第9話 見栄えよりも、数が欲しい
森から戻り、広場でエリスさんに渡されたお弁当をいただいてから、武器屋の親父さんのもとへ向かう。あちらもお昼どきだろうから、少し時間をずらしたのだ。
「こんにちは」
昨晩話した時に、昼間はノックしなくても好きに入って良いと言われた私は、挨拶をしながら武器屋に入店した。
「おう、シュン! 素材は集まったのか? 裏の解体場に出してみろ。ワシが程度を見てやろう」
解体場に移動した私は、午前中に狩ったゴブリン15体と、爆走コッコ18羽を作業台の上に乗せた。
「……おい、シュン。矢は何本使ったんだ?」
「2本余らせたので、38本ですね。何本か撃ち漏らして、無駄にしてしまいました。申し訳ありません……」
「ブハァッ! すげーな、お前さん! ここに33匹いるんだから、撃ち漏らしはたったの5体ということで間違いないよな!?」
「あ、はい……。5体も撃ち漏らしてしまいました」
「お前さんの頭の中は、どうなってるんだろうな? まあ、いいさ。それにしてもすごいな。爆走コッコを正面から斃したのか?」
「そうですね。爆走コッコは横からの攻撃では当たらなかったので、小さな音を出してヘイトを向け、走って来たタイミングで心臓を一突きして斃しました」
「そうか。かなり良い状態だ。爆走コッコ1体から100本は矢を作れるんだがな! ガッハッハ!」
あー、それはそうか。丸々と太っているから体も大きな鳥だ。羽根の数もかなり多いだろう。これは毟れば良いんだろうか?
「コッコは羽を毟れば良いんですか?」
「いや、加工してない羽は柔らかくて折れやすいんだ。この道具で、1本ずつ丁寧に根元から抜かなきゃダメだぞ」
なるほどと頷いて、渡された道具を手に取る。大きくて太いピンセットだな、これ。
「分かりました。問題はゴブリンの歯、ですね……」
「何か問題があるのか? これは簡単で、口を開かせてペンチで歯を抜くだけだがな」
「あー、やっぱり……。ちょっと、人型の魔物を解体するのには、やっぱり抵抗があるんですよね……」
「なるほどな! そりゃ健全な理由だ。そうだなあ……。ああ、ほら、見てみろ。こいつらは、貴金属を集めるのも好きなんだ。こいつはネックレスを付けている。これを使うなら怖くないだろう? 刺さりゃ良いんだ、矢なんてもんは」
「な、なるほど。ワイルドですね……」
苦笑いしながら、ゴブリンが付けている装飾品を外して集める。これはこれで、ゴブリンを狩る理由ができて、助かった。何せ、同じ魔物を千匹斃さなければならないことに、変わりはないのだ。
「宝石も削れば矢じりにならなくもないが、硬くて削れないものもあれば、売って矢を買ったほうがまとまった本数になることもあるぞ」
「なるほど! 勉強になります!」
「ガハハ! こんなんで良いなら、いくらでも教えてやるからな! 今日はもう狩りに行かないのか? じゃあ、矢の作り方も教えてやろうな!」
それからは、何気に教え方がスパルタな親父さんに、矢の作り方を教わった。
「戦場で使うなら、綺麗さはいらねぇ! 丁寧である必要はねぇぞ!」
「だから、全部同じにしようとするな! 刺さりゃ良いんだ、矢なんてもんは!」
「丈夫である必要もねぇぞ! なんなら、折れる前提で作れ!」
なるほど。クロスボウはやはり、“数を使う武器”なのだと理解した。つい癖で揃えたくなるのだが、親父さんは“効率を重視”することを教えてくれた。私にはない発想だったから、『目からウロコ』だと感激した。
そうして、日が暮れても作業に集中していた私は、500本近くの矢を作ったのだったが……。
「おいおい、シュン! そんなに作ってどうするんだ? インベントリに入るのは、一枠100本までだぞ!」
「あっ! そうだった!」
まだ幼いからか、私のインベントリは、五枠しかないのだ。500本すべてを持ち歩こうとするならば、魔物を入れることができなくなる。どんなに頑張っても、矢は二枠まで……200本までしか持ち歩けないだろう。
「親父さん、申し訳ないのですが……。預けておいても大丈夫ですか? 矢が減ったら取りに来ますので……」
「ガッハッハ! ああ、構わん! 本当にお前さんは面白いな! 一緒にいて飽きないぞ! また、矢を作りたくなったら作業台を貸してやるから、遠慮なく言ってこいよ!」
「あ、はい! ありがとうございます!」
私は深々と頭を下げ、感謝の意を伝える。それにしても、矢を持てる量がネックとなるとは……。
「真正面から戦わない理由が、また一つ増えた」
私は、どのように効率よく狩りをすべきか、眠りに落ちるまで、子猫を抱いたまま考え込んだのだった。




