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エピローグ

 夏季休暇前の最後の授業が終わると、寮内はあわただしくなる。


 寮に残る者がいなかった為、休暇期間中、寮は閉鎖される事になったらしい。


 メルセデスは、少ない荷物はすでにまとめてしまって、実験室の片付けを行っていた。


 アルベルトがいた準備室は、ルイーゼが使う事になっていた。


 作業をしていると、マルガとエラが迎えに来た。


「ねえ、メルセデスが教えを請いたいって言ってたのって、アルベルト先生?」


 ふいに、マルガがメルセデスに尋ねた。


「え?! 何で、そう思った?」


 赤くなるメルセデスに、エラは、アルベルト先生から求婚されるまでは、実に楽しそうに実験室に通っていたのだという事を説明する。


「縁談がきた時、うれしくなかったの?」


 尋ねるマルガにメルセデスは答えた。


「ルイーゼがアルベルトに恋をしている事を知っていたからね」


 そう言って、笑うメルセデスの顔を見て、マルガは余計なことを言った、と、思った。


 メルセデスも、アルベルト教授に恋をしていたのかもしれない。メルセデス自身は、それを恋だと思っていなかったのかもしれないけれど。


 けれど、メルセデスは、アルベルト教授と同様に大切なルイーゼが、アルベルトに恋をしている事を知っていた。だから、自分の中の感情を無意識に殺していたのかもしれないと。


「そういえば、ニクラスもゲルトと一緒に護衛として来るらしいね」


 話題を変えようとしたのか、エラが言った。


「へえ、そうなんだ」


 メルセデスは、特にこれといって興味の無さそうな顔をして答えた。


 だから、エラは言わなかった。


 エラ自身、学院長室で起こった出来事を見てはいなかったが、その時のメルセデスの様子に痛く感動して、ニクラスがしきりにメルセデスに秋波を送っているという事を。


 そして、メルセデスが、イリーネの家の別荘へ行く事を知って、王太子の護衛の一人に立候補したという事を。


 どうせあちらに行けばわかる事なのだし。


 と、エラはひとりごちた。人の色恋は傍で見ている方が楽しい、と、エラは思っている。


 三人が、揃って寮へ戻る途中、イリーネがぱたぱたと駆けて来た。


「あなた達! もう迎えの馬車が来ているわ! 支度はできているんでしょうね!」


 心なしかイリーネが楽しそうなのは、弟殿下に会えるからかしら、それとも、夏季休暇の間も皆で過ごせるからかしら、と、マルガは考えたが、……多分、前者かな、もうひとつの気持ちが、イリーネの中にひとかけらでもあれば、うれしいのだけれど、と、思いながら、イリーネに急かされて馬車に乗り込んだ。


 王立学院に入学して、まだ半年も経っていないのに、心なしか別れが寂しと思うのは、里心がついたせいかしらと、マルガは思った。


 夏休みに向かって、馬車は走りだす。

 イリーネの別荘に、充実した図書室があると聞いていて、どんな本があるかも気がかりだったけれど、夏の間も、メルセデスやエラ、イリーネと過ごせる事がうれしかった。


 そして、ゲルトに会える事も。


 マルガはこの頃、ゲルトの事を考えると、何だか落ち着かない気持ちになっている自分に気づくのだ。その気持ちに、マルガはまだ名前をつけていない。



(終わり)

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