フィリーネの祈り
短いけど場面転換するからここまでであげるよ。
やる気のないあらすじを書き直そうかと思う今日この頃だよ。
短期間で信頼を得る方法などない。元来、信頼というのは長い時間をかけて築きあげていくものだ。だからフィリーネがこれからやろうとしていることは無謀であり無茶であり愚かである。
渋る勇者達を無理矢理部屋の外に出し、フィリーネはソファに座るリーリスと向き合う。
「レイさんの事情は聞いていますか?」
リーリスは無言。主に関わることは一切話さないということか。リーリスがどこまで知っているのかフィリーネには推し量れない。ならば何も知らないと判断して話すべきだろう。
「これは機密でもなんでもありません。一般に広く公表された情報です。聞いたとしても背信行為にはならないでしょう」
レイの事情を一通り説明する。レイが向こうの世界で万引きをしてクラスメイトから孤立していたことに関しては少し濁して話した。さすがにこれは本人から聞くべきことだろう。
「勘違いなされないよう付け加えますが、私はレイさんが向こうでよくないことをしたとは考えていません何か行き違いがあったように思います」
すべてを話しおえてゆっくりと待つ。リーリスは何かを飲み込むような仕草をしてからゆっくりと口を開いた。
「もしかしたら、とは思っていました」
リーリスは奴隷身分でありながらわりと自由だった。四六時中レイと一緒とはいえ、それは万が一にもレイを失いたくないという警戒心からリーリス自身が望んで側にいたのだ。とくに行動を制約されていなかったので噂話しなどが自然と耳に入るし、ギルドなどに置かれている新聞を読むこともある。普通に生きていればまず勇者という存在を知らないなんてありえない。
勇者はほとんど全員が黒髪黒目であり極めて強力なスキルをもった若い人間。
レイも似たような特徴を持っていたし、何よりレイはこの世界のことを知らなさすぎる。子供でも知っていることを知らないので貴族かなにかと思っていたのだが、貴族としての知識すら持ち合わせていないのだから、あとはもう勇者だとしか思えない。
レイが何者であろうと、リーリスを手離さないと言ってくれているのだからどうでもよかった。
「私はレイさんを勇者として迎え入れたいと考えています」
人格に問題がなければ王族側の勇者になってほしいというのが本音である。女神は寛大であるというが教会の解釈である。一度勇者になるのを断っても、勇者として活動したいと申し出てくれれば問題ない。さすがに不満をもつものも出てくるだろうが、教会の教えでは許すことも肝要となっているから表だってどうこうとはならないだろう。むしろ説得して勇者を一人増やしたとなれば王族の手柄として認識されるはずだ。魔族という現実の脅威に立ち向かってくれる勇者は多ければ多いほどいいのだから。
「私はご主人様の意思に従うだけです」
フィリーネの思惑にリーリスは気付いているのだろう。硬質な雰囲気は揺るがず、口を滑らせ言質をとられるまねもしない。わかっていたことだし、これからやることを考えればむしろ好都合だろう。
フィリーネは少し時間を頂きますと断ってからソファから離れ、文机で書き物をはじめた。しばし、ペンの便箋をひっかく音が部屋に響く。平静をよそおうフィリーネであったがペンを握る手が少し震える。理性を総動員して書きおえるとフィリーネはソファに戻って便箋をリーリスに差し出した。
「これをよんでください」
便箋を手渡されたリーリスは言われたとおり内容を読んでいく。「かついでいるんですか?」
驚きよりも困惑が勝ったようでリーリスは眉をひそめ、促されるまま便箋をフィリーネに返した。問には答えずフィリーネは便箋を丁寧に封筒にしまうと封蝋に簡単な火魔法で火をつけて封筒にたらして封印する。そこへ常に身に付けている指輪印章を押す。印章が押された封筒は中身がどんなに荒唐無稽な内容であろうと印章の持ち主が内容を保証する意味合いがある。
ぽかんと、リーリスは口を開いた。フィリーネはしてやったりと舌をだす。さっきまでの緊張が嘘のように軽やかな気持ちだ。フィリーネだけが知る秘密を始めて誰かと共有したという共犯者意識に気分が高揚しているのかもしれない。
「これをリーリスさんに差し上げましょう。自由に使って下さい」
リーリスは封筒を受け取らない。
「いったい何のつもりです」
警戒、当惑、当然だろう。この封筒があれば簡単にフィリーネを破滅させられるのだから。
「三日、私は待ちます。もし、沙紀さんのスキルを受け入れてくださるのならもう一度会いにきてください」
しばし視線が交差する。
「私にはあなたがわからない」
諦めたのだろうリーリスは封筒を受けとってぼやく。
「どうしてここまでするんですか?」
聞かれてフィリーネは戸惑った。どうしてだろうか?
「羨ましいからかもしれまん」
ぽつりと言葉をもらす。
「私、聖騎士物語に憧れていたんですよ。今はもう憧れることもできませんけど」
フィリーネはふふっと微かに笑う。
「リーリスさんとレイさんはまるで聖騎士物語みたいだなって思ったんです。ですからお二人には上手くいってほしい。勝手な願いですけどね」
自分では無理だから誰かにというのは身勝手な願いだ。一方的に相手に負担どころが呪いをかける浅はかなおこないである。
でも。
「外まで送ります。その封筒は好きにしていただいてかまいません」
二人の結末が幸せなものであって欲しいと、フィリーネは愛の女神に心から祈った。




