偽悪者は街につく
結局、リアンは朝まで起きなかった。
一睡もせずに歩くのは辛すぎるのでリアンに見張りを任せてお昼まで眠った。
起きてくるとリアンは何やら熱心に歴史書を読んでいる。
「読めるのか?」
「少しはね」
事も無げにリアンはいう。昨日の今日で少し読めるようになるなんて驚異的だ。これが天才というものか。
試しに歴史書の文章をリアンに読んで貰ったり意味を聞いてみたら全てあっていた。
「もう喋れるんじゃないか?」
「まさか、固有名詞とかはどうしようもないし、まだまだ会話なんて無理よ」
肩をすくめるリアンにそれもそうかと納得しつつ出立の準備を手早くすませて歩きだす。
物資には余裕があるがいい加減、柔らかいベッドで眠りたいな。
しばらく歩くと道が更に大きい道に合流した。新しい馬の足跡や車輪の跡がある。左右に伸びた道、どちらに行ってもどこかには着くだろう。
「ちょっと待って」
リアンに呼びとめられて振り向く。
「あの、その目って普段から包帯とかしてないの? 人に会うと目立ち過ぎない?」
そういえば失念していた。人前に出るなら包帯くらいつけたほうがいいだろう。さっそく包帯を取り出して巻いてみる。
どうも座りが悪い。
ミイラ男みたいな巻き方だしな。巻き直すか。包帯を切って眼帯もどきを作ってまく。まあまあかな。
「さっきの方が格好よかったのに」
リアンが何か言っているが無視。もくもくと歩いていく。しばらく歩くと後ろからやってきた馬車が追い越していった。どうにかこうにか文明圏に戻ってこれたようだ。
休憩を挟みつつ歩き続け、なんとか日のあるうちに街にたどり着いた。街壁ではなく木で組まれたバリケードで街を囲っている。
「今日はベッドで眠れそうね」
「そんなわけないだろ」
リアンはぴたりと動きを止めた。
「もし何かあったら俺だけなら逃げられる。リアンは逃げられるか?」
いざとなれば天魔降臨で強行突破もできる。よほどの強者がいなければ。だが、リアンを連れては無理だ。せめてリアンも単独で逃げられる程度のステータスまであげたい。
「しばらく山ごもりだな。いや、森ごもりか?」
「街に入らないなら、なんで街まできたの?」
恨みがましい目で見下ろしてくるリアン。ほんとにくるくる表情が変わる奴だな。
「街の近くが安全だからだ」
小さな村ですら元冒険者が住み着いて警備したり、騎士団が巡回したりで魔物を間引いている。街と呼べるほどの大きさならまず間違いなく冒険者ギルドがあるし、街周辺の危険な魔物はさっさと討伐してしまう。
冒険者ギルドがある街が魔物に襲われるなんてギルドの信用にかかわるからだ。
つまり、街周辺にいるのは手頃な獲物か、生まれたばかりの弱い魔物だけだ。
魔物は無限わきするから、いなくなるということはない。
「まあ、そんなに時間はかからない。我慢してくれ」
街から離れ過ぎないように気をつけて狩をおこなう。一日目、リアンは渡した短剣でテイルラットを数匹、なんとか仕留めた。テイルラットはモルモットくらいの大きさで太めのしっぽを持った魔物だ。
基本は無害であるが、攻撃されると反撃してくる。とはいっても油断しなければ無傷で倒せる相手だ。リアンも手こずりながらも何とか倒した。
「なんか妙にステータスが上がるんだけど」
「気にするな」
リアンはため息をつきつつも何も聞いてこない。二日目、三日目と言葉が少なくなりつつ黙々とテイルラットを狩っていく。
そして四日目、リアンのステータスが俺のステータスをこえた。しかもスキル剣術1を取得していた。
俺のステータスが低すぎるのか、リアンに才能があったのか判断しずらい。
ともあれ、これくらいのステータスがあれば、逃げるくらいは出来るだろう。
「明日、街にいこう」
満天の星空に見下ろされながらリアンはきょとんと首を傾げた。しばらく考えるような素振りをしてからはっとした顔つきになる。
「そういえば、そんな予定だったわね。なんかずっとこんな生活が続くんだと思ってたわ」
「お望みならそれでもいいが」
「あー、なんか悪くないなあ、とも思うのよね」
干肉を短剣にさして焚き火で焼くリアンはすっかりそまっていた。テイルラット以外の魔物も積極的に狩るようになったし、猪を見かけると真顔で、あれ、食べれないかしら? と言い出すようになった。
魔物と猪などの生物には明確な違いがあり、猪は食べられるが魔物はたべられない。もっとも、寄生虫や病気の可能性があるから気軽に食べていいものではない。
「食料は街で調達して野宿しつつ移動するか?」
「あえて危険に身を投じる趣味はないし、それにいい加減ベッドで寝たいし」
街道を利用していればまず危険はない。とはいえ、絶対に安全といえるものでもなかった。
「とはいえ、ベッドで寝る前にお客様の相手が必要みたいね」
特に隠れるつもりはなかったのだろう。木々の合間から姿は見えていた。
「よう、いい夜だな」
身長二メートルはありそうながっちりした体格の男が、軽く片手をあげる。一見、気安い感じではあるのだが背中に抱えた大剣が剣呑な雰囲気を垂れ流していた。
「なにかようですか?」
動きやすいように体勢を整えながら聞く。男は一瞬、訝しげな顔をしてから大きく頷いた。
「まあ、なんだ。やればわかるか」
本気ではなくただの威嚇だろう。男は大剣を抜き放ち、焚き火に叩きつける。
「なんのつもりだ?」
距離をとって精霊剣を構える。リアンも同じように短剣を抜いている。
「お前、その剣どこからだした? まあいいか。ちったあ持ちこたえろよ」
闇夜にはぜる赤い火の粉を纏い、男は楽しそうに笑った。




