった。


 おお!頼むと周囲の人々、その大人達は………まだこの無いも近しい認められたばかりの人間に、子供に、バム様を初め大人達は、とんでもない荷物を、背負わしてきた。


「どうにかして、お食事をもちっと、召し上がる様に仕向けてくれ」 


 何という仕打ちと、後になるにつれ、その時の事を、バム様を初め周囲の人々を、深く恨んだ。初めて懐いた感情だった。


 何故に、どうしてと、存在を認められて間もない者に、課せてきたそれは、あまりにも大きな責務。


 そして始まる、私が無い知恵を振り絞り、策を立てる日々が、朝から晩まで、考える時が始まった。


「何だ?その目は………ザザ、そして何をバムに頼まれた?答えろ、許す」


 取り敢えず側近くに控えて、食事の度に念を送っていた私、それ位しか出来ることが無かったのだ。しかし聡いクシャル様は、よほどうっとおしく感じたのか、私に声をかけてこられた。


「はい、クシャル様がもう少し、お食事を召し上がる様、お手を貸すように言われております」


「はぁ?何を頼まれてるの、お前は馬鹿か?食べるも食べないも自由だと思うが……うるさい、とバムに伝えておけ」


 初戦は惨敗だった………。それを、伝える私、何とかしろ、と言われたのは当然の事。しかしふと、やり取りを取りをお伝えしているうちに気がついた、


 出ていけ、戻って来るな……では無かった。ならばまだ挑戦出来るのではないか?と思い付き、無い知恵を張り巡らせた。


 ………よくある手、こちらも食べずに頑張る、それに対して憐れを感じて………、は無い、きっとない、そんな事をしたら私が倒れてしまう。


 バム様の身の回りのお世話や、そしてまだまだ未熟な行儀作法、勉学を学ぶ事を背負っている身としては、そんな事は出来ない。


 それに泣きが、通じる相手ではない。ならばどうするか、策を練ろうにも知っている事柄が、あまりにも少ない。なのでここは調べる事から始めることにした。


 しかしどうやって…………主人であるバム様にお聴きすれば早いのだが、こちらもまだ私がお仕えしはじめて、日も浅いこともあり、立ち入った質問は出来ない。


 なので他の方法を考えてはみたが………知り合いもなく、右も左も分からぬ私に、深い話を教えてくれる人達はいない。早々に八方塞がりに陥ったのは言うまでもない。



「毎日、毎時、見る事しか出来ないのか?お前はつっ立っているのが仕事か?答えろ」


 く………気にしている事を射抜いて来る、結局のところ、何も手段を得ることが出来なかった私は、煙たがれつつも、見つめる事しか、策が無かった。


 祈り………そう、お祈りをすれば、何か通じるものが、あるのではないか?とそれを思い出し、ふと思いついた事、それを取り敢えずは試していた。クシャル様に答える。


「はい、念を送ってございます」


「念とは、我に呪をかけるつもりか?それは法で禁じられている、我も正義はある、理由を述べてみろ、ちなみに刑罰は、首をはねられ塩漬けにされるか、砂漠で逃げれぬ様に、黒鉄で四肢を拘束された上で放置する、どちらが良い?望みを叶えてやろう」


 恐ろしい事を淡々と真顔で話される。その整った表情からは何も見えない。本気なのか、戯れておられるのか………、いや、戯れは……、無い!  


「は………い、し、知りませんでした、念ではなく、お祈りです!」


 も、申し訳御座いません。言葉を間違えました………と即座に頭をさげ、謝る。重い沈黙が背中にのしかかる。


「そうか、お前はこちらの法を知らないのたったな、バムに習え、そうだな三日やろう、確かめるぞ、われがな、覚えたら不問に処す、でなけらば、どちらか選んでおけ」


 く………… 三日、大丈夫か?時々に覚えておいたほうが良いと、バム様から与えられた分厚い書籍を思い出し、泣きたくなる、それを押し殺し平然を装いつつ、こう言うしかない。


「はい、寛大なお心使いに感謝いたします」



 はぁ………どうしてこうなる。私がいたらないのか………それとも何かこう、大元から違うのか、とにかく、わけのわからないものを、なんとかしようと日々足掻いていた。


 毎日、毎回、繰り返される冷たい食事時。それに沿うように、私も徐々に食欲が無くなる。時を見て、台所からバム様の部屋へと、運ばれているそれを食べるのだが、当然ながら一人。


