第九話-8
◇◇◇◇
なんの変哲もない、普通のカフェ・オ・レ。
ついさっき、私のレジで買って行ったカフェ・オ・レ。
コンビニで売っているペットボトル飲料は、熱すぎず、少しだけ時間を置けば飲みやすくなる温かさ。
彼が・・・如月くんがこれを買ってからで言えば、10分ほどが過ぎたのかな?
今あたしの手の中にあるカフェ・オ・レは、飲み頃よりも少しだけ冷めてはいる。
けれど、今まで触れた、どの飲み物よりも温かい。
もちろん、手に伝わる温もりはある。
それよりも・・・心に伝わってくる温かさは、どんな飲み物よりも温かい。
もしかしたら、両親が入れてくれたお茶よりも温かいかもしれない。
・・・大袈裟かな?
あたしは、両親に愛されていると思う。いや、絶対に愛されている。間違いない。断言できる。
向けられた愛情に疑いを挟む余地なんて、どこにもない。
ずっと育ててくれた。
褒めて貰える事も多かったし、間違いや正しくない事は叱ってくれた。
でもどちらが多かったかと聞かれれば、すぐに答えられる。
褒めてくれた事の方が、圧倒的に多い。
出来た事は正しく評価して貰えたと思うし、出来なかった事も努力をすれば認めて貰えた。
それだけでも、十分に幸せだ。
間違いない。あたしは両親に愛されてる。
・・・
でも。
両親は、『あの人』の事は気付いてくれなかった。
このコンビニでいつも同じ時間に来てくれる『あの人』。
あたしが距離感を間違えて、拒絶されてしまった『あの人』。
あたしの心に影を落としている、『あの人』の事を両親に話した事がある。
何が間違いだったのか、どうやったらまた以前の様に接する事が出来るのか、何を直せば『あの人』は以前のような慈しむような目を向けてくれるのか・・・。
あたしは両親に尋ねた。
その時の答えを、今でも鮮明に覚えている。
『そんな人もいるわよ』
『気にしなくても良い。お前は頑張っているんだから、それで十分だ』
・・・
本当にそうなんだろうか?
離れてしまった人の縁は、もう回復しないものなんだろうか・・・。
もちろん、親類縁者とは違うのは判ってる。
血縁のような、切れない縁とは違う事も判ってる。
あたしが『あの人』の事を、何も知らないのも判ってる。
ただの『他人』で、縁が無くなっても何も困らないのも判ってる。
でも、だからって、『それだけで切れるような縁』で終わって良いの?
『大した縁じゃなかった』で割り切れないから、こうして苦しんでいるのに・・・。
『見てない』から、実感が伴わないのも判る。
『寄り添うほど深刻な問題』じゃないのも判る。
判ってるのっ!!
それを割り切れない、あたしが子供だって事も判ってるのっ!
気にせず流しておけば、いずれ気にならなくなるって事も判ってるの。
でも、『あの人』はコンビニがあたしの『居場所』になった、決定的な事なの。
たくさんいるお客さんの中でも、特別な印象の人なの。
『あの人』の笑顔があったから、『良いお姉ちゃん』って役割が無くなっても頑張れたの。
好きとかじゃなく、ただ『特別』だったのに・・・。




