不安な探索
曇天からにじみ出した雫が地上に落ちて、少年の肩を濡らした。
少年は空を見上げて舌打ちする。雨足が徐々に強くなっていったから。
少年、カール・ゼーランは冒険者を引き連れて学園の訓練所へと踏みいった。
昼前だというのに、地上にたどり着く光は雲に遮られてごく僅か。
だからといって闇にまぎれられるほど暗くはない。当然、カールは警備員に呼び止められた。
訓練所はマンドラゴラの襲撃以降、立ち入り禁止で特に地面に空いた穴は厳重に警備されている。
「何用ですか? 許可がなければお引き取りを」
穴を目指して歩くカールを警備員が呼び止めた。
「許可ならあります」
カールは許可証を警備員に渡す。許可証は事務官長が発行したものだ。
「確かに」
警備員は怪訝な表情をしながらも道を開ける。
許可証は本物であるが、手に入れた方法は全うではない。
呪いの洞窟に続いているであろう訓練所に空いた穴からの侵入は崩落の危険もあると判断され放棄された。そこに目をつけたのがカールの父親、ゼーラン子爵だ。
ゼーラン子爵は学長選挙において事務官長を支持、支援する見返りに穴の調査許可証を書かせた。
あくまでも調査であり、聖鎧の探索許可ではないので、事務官長の裁量内である。
ゼーラン子爵本人が動くと政治的に問題があるため、息子であるカールが指揮をとることとなったわけだが。
「おお、結構深いな」
「お前飛び込んでみるか?」
「案外平気なんじゃね?」
穴を覗き込んで騒いでいる佐久間達の様子にカールは不安を覚えた。
人手不足の中、佐久間の情報を掴んだカールは、勇者であればいくらかましな戦力であろうと予想して雇い入れたのだが、なんとも頼りない感じがした。
彼らはギルドから別の依頼を受注していたので、そちらを解約するのにそこそこ手間をかけただけに、結果は出してほしい。
特にカールには後がない。模擬戦大会で、事故とはいえ無様を晒したあげく、平民に救われたのだ。平民を守るからこそ貴族は権力を持っているのに、平民に助けられては貴族の価値がない。
時代は変わりつつあるものの、ゼーラン家は貴族主義。カールは今回の探索で結果を出さなければ家督争いから弾かれるだろう。
カールは自嘲気味に息を吐く。レイに因縁をふっかけたあげく、情けなくも助けられてしまった自分に家督を継ぐだけの能力があるのか、甚だ疑問だ。
とはいえ、これは仕事だ。今は悩む時ではない。
カールはレイに対する複雑な気持ちと共に悩みをしまいこんで、佐久間達と打ち合わせをすませる。
洞窟に充満する呪いの霧対策に教会から貸与された小さなランタンのような物を全員に持たせた。これは手のひらに乗る程小型で、腰に吊り下げることもできる。
教会はこれを対呪結界と呼んでいた。中に魔石をいれると稼働して、一定範囲の呪いをはね除ける力場を発生させる。この力場は呪いを完全に防ぐことは出来ないので、力場内に入ってきた呪いは本体にいれた魔石が吸着する。
仕組み上、あまりにも濃い呪いには対応出来ないのだが、一時的に出力をあげれば、ある程度は耐えられる。その場合、稼働時間は大幅にへるが、呪いを吸わせた魔石を交換すれば再稼働も可能だ。
一度説明はしていたが、カールは改めて佐久間達に使い方を説明した。しかし、同じ説明を何度も聞くつもりは佐久間達にはなく、ほぼ聞き流す。
冒険者は命懸けの職業だ。道具類の使い方はしつこいくらいに確認するものなのだが、佐久間達は命がかかっているという意識が薄い。
中途半端に強いせいで、今まで死というものを認識したことがないのだ。
穴にロープを落として降りていく最中も、佐久間達は緊張感もなく騒いでいる。
さして深くはない穴の下は一方向に横穴が空いていた。人が二人歩ける程度の大きさで、奥は暗闇に覆われて見えない。
カールはランタンに明かりを灯した。見た限りではいきなり崩れたりはしなさそうだ。
「僕が先頭でいく。荷物はお願いしますよ」
ここから呪いの洞窟までは距離がある。この穴が洞窟に繋がっているのであれば、探索は一日では終わらない。
だからテントや寝袋など、夜営に必要な荷物を持ち込んでいた。
「おい、佐久間、お前も持てよ」
「いざって時のために手を開けておきたいんだよ」
佐久間は頼まれもしないのに、カールの背後についた。一瞬、険悪な雰囲気が流れるも、しぶしぶといった感じで佐久間以外が荷物を抱える。
先行きの不安を覚えたカールであったが、今さらどうしようもない。
カールは色々と割りきって横穴の奥へと歩みを進めていく。
フルグラをサイダーで食べると美味しいよ