 パンに煮込み料理、スープに果物、肉。時には甘い物も、美しく盆の上に、並べらているのだが、見るとどういう訳か、泣きたくなる。かつて父さんと母さんとで食べた事を思い出す。そしてふと、


 もしかしたらクシャル様も………と思うが、よくよく考えると、恐らく常にお一人で食べられてるから、関係無い………と思いつき、それはため息に変わる。


 どうしようと、私は無い知恵を絞っている。最早逃げようとか、そんな事を、思う暇もない日々を過ごしている。そして何処にも動かない様子に、はまり込んでいた、ある日………、念がクシャル様ではなく、天に届いた事が起こった。


 神様………おられたと、私はその時素直に、嬉しに思ったのと、真反対、どうしてくれるとなった。三日目の問答に、かろうじて答えられ、塩漬けから逃れられたその日の事だった。


「何か話せ」 


 その日も、バム様の懇願が繰り広げられる食堂で、無言を貫いておられたクシャル様が、私に歌でも何でもしろ、とお言葉がかかった。バムの話も飽きたと、言っておられている。


 私は、歌でも何でもとを受けて、バム様の屋敷で習った歌を一節歌った。それは空を飛ぶ小鳥の歌。



 空は青く 見える世界は その色一つ

 目の前広がる青の色 小鳥は飛んでく 何処までも

 何も思わず飛ぶ小鳥 青の空色水の色………


「悪くない」


 ご自身も音楽をこなされるせいなのか、私の歌に何かを思ったご様子のお言葉を頂いた。それに対して返礼を述べる私、それが終わると、そしてバム様に何かをひそりと囁かれておられる。


「褒美をやろう」


 バム様が一度下り、そして布に半身を隠した、ウードを手にされ戻られた。それはクシャル様のお品には到底及ばないが、それでも美しく装飾が成されている逸品。


「さあ、礼を述べなさい、教えているだろう」


 手渡しつつそう話されるバム様、意味が分からず、惚けた様に、目の前に差し出されたそれを、恐る恐る受け取る。


 そして主であるバム様に恥をかかせないように、言葉を選びながら、そして戸惑いながら、型に従い返礼の口上を述べる。


「来い」


 それか終わるのを待ち、クシャル様は、席をお立ちになられた。バム様がため息をおつきになられている。私はそれを背中に感じながら、言われたままに、それをしっかりと抱えると、その場を後にした。



「覚えろ」


 クシャル様の居室で、私はとんでもない事になってしまったのを知った。覚えろって、ウードを?私は手にしたばかりのそれを眺めた。聞いたことはある、路上で演奏をしている姿も、その音色は私の中に残ってはいるが、それはなんの役にも立たない事。


 逆らえ無いのは、分かっていたから、クシャル様がそれを手にされ、抱えられたお姿を真似をする。手の位置を、クレプトナムの握りを、指の位置、一の弦、二の弦と順に打つ音色を、あやふやとしながら私は、それを追いかける。必死に目をやり、耳をすませて覚える。


 クシャル様が、サラリと音を立てる。それに応じて私がたどたどしく鳴らす。あ、違うと位置を変え打つ、聞こえた音に近づく。はりつめた何かが、私を絡めとっている。


 幾度か同じ音を繰り返し、クシャル様が満足すると次の音を、そしてその次と、順に進む。私は懸命にそれを追いかけた。一つ一つ、ぽつぽつとしたような音が、繋がるように、クシャル様に少しでも、近づく様にと打ち鳴らして行く。


 ある程度、それをそれらしく聴こえる様になった時、では、聞け、と、私が歌った曲を始めらる。私は慌ててそれを覚えていく、聞き逃すまいと、そして手の位置を、指の動きも、何を命ぜられるのかが、分かっていたから。


 願わくば三日で無いことを祈りながら、音に浸った。


 トロリと暑く蕩けそうな白い光が、外には溢れている、流れる旋律、時折、ザッと草葉を揺らす風の音が格子の窓から入ってくる。それに混ざるウード音。


 やがて最後になる。私は緊張で、怖さで、どうしようもないものが、身体中に広がっていた。与えられた楽器をそろりと抱きしめる。唇を噛む、目を閉じて忘れないように、最初からを口ずさんで確認をする。


