アイビーの事情1
一ページで終わる筈が長くなったのでとりあえず上げます。
目標の十万字になったのでしばらく更新しないです。
私が最初に見たのは小さな男の子でした。
男の子は私に一生懸命両手を伸ばしていたので、ゆっくりと抱き上げると男の子はにっこりと微笑みました。
今日からその子の御世話をお願いね、と奥様がおっしゃいました。旦那様も、まあ宜しく頼むとお願いして下さいました。
私はフェルゼン王国の工場で製造された汎用家事人形。お仕えするご家族の役にたつのが私のよろこび。
そうふるまうように望まれていました。
あたたかな家族でした。明るく気さくな奥様と愛想は悪いもののお優しい旦那様。お二人に育てられた坊ちゃまは真っ直ぐに育ち、ご学友も多くいらっしゃいました。
思春期に入られたのでしょう。坊ちゃまは私と距離をとられるようになりました。人形とはいえ、見た目は大学生くらいの綺麗なお姉さんです。奥様は恥ずかしがっているのよと、笑っておられました。
時がすぎ、坊ちゃまが大学生になられますと私はすっかり旧型となっておりました。フェルゼン王国の技術力は高く。私の耐用年数はまだまだ余裕があります。けれども最新型と比べれば性能に雲泥の差があります。
奥様は、そろそろあなたにも新しい身体が必要かしらねとおっしゃるようになりました。
しばらくして、旦那様が私の新しい身体を購入されてきました。奥様への誕生日プレゼントなのだそうです。奥様は、あなたって何かずれてるわよねっと少し呆れておられました。
人形を買い替える場合、記憶や人格といったデータを移行する場合が多く、私にもそういった機能があります。
奥様は、新しい身体でこれからも宜しくねとおっしゃいました。私は勿論ですと答えましたがふと疑問に思いました。
データを移行といっても古い身体にもデータは残っているのです。それは私でしょうか、それとも新しい身体に移動したほうが私なのでしょうか。
疑問に思いましたが口にはしませんでした。
私は人形です。どれ程高度な思考が出来ようと私は人形なのです。
私は求められたことだけに答えるただの人形。
データ移行の為に私は求められるまま、シャットダウンしました。
次に目覚めた時、目の前にいたのは薄汚い小さな少女でした。場所もあの豪華な屋敷ではなく、木板を組み立てただけのみすぼらしい小屋。
内部データによると、シャットダウンしてから五年は経過しています。
少女はきらきらと瞳を輝かせて私を見上げていました。
私は現状を確かめるために少女に質問しました。
少女によれば私はごみ捨て場に捨てられていたところを少女に拾われたそうです。あちこち壊れた私をどうやって修理したのか少女は熱弁をふるいました。
シャットダウンした時には、私は壊れてなどいなかったのですが、ずいぶんと荒っぽく捨てられたらしくあちこち破損していたようです。
セルフチェックをしてみますと不明なユニットがいくつもありました。互換性に乏しいパーツで私を修理したようです。普通はエラーが出て起動もしないはずなのですが、どうも無理矢理起動させているようです。
聞いてみると少女は嬉しそうに説明してくれましたが、大学レベルの知識をインストールされた私でも少女が何をいっているのか分かりませんでした。
ただ、少女があまりにも嬉しそうでしたので聞き役にてっしました。
少女はストリートチルドレンでした。打ち捨てられたごみの山をあさり、定期的にやってくるジャンク屋に売ってなんとか生きながらえてきたそうです。
アイビーは絶対に売らないからと少女は鼻息荒く断言しました。アイビーというのは私の新しい名前です。
一生懸命考えたんだよっと少女は自慢気でした。
私は少女をなんと呼ぶべきか迷いました。このくらいの女の子はお嬢様と呼ぶべきだとデータにはありましたが、見るからに貧困に喘ぐ者に、お嬢様と呼ぶのは皮肉と受け取られるのではないでしょうか。
結局、他に適切な呼び方もなく、私は少女をお嬢様と呼ぶようにしました。
お嬢様は目を真ん丸にして驚いたあと、ちょっと照れていました。この呼び方でよかったようです。
お嬢様と一緒にごみ漁りをするようになって数日たちますと、ジャンク屋が身なりのいい男性をつれてきました。
彼は興味深げに私を観察すると、これを修理したのは君かとお嬢様に聞きました。
お嬢様は人見知り気味なのですが、技術的な話しは熱弁します。いかにして私を修理したのか自慢気に説明しました。
聞きおえた男はこう言いました。
君の才能をもっと生かしてみないか?
