偽悪者は宿屋で寝る
アイリスさんからの説明をまとめるとガイアスト帝国の堪忍袋のおがきれて、本格的にマニアス聖国に抗議があったそうだ。
直接的証拠はないものの、国境付近にある村への襲撃疑惑や勇者の独占をしていることに対する各国の不満。
さらにきわめつけはガイアスト帝国内でマニアス聖国の法にもとづき刑を執行した事件。
泥を塗りたくられたガイアスト帝国はマニアス聖国への意思表示として冒険者レイ、つまり俺の救助を決定した。
大罪の牢獄は表向き普通の牢獄ということになっているらしいが、ギルド上層部や国の高官は大罪の牢獄が実質的に処刑場だと知っている。
だからといって帝国軍を動かせば聖国に宣戦布告するようなものだ。となるとギルドに頼むしかない。
依頼を受けたギルドは俺の状況からギルドに不信感を抱いている可能性を考えて、したしくしていた受付嬢、アイリスを呼び寄せたというわけだ。
「大まかにはこんなところか」
ギルドが用意してくれた宿屋の一室でリアンに状況を説明する。ベッドが二つあったのでそれぞれのベッドに座り、向かい合う形だ。
「旦那様は運命の女神に愛されてるみたいね」
リアンは呆れ顔である。もし運命の女神が存在しているならきっとルーザなみに腐った性根の持ち主に違いない。
「それでどうしてあのギルドマスターは襲ってきたの?」
あれは抜き打ちのD階級冒険者試験だった。俺個人の成績はたいしたことはないのだが、リーリスの功績が凄まじいらしい。
リーリスは勇者と共にこちらに向かっている最中であり、道中で勇者と一緒にいくつもギルドの依頼をこなし、実力的にはC階級とみなされている。
リーリスは俺の所有物であるからその功績は俺の物だ。かといって奴隷頼りの冒険者を昇格はさせられない。
だから戦闘試験で実力を確かめたのだ。
もっとも、抜き打ちだったのはギルドマスターの独断専行だったとアイリスに謝罪されたが。
「ギルドマスターはともかく、アイリスさんは信用できる。しばらくここで待機だな。リーリスとも合流できそうだし」
ガイアスト帝国はあくまで秘密裏に動いている。俺が既に大罪の牢獄から出ている件も極秘事項だ。なのでこの街から出ないようにお願いされた。リーリスには俺がここにいると伝えてくれるし、断る理由もないどころか俺にとっては好都合だ。
「リーリスって女の人?」
「ああ」
肯定するとリアンはふーんっと何やら不満げにベッドに横になった。
「私に手を出さないのはリーリスさんがいるから?」
「なんの話しだ?」
「さあ? 私もよくわかんないかな?」
しかめっ面になったリアンは俺に背中を向ける。そのまま寝るつもりらしく、もぞもぞとシーツをかぶった。
よくわからない奴である。いや、そもそも俺は他人がよくわからない。友達だと思っていた人達が実は単に俺を利用していただけだと気付かなかった間抜けだ。
リアンの気持ちも、リーリスの気持ちも、わかるわけがない。
部屋の明かりを消して俺もベッドに横になる。目を閉じてゆっくりと呼吸を繰り返す。
一時間くらいだろうか、しばらく眠りが訪れるのを待ったが眠れない。久しぶりの柔らかいベッドがどうにも収まりが悪い気がする。まあ、目を閉じてさえいれば浅くは眠れるだろう。
ぼんやりとしていると不意にベッドが沈む。
「寝てる?」
リアンの声だった。何事かと戸惑い、返事を返せない間に、リアンはシーツをめくって潜り込んできた。
さすがになんのつもりかと声をかけようとしたらリアンが俺の服の袖をぎゅっと握ってきたので思いとどまる。
そういえば、野宿していた時はなんだかんだと理由をつけて俺の服を握って眠っていた。
リアンも俺と同じで環境がかわって眠れないのかもしれない。好きにさせておこう。




