貴方には知られたくないこと2
テントの中で毛布にくるまり横になる。外で彼が灯りをつけているのでテントの中は真っ暗ではなかった。
いきなり一人になり、静かな空間にいると余計なことを考えてしまう。
彼にそういった素振りはなかったが、奴隷になったのだから夜の相手もしなくてはいけないのではないか?
絶対にできないとは言わない。彼はわりと好みだ。お互いのことを知っていけばいずれそういう関係になるかもしれない。
けれど、今すぐと言われると恐怖心の方が勝つ。
今にも彼がテントに入ってきて無理やりやられてしまうかもと不安になる。あり得ない。襲おうと思えばいつでもやれた。
そういうことをするならとっくにやっていただろう。でも、意識してしまえば、余計な思考が頭にこびりついて離れない。
手が震えた。どくんどくんと心臓がうるさく鳴る。息がつまる。怖い。これではまるで、まだあの牢獄に囚われたままみたいだ。
閉塞感に耐えきれず、ふらふらと外にでる。
彼はこちらを興味なさげに見ていた。椅子から立ち上がろうともしない。やはり彼が襲ってくるなんて心配のし過ぎだったのだ。
それでも、気持ちのざわつきはおさまらなかった。今日は大丈夫でも明日は? その次は? ずっと毎晩こんな不安な気持ちになるの?
ふらふらと彼の隣に立つ。言うべきだろう。私の憂慮を。でも言ってしまうことで関係が悪化するかもしれない。
迷う私に彼は椅子に座るように促した。大人しく座ったものの、間がもたない。
言うべきか言わざるべきか、一つため息をつき覚悟を決めて気持ちを伝える。
彼はきっぱりと自分は弱いから頼りにすると言った。
何か変だと思った。念のためにそれだけかと聞くと彼はそれ以外に何があるんだと不思議そうだった。
あ、わかった。こいつまったくそっちのこと想像もしていない。へたれというわけじゃなく、そういうことをしようという気持ちがないんだ。
彼のことを少し理解して、彼のことが少し嫌いになった。
これではやきもきしていた自分が馬鹿みたいだ。
まあいい。貞操の危険がないなら距離感をはかる必要もない。
自分でも嘘みたいに溜め込んでいたものが溢れてくる。いくつもの質問に彼は淡々と答えてくれた。
勢いにのって、言葉を覚えるために本を呼んでなんて頼んでしまった。子供みたいなお願いにも彼は揶揄することもなく答えてくれた。
自然と身を寄せあって本を呼んでもらう。
なんだろう。心地いい気分だ。彼の落ち着いた声音は耳障りがいい。なんだかとても暖かい。
気がつくと太陽が高くのぼっていた。どうやら彼に寄りかかったまま眠ってしまったらしい。
見張りを交替するはずだったのにと慌てて起きたら彼は特に気にしたふうもなく、昼まで寝ると言ってテントに入った。
椅子に座りなおして大きくため息。彼はこれくらいで怒るような人ではないのはもうわかっている。だからといって甘え過ぎだ。
「しっかりしないとね」
私の方が年上なのだ。甘えてばかりではいられない。
昼ごろから歩いてなんとか日が落ちるまえに街についたというのに今日も野宿。
現状を思えば、妥当な判断ではある。最低限、私のステータスを一人で逃げられる程度に上げたいと彼は言うが、ステータスなんてそうそう上がるものではない。
筈なんだけど、魔物を狩るごとに目に見えてステータスがあがっていく。私が一人で狩るよりも、彼が手伝ってくれた方がステータスの伸びがいい。ほのめかしていた強化系スキルの影響だろう。
面白いようにステータスが上がるので無言で狩り続ける。最初は手間取っていたのに慣れてくれば手早く狩れるようになって楽しい。成長しているという手応えが達成感を与えてくれるからだろう。
気付けばあたりは暗くなっていた。
夜営の準備を彼と一緒にやって、夜は彼に本を読んでもらい、そのまま寄りかかって眠る。テントで寝なくちゃとは思うんだけどいつも寝落ちしてしまうのだ。
思っていたよりサバイバル生活が楽しい。
数日があっという間に過ぎて、私のステータス値は彼の数値をこえた。経験の差で彼と手合わせしても勝てないけれど、近いうちに彼より強くなれそうである。
明日は大物を狙おうかな。
私はいつのまにか明日がくるのを楽しみにするようになった。あの戦争が始まって大罪の牢獄で死ぬまでの前の私は、明日というものが嫌悪の対象でしかなかったのにだ。
進まぬ研究、何時自分も連行されるかわからない焦燥。大罪の牢獄に閉じ込められてからは狂気に犯され、明日などないと世界を呪った。
今、私は幸せだった。
最底辺を体験したからこそ、現在の状況が幸福に感じるだけで、平凡に生きていたならば、決して幸せだなんて感じないだろう。
それでも私は、こんな風に彼と生きていければいいな、と思った。
本当に、ささやかな生活でいい。でも、それを叶えるがどれだけ難しいか、私は知っていたはずだった。




