第四話-2(改)
真が前へ進んでしまうことが怖くて、無意識に縛り付けていたんだろうか。
視界が、少しだけ暗くなる。
俯き、ジャージの裾を強く握る。
否定、できない。
「……お姉ちゃん?」
琥珀の声が遠い。
沈んでいく。
暗い場所へ。
「お姉ちゃんっ!!」
肩を強く揺さぶられて、はっと顔を上げた。
目の前には、不安そうな琥珀の顔。
息が苦しい。
耳鳴りもする。
それでも私は、無理やり笑顔を作って琥珀の頬を撫でた。
「……大丈夫。心配してくれてありがと」
声が少し掠れる。
琥珀は、事故のことを詳しく覚えていない。
だからただ、姉がいつも真と一緒にいる――それだけを見ていたんだろう。
そうか。
私は真ばかり見て、琥珀のことをちゃんと見れていなかったのかもしれない。
「ねぇ琥珀。今度、真を誘ってどこか遊びに行こうか。三人で」
「え……いいの?」
「もちろん」
すると琥珀は、ぱっと顔を明るくした。
「やった! 真兄ちゃんといちゃいちゃする!」
「ふふっ。じゃあふたりで、真をデレデレにしちゃいましょうか」
脂汗を背中に感じながらも、その笑顔だけは本物だった。
真も私も、ちゃんとひとりの人間として向き合わなきゃいけない。
依存して、閉じた世界に逃げ込むんじゃなくて。
そんなことを考えていると、台所からお母さんが顔を出した。
「あら、帰ってたの瑠璃」
お味噌汁の香りが、ふわりと漂う。
今日はおはぎを半分こしたせいか、少しだけお腹が空いていた。
「うん、ただいま」
靴を脱ぎながら答える。
「お腹空いちゃった。朝ご飯、少し食べるね」
「珍しいわね。いつもならおはぎだけで十分って言うのに」
「今日は真と半分こしたから」
「えっ!? 真兄ちゃんと分けっこしたの!?」
琥珀が再び食いついてくる。
「しかも、あーんってしてあげたの」
そう言った瞬間、琥珀の顔が真っ赤になった。
「ずるいっ!! あたしも真兄ちゃんにあーんされたかったーっ!!」
本気で悔しがる姿が可愛くて、私はお母さんと一緒に吹き出してしまう。
……私は、本当に幸せ者だ。
格好いい幼馴染がいて。
可愛い妹がいて。
本当は、それだけで十分なのかもしれない。
たとえ、私の想いが届かなくても。