「拙きものは好かない、五日やろう」


 五日、果たして大丈夫なのか………いや、無理、出来ない、頑張れば、旋律は覚えている。できるか、でも無理か、と答えを迷い窮して、何も出来ずにいると


「何だ、無言か、それは分からぬのだな、では、分かるまで問い詰めてやろう、考えれば答えは出る。その目は出来ぬだな、出来ないという言葉は、我は知らない」


 人の機敏を察するに、たけておられたので、問いかけにつまる私に、いかに表情を抑えていても、即座に読み取られていた。深い緑で射抜くように私を、とらえてくる。それは怖くて、そして惹かれる色。


 私は、返事をする。ゴクリと飲み込み息を整えて、ウードを抱え、礼を取る。



「わかりました。寛大なご配慮ありがとうございます」



 私の不眠不休の五日間が始まった。再び、考え考えぬく、上手く曲を演奏出来る様に、それにはどうすればいいのかを。



 そして、この事がどう影響したかわからないが、日々のお食事を、ぽつぽつではあるけれど、召し上がる様になられたクシャル様。


 音楽が、何かを動かしたのだろうか、誰にもわからなかったが、それまでより幾らか食べる量が増えられた。その様子を見て………


 私はバム様から命ぜられた事を、成し得た事に気が付き、取り敢えずホッとした。何時も険しい顔をしていたバム様が少し緩んだ表情をされていた。初めて………良かったと、思った。


 そして私に次に課せられた事。許された時は、僅かに五日、それまで楽器など扱ったない者が、巷でよく流れている曲とはいえ、王族に披露するまでに形にしなくてはならない。


 バム様から楽譜を与えられたが、私はそれまで聞き覚えで来たので、拾われてからそれも覚えていたのだが、見ながらだと、どうにも上手くいかないし、拾い読み音に替えるのは時間が、かかって仕方がない。


 なので寝る前に、それを読み込む事にして、後は時間が、あればひたすら曲を、音階の旋律を打ち鳴らし、弦の音を紡いで行く。


 間に合うか、間に合わねばどうなるのか、考える間もない。懸命に、忘れないように、一つひとつを思い出して重ねていく。


 ヒリヒリと痛い。指の腹が、掌が、腕が、手首が、それを堪らえつつ休まず、ひたすら音を追う。それまで弦等扱った事の無い、柔らかい指の腹は、切れて血がにじむ。それでも休む事は出来なかった。


 涙を堪えて、熱いそれが溢れて流れるのを堪えて、私は懸命に練習を重ねた。そして迎えた時。


「バムよりましだな、耳によるか」


 披露が終え、どきどきとしていた私に、そう話すと、追いかけて来い、とご自身のウードを、演奏されるクシャル様。私は安堵をする間もなくそれを、追う。重なる音が膨らむ。絡まり混ざって踊り舞う、広がる世界。



 それは私が初めて知った音の世界。それはクシャル様が産み出されたもの。



 その音色、その旋律、その色………私は、音はとても心地良くて、終わらなければいいのにと、思いながら、生まれる気持ちがある。この、覚える様に課せれたこれを、合わせている今、


 もし、音を違えたら、旋律を乱したら、その事で、突然に終わったら、そうすればどんな事になるのか、わからない怖さと不安、知らなかった心地の良い音の世界、それらがグチャグチャに入り混ざる。


 泣きたい様な、違うような気持ちで、クシャル様の音色を、懸命に追いかける。力強く、鮮やかに光るその音に、とらわれる、再び心を掴まれる。




 あの日の翌日、昔と重なったのか眠れずに、青い顔でバム様と共に御前で挨拶をした時、どうすると聞かれた。


「ここで、バムと共に、われに仕えるのが怖いのなら、兄上のところにでも行け、しかしどこも所詮は同じ、何事も王や神の名の元で行われる、どちらか選べ」


 私は、意味がよくわからなかった。表を上げろと言われて、顔を上げた。その深い緑を目にする。捉えられた視線、強い力が私に流れて来る。それは光になる。


「その目は、わからぬだな、ならば教えてやろう、何処の国でも、異国の神でも、生死を与えるのは、神や王の名前の元だ。戦いや、罪人の刑罰にな、あの者も生きて捕えても、結局は処刑される、所詮、王も神も人殺しだ、われは王では無いが属するもの、それに従うか、神とやらに従うか」


 どちらも同じ変わらぬ場所、この国も、生まれた国も、その名の元で流される血と散る命の存在。


 私が初めて知った世界。


 どちらかを選べ、と言われた。


 なので私は選んだ。


 天におられるというお方よりも、


 目の前におられるお方に、強く惹かれて


 そのお方に、主であるバム様と共に


 従う事を心に決め、返事を返した。





































































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