招待
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先触れが来たのは、朝だった。
大して寝る必要はないのだが、それでも真理はけだるさを払えずにいる。
ほぼ、起きたままだったのだ。
「と…いうわけだけど……どうする?」
入り口にいるのは、修平。
先触れとやらを、読み上げたばかりだった。
「相手が相手だから、受けるのがいいと思うけどね」
つい昨日、真理は当主にあるまじき失態の数々を、さらけだしたばかりだ。
その時の気持ちの整理など、まったくついていないというのに、また次がくるというのか。
「最後の追記は…なんだ」
眉間に指先をあてながら、真理は不機嫌を冷やかさで吐き出す。
読み上げられた言葉に、とりわけ気に入らない部分があったのだ。
「ああ…憑き魔女も、連れてこられたし、ってところかい?」
修平は、すんなりとそらんじる。
彼にとっては、さして気にならないところなのか。
「珍しい能力って、噂が広まり始めてるからね。物珍しさからだろ?」
言われたら、納得出来ないわけでない。
しかし。
最近、早紀が絡むと本当に、ろくなことが起きないのだ。
海族とのつながりの可能性も、真理のアキレス腱になるだろう。
そんな問題児の早紀を連れて来い、というのだ。
来い、と。
そう真理に言えるのは、彼よりも上の地位の魔族のみ。
上の地位。
それには――極東での力の順位も含まれていて。
先触れを出したのは、イデルグだった。
そう。
我らが極東4thの筆頭。
一番の剛の者からの、夕食への招待状だった。
※
「だが、彼女は正装なんて持っていたかな」
修平が、考え込む仕草をする。
今夜の招待とやらへの、服装のことを言っているのだろう。
前に、真理の当主襲名の挨拶の時、早紀は鎧姿だった。
だから、どんな姿をしていようが、相手には見えなかったのだ。
だが、今夜は違う。
極東1stからの、内々ではあるが招待なのだ。
制服や、普段着で行くわけにはいかない。
真理は、全て用意してある。
父から受け継いだものもあるが、ほとんどが自分用にあつらえたものだった。
だが。
早紀は、人前に出ることを想定していなかった。
元々は、鎧として飲み込まれ、外には出てくるはずのなかった魔女である。
「僕が確認して、準備させようか?」
カシュメル家の後見をやっていたせいか、修平は屋敷内や一族の、こまごましたところまで目を行き届かせている。
任せておけば、無難にこなすだろう。
しかし、問題もあった。
修平に任せれば、早紀の額の傷を見る可能性があったのだ。
普段ならば、早紀はほぼステルスモードなので、気づかれないまま過ごせたかもしれない。
そして、修平が気づいたならば、真理に問うことも考えられた。
印につけられた噛み傷。
「タミに…やらせよう」
真理は、指名相手を変更していた。
まだ、タミの方が御しやすいと思ったのだ。
少なくとも彼女であれば、答えたくないことを答える必要はないし、変な勘繰りをあからさまに見せることもないだろう。
せいぜい、あれを『折檻』のひとつと思うくらいか。
「そうかい? まあでも…カシュメルじゃない者を、余り深入りさせないようにね」
修平の目にも、タミは純粋な妻候補には映っていないのだろう。
連れてきたのは、この男だというのに。
「まめに、実家とやり取りをしてるみたいだよ…普通と言ってしまえば、普通のことだけどね」
一応用心しろ、と。
そう言いたいのだ。
「やり取りを…監視しておけ」
これ以上、面倒を増やすな。
既に、修平が手配しているだろうことは分かっていたが、本音の一部が唇から零れ落ちてしまった。




