6-10 生贄は、勇者
6ー10 生け贄は、勇者
「消滅の厄災を防ぐためには、1ヶ月に1度、生け贄を捧げなくてはならないのです」
生け贄?
俺は、エンリコの方を見つめた。エンリコは、ふぅっと溜め息をついた。
「生け贄は、魔力を持った者でなくてはなりません。それも、かなりの魔力量を持つ者です」
エンリコは、続けた。
「我々は、条件を満たす者を国内から選んで、その者を神子として捧げてきました。が、それは、国民の不満を爆発させる原因になりました。なぜなら、権力や財力を持つ者は、神子に選ばれても身代わりの奴隷などを用意して逃れることができたのですが、貧しい者たちは、逃れることができなかったからです」
生け贄は、国民全員の魔力量を調べ、その中の魔力量が多い者から選ばれていった。
「ヨハンナ様は、騎士団を使い、国民が暴動を起こさぬように監視しておられますが、それにも限界があります。もはや、このクリスティア王国が滅ぶのは避けられぬことでしょう」
国民の暴動で滅ぶか、厄災によって消滅するか。
どちらかであるというだけで、滅ぶことには変わりがない。
「なんとかする方法はないのか?」
俺が聞くと、エンリコは答えた。
「ありますよ」
エンリコは、俺を見つめて言った。
「勇者を生け贄に差し出せば、この厄災はおさまると予言の書には、書かれています」
はい?
俺は、思わず、息を飲んだ。
なんですと?
「カナメを生け贄に差し出せ、と言うのですか?」
姫がエンリコにきいた。
「まさか、そのための勇者召喚だったのですか?」
「予言に従えば、そういうことになります」
エンリコは、答えた。
「この厄災は、勇者を生け贄に差し出すことによってしかおさまらない。だから、我々は、王を殺してまで勇者を召喚したのです」
マジか?
俺は、生け贄、だったの?
「生け贄は、新月の夜に、最初に消滅の起こったアマンダの町において捧げられます」
「新月って」
エリオスが言った。
「明日じゃないか」
「そうです」
エンリコは、にっこりと微笑んだ。
「だが、安心してください。勇者の存在は、まだ知られてはいません。現状で知っているのは、この国においては、私だけです。そして、私は、明日、生け贄として捧げられることになっています」
エンリコは、俺に告げた。
「我々は、あなたにひどい仕打ちをしました。これは、その購いとは言えませんが、どうか、皆さん、はやくこの地を去ってください」
「そしたら、クリスティアは?」
俺は訊ねた。
「この国はどうなるんだ?」
「この国は、滅びます」
エンリコは、答えた。
「ただ1つだけお願いがあるのですが」
「なんです?エンリコ」
姫がきくと、エンリコは答えた。
「どうか、我が国の民だけは、お救いください。あなたたちの国へ民を受け入れてください」
「それは、かまいませんが」
姫が言った。
「あなたは、どうするのですか?エンリコ」
「私は、生け贄として明日の夜、死にます」
エンリコは、言った。
「最後の夜に姫に出会えたこと、この上のない幸せでした」




