勇者一行
不本意ながらもリーリスは勇者達と共に大罪の牢獄へと向かっていた。三台ある馬車に別れて乗っているわけだが、誰が一緒に乗るかで馬鹿らしいいざこざがあった。
いつのまにやら久宝の従者的な立場になったカイルがリーリスと同じ馬車に乗るとごねたのだ。言い分としては男がいたほうが安全だからだそうだ。はっきりいって下心丸出しのいいわけだ。王族であるフィリーネの護衛騎士が馬に乗って馬車の周りを固めているのだから、馬車の中に男がいるかいないかなんて関係ない。
これに対してリーリスの反応は冷たかった。それなら私は外で歩きますと言ったのだ。
カイルは空気も読まず、じゃあ俺も歩くと言い出したところでフィリーネがとりなし、結局、リーリスとカイルは別々の馬車に乗ることになる。
幸先の悪さにフィリーネは嫌な予感を覚え、その予感はあたることになる。
特別な訓練を受けた特別な馬に馬車を引かせているとはいえ、馬にも休息は必要である。大罪の牢獄に直行は出来ない。となると村や街に泊まりつつ進むわけだが、勇者一行というのは目立つ。というか馬車自体も貴族が使う豪華なもので目立つ。更に勇者という立場上、身分を偽るわけにはいかない。そうなると頼ってくる人々もあらわれるわけだ。
馬を休めるために立ち寄った村の宿屋で勇者達は村長から相談を持ちかけられた。
「レッドグリズリーですか?」
再度確認する久宝に村長は青い顔で頷いた。宿屋の一階は食堂になっており、今は会議室がわりに使っている。窓から差し込む日の光は既に赤く、夕刻に差し掛かろとしていた。
勇者達が村についたのはつい先ほどである。立場上、村長にも挨拶しておかねばいけないので、久宝と犬飼凪、そしてフィリーネの護衛騎士が出向いたのだが、何故か村長をつれて宿屋に戻ってきた。
村長はその場で深く頭を下げ、どうかお願いを聞いてほしいとすがるように頼んできたので食堂に並べらた椅子に座らせて事情を説明させた。
この村はいわゆる農村である。周囲には広大な畑に囲まれており、そこから得られる農作物が村の収入のほとんどをしめている。
もし、野生動物や魔物に畑を荒らされれば大打撃をこうむる。故に、村に住む元冒険者が夜間警備をしており不届き者を狩っているわけだが、先日あらわれた魔物は狩れなかった。
それがレッドグリズリーだ。元冒険者はD階級だった者が二人、勝てなくはないが無傷でいうのは厳しい。さらに懸念事項があった。
「少なくとも二匹以上いるみたいなんです」
村長の声は消え入りそうなほど小さかった。野菜などに残された爪痕や地面に残された後から一体だけではないのは確実。しかし、何体かまではわからない。
「ギルドには依頼しましたか?」
フィリーネが尋ねると村長は弱々しく答える。
「ええ、ですが」
レッドグリズリー二匹以上の討伐に必要な適正依頼料を村では用意できなかった。依頼自体はギルドが受理して公開されてはいるものの、安い報酬で受けてくれる冒険者はそうそういない。全くのゼロではないので待っていればいつか誰か受けてくれるだろうが、いつになるかわからない。
「騎士団にも相談はしたのですが」
騎士団は定期的に魔物を退治してはいるものの、予定外の行動はとりづらい。あくまで軍であるからちょっと出かけて狩ってくるわけにはいかない。軍を動かすには上にお伺いをたてなければならないし、書類も大量に必要だ。
人的被害が出ていれば緊急出動も有り得るものの、被害は農作物だけではそれも出来ない。勇者達に分かりやすく説明するとすれば、猪や鹿相手に自衛隊は動かないといえばいいか。
手をこまねいている間に被害は広がっていくばかり。今すぐどうこうなることはなくとも、被害が大きければ後々に響いてくる。
「なんとか退治してはいただけないでしょうか」
フィリーネとしては断りたかった。魔物に畑を荒らされるなんて話しはありふれたものでいちいち関わっていたら切りがない。今は一刻も早くレイの救助に向かいたいのだ。こんな細かい人助けなんてしていたら大罪の牢獄にいつまでたってもたどり着けない。
それに、これは本来ギルドや軍の仕事である。縄張り争いに首を突っ込みたくはなかった。だというのに。
「任せて下さい。レッドグリズリーなら倒したこともありますし、なんとかしてみせます」
久宝が安請け合いをする。
「大丈夫なの? 何匹いるかもわからないんでしょ?」
浅野が危惧を伝えるも久宝は自信ありげだった。
「一匹なら俺一人でもなんとかなる。複数同時に戦わなきゃいけないようなら退けばいい」
なんならフィリーネの護衛騎士にしも協力して貰う手もあるし、女勇者達だって戦えないわけじゃない。もっとも、魔物を討伐した経験はあまりないので正面から戦うのは無理があるが。
「わかりました。では、護衛騎士にも戦ってもらって今夜中に終わらせましょう。ただし、今夜だけです。正否にかかわらず明日には村をでます」
勇者は世界を救うために召還されたのだから人助けは断れない。だからといっていちいち誰もかれも助けていたら本来の目的である魔族討伐に支障がでる。
だから、今夜だけ。フィリーネが提示したのはぎりぎりの最低ラインである。久宝も理解はしているのだろう。不承不承ながらも了承した。
フィリーネは胸を撫で下ろした。別の宿に泊まっているリーリスはフィリーネから見ても爆発寸前である。大所帯で移動しているのでどうしても少人数で移動するより時間がかかる。
そのことに焦りを覚えいるようで、ここ最近は一切喋らなくなってしまった。唯一、フィリーネとだけ会話はするのだが、フィリーネ以外は完全無視である。
これ以上、リーリスに心理的な負担をかけたくはない。
その心理的負担の元凶たる久宝とカイルは村長から何度もお礼を言われてやる気になっている。
フィリーネは微かに嫌悪感を抱いたが胸の奥に押し込んで表情を取り繕った。




