表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽悪者の憂鬱  作者: 一葉
92/93

偵察

 都市国家群の使者より、宣戦布告を受けたオルドヌング共和国は国境線に兵を集めつつ、都市国家群に斥候を放った。

 都市国家群はその中枢が亜人で構成されている上に、部族ごとの結束も強く、平時における情報収集が十分ではない。

 何よりも戦力が不明である。

 幸いと言うべきか。都市国家群は起伏はあれど平原が広がる大地だ。大軍が動けば、すぐさま察知出来る。

 オルドヌング共和国軍陸軍、クラリッサ少尉が率いる分隊は今まさに、大軍を発見したところだった。

 整然と並んで進む、およそ一万体の人ではない人型の何か。日の光を浴びてきらめく身体は人の皮膚とはまるで違う様相を呈していた。卵の殻みたいな肌質。頭部には目も耳もなく縦に一本入ったスリットが不気味に赤く明滅していた。

 それらは一糸乱れぬ動きでオルドヌング共和国に向けて進軍していた。

 クラリッサ少尉は、この規模の軍をすでに五個確認している。つまり、少なくとも五万の兵力があるわけだ。

 魔力があるこの世界において、兵数の多寡は必ずしも勝敗に関わるとはいえない。

 A階級冒険者ならば、一軍を容易に壊滅させる。個人の力が数を圧倒するのは珍しくなかった。

 もっとも、オルドヌング共和国にそんな強者はいないので、数の差が戦力差だと考えて問題ない。あれらがずば抜けて強くなければだが。

 オルドヌング共和国軍の全兵力は四万。防衛に徹していれば勝てる戦ではあるものの、クラリッサ少尉は絶望感に打ちのめされていた。

 あれらの正体について思い当たるふしがあるのだ。

 今は滅びたドワーフの王国が作成した戦闘人形。遺跡から出土した、たった一体の戦闘人形を起動したら国が滅びかけたという逸話もある超兵器だ。

 戦闘人形は人間の姿に近い程、戦闘力も上がるという予想もあるので、希望的に考えれば一体で国を滅ぼせる強さはないだろう。

 もっとも、戦闘力が不明という点は変わらない。

 これ以上得られる物はなさそうさだと、双眼鏡を下ろしかけたクラリッサの目に見たくない光景が飛び込んできた。人形達が一斉にこちらへと向き直ったのだ。

 分隊に指示を出して即座に撤退。偵察において逃げるというのは重要だ。生きて帰らなければ任務は果たせない。分隊の隊員達は特に逃げ足の速い者で構成されていて、短時間なら馬より迅速に退却出来る。距離も十分にあけていたから、余裕を持って逃げられる筈、だった。

 後方を確認したクラリッサは舌打ちする。気味の悪い人形の軍団は確実に距離を縮めていた。

 逃げきれそうにない。クラリッサは判断に迷った。追って来ているのは一万の軍団である。散開したところで個別に追われるだけだろうし、だからと言って足止めなども不可能だ。

 何もしなければ、得られる物など何もない。決断をくださなければ、状況は刻一刻と悪化するばかり。

 迷うクラリッサ少尉が丘をのぼりきると、更に迷わせる要素が彼女の前方に出現した。

 ぼろぼろの外套をまとった小さな人影。フードを目深にかぶっていたので人相は不明ながら、識別出来ないなら敵と判断すべきなのだが。

「た、たいへんだー」

 フードの人物のわざとらしく芝居ががったセリフに、クラリッサは混乱した。

「誰かが襲われてる、たすけなくちゃー」

 演技にしても下手くそ過ぎる。罠だったら、もっと上手いやり方があるだろう。

 クラリッサは混乱しつつ、距離をあけてフードの人物の横をすり抜ける。

「闇よ、落ちよ、広がれ、絡みとどめよ!」

 言葉に答えて、フードの人物の足元から軍団に向けて影が伸びた。軍団の先頭に到達した影は蠢いて人形達の足に絡みつく。完全に動きを止めることは出来ないようだが、人形達の動きは格段に落ちた。

 唖然とするクラリッサであったが足は止めない。

 フードの人物は慌てた様子でクラリッサを追いかけた。小柄な身体のわりに足が速く、時間をかけつつもクラリッサに追い付く。

 クラリッサには、フードの人物の身体が微妙に浮いているように見えたのだが、精霊魔法だろうか。

 先の魔法もそうだが、明らかに精霊魔法を使っている。クラリッサは警戒を強めた。

「わ、私は通りすがりのエルフです。悪いエルフではないです」

 声から察するに少女であろうフードの人物は、たどたどしい口調で胡散臭い事をいう。

 あまりにも胡散臭過ぎて逆に微笑ましさすらある。

「軍人さんですよね? 私、凄い情報を持ってます。協力します」

 もうちょっと上手く演技しろよとクラリッサは内心毒づく。いや、案外稚拙な演技自体がこちらを騙す演技なのか。

「ついて来て」

 クラリッサは、今すぐどうこうなるような危険はないと判断した。諜報関連は専門部署に任せればよいのだ。

 必死に足を動かす少女はフードの奥で口元を歪める。その歪みの正体がなんであるか、当の本人も知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