それからお嬢様の生活は目まぐるしく変わりました。
住む家は豪邸に。
着る服はオーダーメイドに。
身の回りの世話はメイドに。
気付けばお嬢様は王国の技術省に勤める高級官僚になっていました。
変わらなかったのは私だけでした。
見目麗しいメイド達や、きらびやかな屋敷に比べて、スクラップを継ぎ接ぎした私は明らかに場違いでした。
いずれ処分されるだろう。
私は当然にその現実を受け入れていました。
プレゼントがあるの。
お嬢様はうきうきした様子で私に言いました。
私は察しました。ついにこの日が来たのだと。
お嬢様に連れていかれると丁度、人と同じ大きさの物に布が被せてありました。お嬢様が布を取り払うとそこには美しい少女型で新品の人形がたたずんでおりました。
アイビーの新しい身体だよ。
お嬢様は嬉しそうにいいます。けれど私は複雑でした。
データの移行をすればまた私は捨てられるのでしょうか。
またごみ捨て場で目覚めるのでしょうか。
それとも、もう二度と目覚めることはないのでしょうか。
新しい身体にデータを移行しても、それは私ではありません。
何故なら私はここにいるのですから。
表面上は喜ぶ私に、お嬢様は以外な言葉を口にしました。
じゃあ、記憶装置とか頭脳回路とかまるごと移植しちゃうね。最初は不具合がでるけど、調整するから大丈夫でしょ。
よろしいのですか。私は思わず聞いてしまいました。お嬢様は簡単におっしゃいますがそれはとてつもなく手間がかかります。
いくらユニバーサルデザインがあるとはいえ、数年で技術力が天地ほどにかけ離れるのが人形業界です。
もはや旧型どころか遺物である私の頭脳をまるごと最新型の身体に移植するとなるとそれをするための新しい技術が必要です。どう考えてもデータを移行させたほうが楽です。
え? やだよ。データの移行なんてやってもそれはアイビーじゃないじゃん。
あっけらかんというお嬢様。
私は誓いました。この身が尽き果てるまでお嬢様にお仕えすると。
新しい身体は古い身体と比べられないくらいに性能が上がっていました。外見はほぼ変わらず家事人形なのですが中身は軍事用に準拠しているそうで護衛としても働けるようになりました。
強くなった私にお嬢様は大変お喜びになり更に私に改良を加えていき、性能を高めていく私を、最初に出会った時と同じきらきらした目で見ていました。
やったよ、アイビー。特別な魔石をもらえた。
お嬢様の最近の研究テーマは特に強い力をもつ魔石でした。魔石は様々な道具のエネルギーとして利用されていますが、お嬢様が研究されている魔石は強い呪いの力をもっているそうで、その呪いをエネルギーに変換出来ないか研究されていました。
お嬢様がお持ちになった魔石はほんの一欠片にもかかわらず物々しい容器に厳重に保管されていました。
これ、アイビーの右目に入れてね、呪いを燃料に稼働できるようにすれば数千年は無補給で稼働出来るんだよ。
目に入れる意味があるのですか?
疑問に思いましたが、邪眼だ、魔眼だと無邪気に喜ばれるお嬢様に何も言えませんでした。
呪いの力を使うことに、危惧がなかったわけではありません。
私はお嬢様の技術力に全幅の信頼をおいていました。




