愚かな
“決闘”
古くは海外で、女性の取り合い? だか何かでそういったものが行われていたらしい? というのは知っている。
だが最近私が知っている、いわゆる、ラノベの“お約束”からするならば、
「私、女の子の着替えシーンは見てないよ?」
首を傾げた私に半眼のクレイが、
「……何を言っているんだ何を。そもそもお前は女子だろうが!」
「えっと、ファンタジー世界のお約束、みたいな?」
「……ファンタジー世界ってなんだ。そもそも、泉での女性の入浴シーンを見た場合に起こるのは、動物にされてしまう話だろう!」
「どこかの神話であったような」
「……訳の分からない事を。やはりお前はおかしい。マリアの傍に近づけさせたくないから“決闘”を申し込む。これから放課後だから……学園内の空いている競技場で、戦闘だ。これから申請してくる。その間に着替えていろ」
そうクレイが告げてくる。
だが私は一度も“決闘”をするといっていないので、
「私は、受けるなんて一言も言っていないよ? だから普通に寮に戻って、今日は疲れたから寝ちゃうかも」
「……だったら授業中の模擬戦で仕掛けるが」
「となると、どのみち私との“決闘”はするって事ね。だったら今やっても変わりがないか、じゃあ受けるね」
そう私が言うと、クレイは嗤った。
そして私の持つ杖を指さして、
「“決闘”は学内での戦闘だからその杖は使えないよ」
「そうなんだ、じゃあ……チュートリアル君、杖、預かっておいて」
私は、クロードに杖を渡した。
それにクロードがとても嫌そうな顔になり、
「だから、どうしてすぐ勝手に自分で決めていってしまうんだ」
「だって、“決闘”って言ってるし。後でもされるみたいだから今、倒した方が良さそうだし?」
「いや、でもそうやってすぐ……」
「他にどうすればいいの? 彼、引く様子はないけれど。そして、ここで変なわだかまりを残すよりも、何とかした方が上手く事が運ぶんじゃないかな」
「……力技すぎないか? まあいい、それで……ミドリは勝てる自信があるんだろう?」
「うん」
クロードに即答した私。
クレイは、その言葉にむっとしたらしい。
彼の矜持に引っかかるのだろうか?
彼自身がそこそこ優秀な魔法使いなのかもしれない。
そして私は杖の力を借りているから強いと思っているのかもしれない。
だから杖などの使用は不可のこの“決闘”を挑んできたのだろうか?
「愚かな」
「ミドリ、黒い笑いが出ているぞ」
「ふふふ、私の勝利を見せつけてやるわ」
「ほどほどにしてくれ。後の処理が大変だから」
クロードが疲れたように私に言った。
それから、私はこの学園内に来たばかりなので、学園内の戦闘服がないとクレイに告げると、
「ないのか? あれは魔法防御力が強いから……誰か、貸してくれないか?」
「だ、ったら私が……」
「マリアはしなくていい。誰か……」
そう言い出したクレイに私は手を挙げて、
「別にそんなもの無くても平気だよ」
「……その自信が何処まで本物か見てやろうか?」
「うん、私は普通だけれど普通じゃないからね」
そう答えるとクレイは、苦虫を噛んだような顔になり、渋々といったように頷いたのだった。